「ほら、何をしているんだ、もっと近くに寄せられないかな?
こんなところで油を売っているうちに、貴重な学び場が一つずつなくなってしまうだろう?
そんなことになったら、キミはその責任を、いったいどうやって取るつもりなんだい?」
先に上陸した人が、やや遠めのところから船の操舵手に向かってそう言っていた。
「そうだぞテメー、いい加減なことやってると、いつまでも出世できないようにしてやるから覚悟しとけよ」
もう一人、船に乗っている人が、操舵手に向かってそう言っていた。
「ひええええ! 申し訳ございません! ただいま、急いで接岸作業を行っておりますから、どうか、どうかご勘弁を!」
……つまり、2人の上官らしき人が、1人のボートの操舵手をいじめているようです。
「待て待て、今のはパワハラ発言でないかな?」
先に上陸した人がもう一人の人に疑問を投げかけるようにそう言った。
「言い方が悪いのは認めるが、要は出世に響くってことだ。
そもそもこいつを直接評価するのは俺じゃないんだけどな」
「まあ、そうなんだけどね。
確かに、部下を持つのなら優秀な部下である方がいいね、できれば私の代わりが務まるぐらいの超優秀な部下がね。」
「確かに、お前の”仕事をするうえでの”代行だったらいくらでもできそうな逸材はいるような気もするけどな。
だけどお前の”面倒”代行だけは勘弁してもらいたいな」
「おいおい、”面倒”って何さ、それはいくらなんでもあんまりでないかな。
どういう意味だか後で小一時間問い詰めてやるから覚悟しておけよ。」
なんだか、2人の言い合いになっていた。
「あの! 私はお2人の下で働かせていただければそれだけで光栄でございますので!」
と、言い合っている中で操舵手がそう発言すると――
「まったく、物好きな部下もいたもんだな、俺らについていく部下なんて――」
「確かに。これからキミは類稀なる考えの持ち主として認定しよう。」
もう一人の人と先に上陸した人とがそう言った。それに対し、操舵手は戸惑っていた。
そして、もう一人の人はある程度ルーティス島に接岸すると、
「まあいい。もうそろそろ行くか」
そう言って船から岸に向かって飛び上がってきた。すると、先に上陸したほうの人はおちょくっていた。
「おや、運動音痴なクセしていっちょまえな運動神経してくれるじゃん♪」
「あのな。運動音痴なわけねーし、そもそも、これぐらいわけないだろうが。
んなことより、先に降りたんだから、周りの様子はどうだったか教えてほしいもんだな」
もう一人の人のほうはやや怒り気味にそう言い放った。
「うん、戦禍の島とは思えないほど静かな状況だね、どこかで戦闘を行っているような気配もないし。
それに、周りには誰もいなさそうだ、まったくもって平和そのものだよ、今のところはね。」
先に降りたほうの人はやや得意げにそういうと、もう一人の人のほうは冷静な態度で答えた。
「そっか、じゃあさっさと現場に行ってさっさとけりをつけてくるぞ」
「まあ、言っても敵がいないというわけでもないんだからそうするしかないんだけどね。
さて、そういうわけだから、ちょっくら、行ってくるよ。」
先に降りたほうの人は操舵手に対して再び得意げにそういうと、
「はいっ! ここでお待ちしております! どうぞ、ご武運を!」
と答えたが、しかし――
「は? 今、なんて?」
と、もう一人の人のほうが不思議そうにそう聞き返した。
「……やれやれ、私にはとんだ部下がいたもんだ。
何のためにキミに操舵を任せたのか、考えたことはあるのかい?」
先に上陸したほうの人がそう聞き返した。
「いっ、いえ! 私はただ、お二方のためにと思いまして! それに船の操作は複雑だと思いまして――」
それに対してもう一人の人のほうは嗜めるように言った。
「船の操作程度で困惑するような俺らじゃない。
第一、この手のものについてはこいつはプロだ、お前が心配するようなことじゃない」
と、先に上陸したほうの人を引き合いにしながら言った。
「そうそう、ここには”プロ”と”ヲタク”がいるんだから心配は無用だ。
まあいい、キミに操作を任せたのは他でもない、事と次第を伝えるためにいち早く帰ることだ。
