しかし、アリエーラの美しさがどう持て囃されようと、敵の数は衰えもせず、絶えず侵攻してくるのだった。
ハンターたちは防戦一方、そろそろみんなの疲れも見え始めてくる状態でもあった。
アリエーラ自身も、膨大にあるはずの能力を、ほかの人のフォローに回ったりすると、それだけで負担になる。
1回1回では大したことではないけれども、それは基本戦術として大きな力を展開しながらの出来事、
塵も積もれば――アリエーラへの負担は言うに及ばずだろう。
「ダメだ、これ以上はこっちが持たないな……、いったん退くしかあるまい――」
アリエーラの能力にも衰えを見せ始める頃、バランデーア側の攻撃を無効化する力もさることながら、
反撃の魔法による殲滅力も落ちた結果、連中の進攻を許してしまう、それを見ながらデュシアがそう言った。
ハンターたちはいよいよ劣勢に追い込まれていったのである、もはやこれまでか。しかし、アリエーラは――
「いえ! ここを破られると、ルーティスは後がありません!」
そう、まだ諦めるわけにはいかない――アリエーラはそう言うと、
まだまだ身体の中から魔力があふれ出てくるような感じがした。
その力によってハンターたちの体力も回復し、もう少しだけアリエーラに付き合うことになった。
しかし、それも長くは続かず、アリエーラにも本格的に限界が近づいていた。
もちろん、他のハンターたちも――
「アリエーラさん! そろそろ退きましょう!」
一人の男ハンターがそう促したが、アリエーラは――
「ここを守らなければ! ルーティスの、学生たちの未来がなくなってしまいますので!」
そう、アリエーラとしては何が何でもここを守り抜かなければならないわけがある。
楽しかったルーティス学園での生活、ここに住を提供してもらい、
多くのことを体験し、楽しく過ごしていたあの日々――
そして、ここで知り合った多くの学生たち、多くの人たち。
今でもこうしていると目に浮かぶ、あの楽しかった日々、出会った人々の笑顔、アリエーラだけの思い出。
年少クラスの子たち、みんなちゃんといい子にしているかな。
小・中学校クラスの子たち、今でも元気しているかな。
高校クラスの子たち、ちゃんと勉強しているかな。
そして――大学生クラスの人たちや、教員・教授、学園のスタッフのみんな、
どうか、どうか無事で、無事でいるだろうか――
「ここだけはどうしても守らなければいけないの!」
アリエーラはハンターたちに改めてそう言い張った、ここは絶対に守り通さなければいけないのよ!
ルーティスは以前も戦場となって復興の目途が立っていない様子ではあるけれども、
それでも、この大切な大切な学び場だけは何としても守らないといけないのよ!
すると、アリエーラの脳裏には、別の光景がよぎった――
それは、アリエーラがルーティスでエンビネルたちと初めて会った時の話だった。
よく覚えていなかったハズの出来事だけど、今になって急にあの時の記憶が鮮明に思い出されたのである。
その時はまさしく、あのバランデーア軍の前身となるグレアード軍、
因縁の相手となるそいつらが侵攻してきた時の話だった。
「エンビネル、これ以上はこっちが持たない! いったん退くぞ!」
「それはダメだ! ナキル、ここの砦を破られるとルーティスは後がなくなる!」
ルーティスは後がなくなる――そのエンビネルの熱意によって、
ナキルやほかの魔道士たちも、その信念を貫くため、この場を守り通すことにしたのだった。
「ここを守らねば、ルーティスの、学生の未来がない――」
だが、彼らも限界が近づいていた。そのため、既に倒れる者も出始めている頃だった。
「これまでか、グレアードの植民地となれば……我々の未来は断たれたも同然――」
しかし、ナキルは何かに気が付いて叫んだ。
「なんだ、あの大きな鳥は――」
そうだ! 大きな鳥だ! アリエーラはようやく思い出した、
あの時の大きな鳥を召喚したのは紛れもなく自分だったことを――。
あの時は無我夢中で、自分が持てる力で何かを守りたかった、それだけだったのだ――
「アリ! 大丈夫!? しっかりして!」
アリエーラがその場に呆然と突っ立っていたため、異常を察したデュシアはアリエーラに声をかけた。
するとアリエーラは我に返り、デュシアのほうへ向き直り、謝っていた。
「えっ!? あっ、すみません! ごめんなさい!」
「もう、しっかりしなさいよ!
それよりもとりあえず、今は一旦退くよ! ここはもう危ない!」
デュシアはアリエーラにそう言うが、やはりかたくなに拒んだ。
一旦退く、アリエーラはやっぱり今のこの状況でそれを選択することはできなかったのである。
「こんなところで死ぬ気? いいから、早く逃げるよ!」
それでもアリエーラは諦めようとはしなかった。
「気持ちはわかる、私だって、ルーティスを守りたいのは山々だけど、今はこれ以上手がないんだ!
チャンスはいくらでもあるハズさ、だから、今は一旦退こうよ!」
デュシアはさらに説得を試みるけれども、アリエーラはどうしても諦めようとはしなかった。
しかし、そうこうしているうちに――
「おっ、おい! マズイぞ! 迫撃砲だ! こっちを狙っているぞ!」
別のハンターがそう言って2人に注意を促した。
これまでよりも大きな砲撃の雨が降ってくるこの状況――そんな、こんなの、こんなのって――
するとその時、アリエーラの感情は爆発し、それと同時に身体の奥底からものすごい力が沸き上がってきた!
「そんなことは、この私が許しません!」
アリエーラは類を見ないほどの厳しめの表情にやや強い口調でそう言い放ちながら自らの魔力をさらに増幅させ、力を引き出した。
「えっ!? アリ!? この子のどこにこんな力が!?」
増幅した力でシールドを再び展開、デュシアはアリエーラの様子に圧倒されていた。
「このシールドであの砲撃を防ぐのはムリだ! デュシア、その子を置いて早く逃げよう!」
男ハンターがデュシアにそう促すが、デュシアもアリエーラを諦めることはできないでいた。
「そんな! そんなことは私にはできない!」
すると、アリエーラも攻撃を防ぐのは無理だということは承知していたようで、
展開したシールドに重なるように、また別のシールドを展開していた。
「うん? この防護壁は!?」
そのシールドは、まるでオーロラのカーテンのような防護壁だった。
そして砲撃は、まるでカーテンに吸い込まれるかのように消えていった。
「なんだと!? あれほどの威力を持つ砲撃の嵐でさえ、彼女の魔力には通用しないということなのか――」
男ハンターは驚いていた。さらに――
「おい! あの白の鳥は? 召喚獣か?」
別のハンターが白の鳥の存在に気が付いた、白の鳥はどこからともなく現れると、
ハンターたちの頭上を飛び交っていたのである。
「いや、あんな召喚獣は――見たことがないな」
召喚魔法にも詳しいハンターがそう言った。
だが、その鳥は紛れもなく召喚獣であり、その使い手は当然――
「神獣”ヴァルキリー・フィール”! 仇成すものすべてを、天の裁きで吹き飛ばして!」
そのアリエーラの声に反応したヴァルキリー・フィールは、大きな縦円を描くように飛んだ。
その速度、まさに光速の如きとてつもない速さだった。
さらに、その円の内部から次第に数個の強大な光が発生し、
それらはレーザーのごとく、バランデーア軍めがけて次々と放たれた。
そして、最後に……一本の極太のまばゆいレーザーを放ち、バランデーア軍を凄まじいパワーで浄化した。