話は続く。エステリトスがあの屋敷に住み着いたのは15年前である。
しかも当時はアリエーラが全く把握していないフェニックシアの消滅事件とも重なり、そのことについて話をしていた。
「それにしてもどうしてあの屋敷に幻獣が住み着いたんだろう?」
デュシアはそう言うと、アリエーラは「訊いてみます?」と促した。
「えっ、訊いてみるって言ったって、こんな人目につく場所で呼んじゃったら――」
と、デュシアは言うがアリエーラは――
「彼女は”ルスト・ティターン”の住人なので、多分人目に付いたところで問題にはならないでしょう。」
それについてデュシアは指摘した。
「そうそう、それそれ! その、”ルスト・ティターン”って何? 幻獣の住む――所謂”幻界”という場所と何が違うの?」
アリエーラは説明した。
幻獣の住むのは一般的には”幻界”と呼ばれている、それは間違っていない。
しかし、それは”幻界”全体を示しているのであり、実際の幻界は5つの精神構造の異なる世界で分割されている。
そして、その5つの世界の中にそれぞれ異なるタイプの幻獣が存在しているのである。
「それってのはつまり、”幻界”という世界の中に――この世界で言えば5つの大陸に分かれていて、
それぞれの大陸で異なる幻獣が住んでいると、そういう理解であってる?」
それに対してアリエーラは頷いた。
「イメージとしては大体あっています。厳密に言うとそれぞれの精神構造の異なる世界――世界観ともいいますか、
とにかく世界そのものが違うようにもなっているため、それぞれ別の世界として扱われているのが一般的です。」
世界の上に5つの異なる世界とはややこしいな――デュシアはそう思ったが、
まあ、そういうものなのだろうと思って受け止めた。
「で、その5つの中の一つに”ルスト・ティターン”という世界があるわけね?」
デュシアは訊くとアリエーラは答えた。
「そうです。実際には”ルスト”という世界があり、その中に”ティターン”という世界がある、ということです――」
またややこしい話だった、世界の中に複数の世界が、さらに世界のその中にまた複数の世界があるのか――
「つまり幻界にはルスト大陸があって、ルスト大陸の中には複数の国があり、その中の一つにティターンという国があるってわけね――」
つまりはそう言うことである。
そして、ここで”ルスト・ティターン”の住人だと何故大丈夫なのかという話になってくるわけだが、
それについてアリエーラは説明した。
「”ルスト・ティターン”の幻獣の大半は私たちの姿とそんなに大きく違う見た目ではないのですよ。
それこそ、中には使い手と幻獣とで体格がほぼ同じだったため、服の貸し借りをしたこともある方もいらっしゃるそうです。
しかも使い手と幻獣とで愛し合い、添い遂げたことがあるというエピソードだってあるようなんですよ!
素敵な話ですよね!」
そ、そんなこともあるのか、デュシアは呆気に取られていた。
そもそも”幻獣”――一般的には召喚されて出てくる獣のため、”召喚獣”と言われることのほうが多いけれども、
イメージとしてはドラゴンや大きな魔獣と思しき獣など、そちらの印象のほうが強いのに、まさか人間と寸分たがわぬ姿という者もいるとは。
ちなみに、他の4つの世界には獣系の幻獣の住まう”カロス”、
悪霊系や不死系の住まう”ボアズ”と”バロス”、機獣系や魔法生物系の住まう”ゼノス”という世界があるという。
なお、ここで話すとまたややこしくなるけれども、”ルスト”だから人型、つまり鬼系しかいないとか、
”ゼノス”だから機獣系や魔法生物系しかいないとか、
そういうわけでもないらしい、要は、多少の”揺らぎ”というのがあるということらしく、
言い方としては”ルスト”だから鬼系”が多くいる”という言い方が正しいらしい。
話を戻そう。
「実際に見てみます?」
アリエーラがそう言うとデュシアは頷いた。
すると、エステリトスはいきなりレストランの入り口から入ってきた!
「えっ!? どうして!? どういうこと!?」
デュシアは困惑していたが――
「あら、奇遇じゃない? ここの席、空いているようなら私も混ぜてくださらない?」
ウェイターの呼びかけを無視しながら真っ直ぐ2人のいるところまでやってきたエステリトス、
アリエーラは楽しそうに席を譲ると、エステリトスは言った。
「お茶でも飲んでいいかしら?」
その問いにアリエーラは「どうぞ!」と楽しそうに言った。
そして注文を受けたウェイターはその場を後にした。
その様に対してデュシアは――
「確かに――これではあまり私らとは見分けがつかないな、野郎が”その気”にもなるわけだ。
しかし、まさか噂の幻獣というものをこうして間近で見ることになるとはな――」
エステリトスは基本的にビキニスタイルの装いで身体の随所にタトゥーが彫られているのだけれども、
使い手のアリエーラの意志に反応したのか、その上からガウンを羽織っていて露出を押さえていた。
さらに長い髪と輪っかのような装飾が織りなすド派手な頭部はそのままだが、それがとても印象的だった。
また、瞳も普通の人間にはないような印象で、どことなく人間離れしたような感じがする見た目だった。
「ふふっ、ここのお茶はおいしいわね、少し騒がしいのが心残りだけど……ま、久しぶりだからたまにはこういうのもいっか♪」
エステリトスはなんだか楽しそうだった。
ところで、何故店の入り口からエステリトスが現れたのかアリエーラに訊いたデュシア、
アリエーラは「店に入るのですからそのほうが自然じゃありません?」と答えた。
いや、確かに、確かにそうなんだけれども――この娘見た目の割になんか妙な娘だ。
話は15年前のこと、これから話す内容についてはデュシアも当時のことを覚えていた。
「15年前のクラウディアス……確か国王のリアスティンがセラフィック・ランドを脅かす驚異がどうのと言っていた話よね。
その最後のオチがまさかフェニックシア消滅だなんて誰も考えていなかったことだよ」
そう、当時のことを知っている人であれば誰もがこの話をする。
フェニックシアの消滅はクラウディアスの調査団が消えてから7年後の出来事、つまり、今から8年前である。
フェニックシアの消滅以前、予兆なのかどうかは定かではないけれども、
セラフィック・ランド全体でおかしなことが起こっていたらしい。
「当時は昔の大きな戦争時代並に慌ただしくてね、ほとんどの者が戦地に繰り出されたんだよ」
そのようなことが起こっている中でその原因について本格的に調査しようとしたのがクラウディアス王国だった。
その先発隊のメンバーにはエステリトスの前の使い手であるセディル=スタイアルが選ばれた。
「彼女は勇猛果敢でそれはそれは優秀な使い手だったのよ。あの剣の腕と共に戦えて本当に光栄だったわ」
と、エステリトスが言うとそれを聞いたデュシアは感心していた。
「召喚士なのに剣の技も冴えるのか、まさにアリみたいね――」
しかしその考え方は違っていた。
「文献によると、クラウディアス王国は古来よりどのような方でも召喚魔法を使うことができたと言われています。
もちろん、王の側近だろうと重剣や重盾を持つ兵士だろうと関係なくですね。
ただ、それが15年前のクラウディアスでもそうなのかについてはまったく情報がないので、
同じことが言えるかどうかはわかりませんが――」
アリエーラはそう言うとデュシアは舌を巻いていた、流石は召喚王国というだけのことはある。