それに、ここも危ない可能性があるから、あちこち出向くのに便利な小ぶりな船もとっとと引き上げてほしいという意図もあるんだよ。
その船はわが軍が所有する貴重な財産の一つなんだからね。」
それに対してもう一人の人のほうが怒りながら言った。
「まあいい……わけないだろ! 誰が”ヲタク”だ!」
それはともかく、操舵手は再び困惑していた。
「で、ですが、あなた方は渡航手段がなくなったら、どうされるおつもりで――」
それに対し、先に降りたほうの人が――
「いいんだよ。私らの心配は今することじゃない。
昔のやり方とは違うんだ、私は私のやり方でやらせてもらう。
とにかく、必要になったらその時に呼ぶから、キミは早く帰ってほかのみんなにこのことを報告するんだ。」
そう言うと、操舵手は元気よく「わかりました!」と答え、そのまま大海原へと船を動かした。
「ったく、いやだねえ、昔のしがらみにいつまでも引きずっているやつってのは。」
先に上陸したほうの人が、やれやれと言った感じの態度でそう言った。
「まあ、人はそう簡単に変わるもんじゃあないからな、すべてはこれからってことさ」
もう一人の人のほうも、やれやれと言った感じの態度でそう言った。
「ふうん、面倒くさいもんだね、だったら引き受けなければよかった、こんな役目――」
「本当にさ。こんなやつが将軍だなんて、他国以前に自分の国を滅ぼす可能性があるもんな」
「あっ、今のはひどいぞ。根暗に言われるだなんて心外だな。」
「根暗じゃねえし」
「だったら自国を滅ぼす将軍じゃねえし。他国も滅ぼさねえし。」
先に降りたほうは自他国を滅ぼしかねない将軍さんで、もう一人の人は根暗さん、その2人は言い合っていた。
将軍さんと根暗さんが言い合っている中、そこへとある人物が姿を現したのである、それは――
「おや、この神々しいまでの神秘的な美女は――」
将軍さんが、その神々しいまでの神秘的な美女の姿を見るや否や、
そう言いながらなんとなく見惚れているような感じだった、
ちょっと違うのだけれども、何といえばいいか――
「おいおいおい、周囲には誰もいないんじゃなかったのか?」
根暗さんのほうは片手で頭を抱えながらそう言った。
「そんなこと言われたってもね、刻一刻と変化する状況まで完全に把握しているわけでもないよ、
流石の私でも、状況を一切把握できてない戦禍の島での動きまで把握するのはほぼ不可能に近い。
でも、いいじゃあないか、キミとしては、こんな美女に迎えられたら嬉しいだろ?」
と、将軍さんが言うと、根暗さんはその美女の姿をきちんと見るや否や、
どこか驚いたような感じで呆気に取られていた。
「……あのさ、この美女、どっかで見たことない?」
根暗さんはそう言って、何かを思い出そうとしていた、すると――
「もちろん知っているよ、幻界碑石を発見した美しすぎる女教授だね。」
と、将軍さんは得意げに言った、そう言われた美女は恥ずかしがっていた、
こんなところにまで来てそんなことを言われるとは。
だけど、その将軍さんがその美女に対して見ているのは、幻界碑石を発見した美しすぎる女教授の姿ではなかった。
「もしかしてだけど、アリエーラさんだよね!? なんだろう、久しぶり――というか、懐かしい感じ――」
そう言われたアリエーラ、とても懐かしい感じがした。しかし、そんなことはないはずである、だって――
「いえ、私たちは初対面のハズですよ、リファリウスさん――」
そう、そのハズなのだが――どうして、自分はこの将軍さんの名前を知っているのだろうか、アリエーラは不思議な感覚に陥っていた。
「は? ”リファリウス”だって? おい”アール”、お前の変装、利いてないんでないの?」
変装? そう言われてみれば、この人のこれは変装だった気がする、アリエーラはそう思った、何故そう思えるのかはともかく。
ヒュウガの言うように、私の知っているその人とは姿形がどこか違う――と思ったのだが、
今度は根暗さんのほうの名前まで知っているとは――アリエーラだけでなく、ヒュウガのほうも驚きを隠せないでいた。
「マジか。こんな美女に名前を知ってもらえるとは驚きだな」
「ホントにさ。他人のことばかりキミのほうこそ、”エイジ”とかいうコードネームなんて機能を果たしてないんでないのかな?」