エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第1部 先の見えぬ旅路 第2章 遠き旅路

第24節 敵の狙い

 召喚魔法研究棟の内部をよく知るアリエーラは、デュシアをはじめとする、 スクエアから来たハンターの一団をその建物の中に招き入れ、まずは一番広いリフレッシュ・ルームへと案内した。 アリエーラにとってこんな大事な場所を有事のために提供するのも心苦しいのだけれども、 だけど、ここだけは絶対に守るんだという思いのほうが強かったためか、 ここを今回の活動のための拠点として利用することを提案した。 他にちょうど良い建物がなく、召喚魔法研究棟というだけあって特殊な力で守られているため、 その提案はすぐに受け入れられた。
 研究棟の研究資料などはそのまま手付かずの状態で保存されていた。 こういった貴重なルーティスの財産、ここが別の組織に取られてしまっては――大変なことになる。 それだけは何とか避けたい。
 そこで、スクエアの政府より、ハンターズ・ギルドに対して仕事を依頼したのだ。 内容についてはある程度説明の通りだが、 今現在、ルーティスは別の国の軍隊――ランスタッド軍を退けたバランデーア軍が、 そのまま侵略しようと迫ってきているという。 ルーティスは先の戦争により消耗しきっているため、隣国などに協力を要請している状況が続いているが、 今現在協定を結んでいるセラフィック・ランド連合国の軍と合わせても兵力が足りず、 迎え来る軍に対抗することができない。 そのため、ハンターにも協力を要請したい、とのことだ。
 敵はバランデーア軍、以前はグレアード軍、少し前にはアレンヒル軍と名を変えてルーティス侵略を企んでいた国、 そう、この国は、ルーティスを何としてでも侵略しようと力を入れているのである。 以前もルーティスを戦場に、そして、ルーティスを戦争拠点に置いたディスタードのランスタッド軍もバランデーア軍に苦戦し、 そして、今や、立て直しすらもままならない状態。
 そこで、今宵もまたバランデーア軍を撃退するため、アリエーラたちは立ち上がったのだ。

「昔の大戦もひどかったけど、ルーティスはその最後の戦場か。 しかし、バランデーア帝国軍も懲りないな、いい加減諦めればいいのに――」
 リフレッシュ・ルームにおいて、デュシアがほかのハンターと話をしている。 アリエーラは少し離れたところからその話を聞いていた。
「バランデーアにとってルーティスはセラフィック・ランドやディスタード、 それからクラウディアスを落とすための攻略の要所になる場所だからな、何が何でも抑えたいんだろう」
 デュシアとの話の相手はスクエアから来た男ハンターだ。 軍人気質な印象を受けるが、元軍人であり、他の男ハンターと違って調子のいいことは言わない、 アリエーラにとっては”いい人”の部類に当てはまる貴重な存在である。
「でも、その割にはディスタードって薄情過ぎない?  結構規模の大きい国のくせに、ランスタッド軍の物資や人員の貧相さには参ったよ」
 えっ、ディスタードが、バランデーア軍との戦いで手を抜いている?  アリエーラは疑問に思ったので訊くと、デュシアが答えた。
「ああ、そうだよ。ディスタード帝国って国はろくでもない国さ。 バランデーアもひどいが、ディスタードも、そこにいる四将軍も皇帝も、 揃いも揃ってろくなやつでないからかなりひどくなっている。 周辺諸国を全部統一して強い国を作ろうって謳っているけれども、 その実態は周辺諸国への侵略が目的なんだよ」
 ディスタードはその当時から評判の悪い国だった。 特に、ディスタード本土軍はクラウディアスへの侵略の準備を進めているといわれているが、真相の程は定かではない。 以前はディスタード北東部にあるルシルメア大陸の陸繋島やその周辺を植民地化していたエダルニウス軍を撃退するために戦ったこともあるが、 予想以上の苦戦を強いられたため、ディスタード・ヘルメイズ軍を新たに設立させ、その作戦を行わせたという。
 ディスタード・マウナ軍といえば、ディスタードの南東部諸国を制圧するため、帝国の南東部に設立された。 特に、南のアルディアスと長らく戦いを今もなお繰り広げていることについては誰もが知っていることである。
 それからディスタード・ランスタッド軍。 元はルシルメア大陸の中央部にあるルシルメアを侵略することが目的だが、 ルーティスとは大昔の旧ディスタード王国時代からの関係を続けており、これまでの作戦が展開されていた。 しかしここ最近、ランスタッド軍の話については全く耳に入ってこなくなっている、 ランスタッド軍は崩壊してしまったのだろうか?
 もとい、ディスタードは周辺諸国を侵攻しているだけあって、 実際のところ、バランデーア軍相手にマトモに相手をしている暇はない状況である。 そもそも、バランデーア軍の規模はディスタード軍全体の規模に比べればはるかに小さいことから、 ディスタードがまともに取り合おうなどとは考えておらず、はたから見てもわかりやすいぐらいに手を抜いているのだという。
「以前の王国時代とは本当に打って変わってって感じだよな。あの頃のディスタードに戻れればな――」
 ディスタードは帝国国家を築き上げる前の王政国家だったほうがよかった、そういう意見は多い。

 問題は、ハンターの数をもってしても、バランデーア軍に対抗するのは難しいということだ。 バランデーア軍もそれだけの物資も人員をどうやってかき集めているのだろうか。
「うーん、あの国はねえ……どうなんだろ」
 デュシアがこう言うように、実はよくわかっていないという。 ただ、噂はあるもので、”バランデーアにはこれしかないのだろう”というのが国際的な見方でもある。 つまり、手段とか、そういうものは特になく、ありったけの勢力をぶつけてきているということである。 今回はランスタッド軍を退けたぐらいの勢力ということから、 今回の戦いは、もしかするとバランデーア軍の最後の侵攻である可能性が高いようだ。
 しかし、本当にそうなのだろうか? 確かに、物資も人の数も乏しい国で、 あんまりこれといった手があるように思えないほど、周辺諸国からも切り離されている独裁国家だと言われているが、その真相は?  一応、ここまで戦ってきている国なのだから、何かあるはずだ。
「何かあると言えば、戦い方だろうな。 あそこには知将ガルマンデという実力者が参謀にいるからな、あいつは結構なクセ者って言われているぜ。 これまでの策も多分やつの戦術に違いないだろうな――」
 と、他の男ハンターが言った。 実力を持つ者が戦術そのものを操っているということなのだろうか。