当然ながら、一国の軍隊が一つの大帝国の勢力を破って進軍してくるわけなので、
それに対して少数で相手しようだなんていうことは不可能に近い。
そのため、今回のルーティスでのこの作戦はあくまで一時的なものである。
その間、ルーティス政府側では別の勢力に掛け合い、協力を要請しているところなのだ。
とはいえ、それがいつになったら決着するのだろうか、現場のハンターたちにとってはそれだけが気がかりである。
「さあて、役人の考えることだから、私にはわかんないね。
ま、せいぜい野垂れ死にしない程度に頑張るよ。
アリもだよ! 死んだら元も子もないからね!」
デュシアはそう言った。
もちろん、アリエーラとしてもその点には異存はなかった。
手薄になっているルーティス南側からバランデーア軍が本格的に上陸をはじめると、
いよいよルーティス側でなんとか用意できた兵力との衝突が始まった。
戦いについては防戦一方だったけれども、それでもなんとか戦線を維持していた。
その切り札が、やっぱり私なのでしょうか、アリエーラはそう思っていた。
「デュシア! アリエーラちゃんの後ろにいったん隠れろ!」
男ハンターがそう促すと、デュシアは激怒しながら言い返した。
「”ちゃん”付けすんな! 卸すぞ!」
確かに、めったに”ちゃん”付けされるのもあまり嬉しいものではない。
「アリ、まだいける?」
デュシアは他のハンターたちがアリエーラの背後に引き下がるのを確認すると、アリエーラに促した。
すると――
「はい! お任せください!」
私は防護の呪文を構え、その場に強力なシールドを展開した。
するとなんと、そのシールドによってバランデーア軍の砲撃は完全にかき消された。
「……相変わらず同じようなことを言うようだが、彼女の能力は本当に強いよな。どこで覚えてくるんだ、こんな呪文――」
例のリーダーの男がアリエーラにそう言って感心していた。
彼との仕事は初めてではないこともあり、彼はアリエーラの能力を既に体感していたのである。
「うまい具合に敵がまとまった! アリ! 今だよ!」
デュシアはバランデーア軍側の様子を見ながらアリエーラにそう促した、敵は一か所に集中しているようだった。
アリエーラはそれに対し、また別の呪文を発動するため自らの魔力を展開した。
「押し流します!」
アリエーラは魔力から激流を繰り出し、バランデーア軍を巨大な津波で押し流した!
「ひゃー! すっげぇ魔力! こいつは相当な使い手だなあ!」
「そうだよ。アリはすごいんだよ。下手にちょっかい出して痛い目見ないように気を付けときな」
「おっ、おう、でも、アリエーラちゃん優しくてキレーだから、そんなことは――」
「だから”ちゃん”つけるのやめろって言ってんだろ! シバくぞ!」
アリエーラの後ろで、デュシアと男ハンターが言い合いをしているが、アリエーラの耳には入っていなかった。
数日後、いくらアリエーラが強大な使い手だとしても、
それでも人手が足りてなかったため、ルーティス側で応援要請をしていたハンターが続々とやってきていた。
それでもバランデーア軍側の人の数も途絶えることなく、むしろ増える一方だった、もちろん物資も――
やっぱり、バランデーア軍は今回でルーティスでの戦いを最後にするつもりなのか。
今までの数に比べると今回の規模はそれ以上、これまでの戦いで疲弊しているルーティスや近隣諸国の物量で圧していくのは難しいのだろうか――
しかし、それでも、ハンターたちの布陣では戦術の変更がなかった。
適当に相手を牽制し、おびき寄せる。
そして、相手の集中砲火をアリエーラがシールドを展開して無効化、
続けざまに敵がまとまっている所に向かって大魔法を発動する。
アリエーラに負担がのしかかる作戦になっているが、彼女はそれほど負担に思うほど気にはしていなかった。
それに、ハンターが増えた分だけ囮が増え、敵の一か所集中がやりやすくなっていたため、作戦としては申し分ない。
だが、それでも彼女の能力は無限のものではない、これがいつまで続くのだろう。
「なんだよ、誰がアリエーラさんのことをお嬢様ハンターとか、アイドルハンターとか言って侮蔑していたんだよ。
彼女のほうが絶対的に強いじゃないかよ、まったく――」
と、とある男ハンターが言うと、別の男ハンターがやや興奮気味に言った。
「お嬢様ハンターもアイドルハンターも侮蔑語じゃないぜ!
綺麗なアリエーラちゃ……さんを称える最高の敬称だぜ!」
すると、周囲はそれに賛同し、囃し立てていた。それに対し、とある男ハンターは――
「すまんなアリエーラさん、変な連中が多くて――」
と、アリエーラに対して申し訳なさそうな態度で謝ってきた。
「いえ、私は気にしませんよ――」
アリエーラは周囲のガヤに対して戸惑い気味な様子でそう返事した。
確かに、ルックスを褒めてもらえること自体はとても嬉しいので、それについては構わない――のだけれども、
それでもやはり調子に乗って囃し立てられるのは――