エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第1部 先の見えぬ旅路 第2章 遠き旅路

第20節 屋敷の真相

 アリエーラはデュシアのところへと戻ると、 カタストロフィに重力解放をやめるように言った。
「くっ、このバケモノ……ん? あれ――まさかアリ!?」
 デュシアは正気に戻っていた。
「このバケモノは――アリが呼び出した幻獣だったのか」
 カタストロフィは身体を揺らすと、まるで手を振るかのようなそぶりでそのまま姿を消していった、幻界に帰ったのである。 カタストロフィは見た目の印象こそちょっとアレだが、仕草が何気に可愛い幻獣としても有名なようだ。 しかし、例のルーティスの一幕にもあったように、想像を絶する破壊の力を司る幻獣であるため、 扱いにも注意が必要である。
 しかし、さっきもう一体のバケモノがいたことをデュシアは訴えた。 だがそれは幻、エステリトスが作り出していたものだったことをアリエーラは伝えた。
「ということはつまり、幻獣エステリトスは自らの身を守るため、 この屋敷の侵入者を同士討ちさせたり、自らを殺害させたりして翻弄していたというのが事件の真相――」
 ということで結論が出た。 もちろん20年も前のそれについてはほぼデマのような内容であることはデュシアも納得していた。 しかし、20年前の真相については、エステリトスが信憑性の高そうなエピソードを物語っていた、それは――
「”賊”の可能性?」
 アリエーラの言ったことに対してデュシアはそう訊き返した。
「エステリトスは15年前になんらかの事情でこの廃屋同然の屋敷に住み着くようになりました。 でもその当時、この屋敷には元々別の住人、つまり、盗賊みたいな人達がいたみたいです。 ところが盗賊は幻獣と言えど、見た目はやはり色っぽい感じの女性ですから、その――」
 と、アリエーラは話をつぐんでしまった。デュシアはそれを察し、呆れたような感じで話を続けた。
「なるほど――早い話、エステリトスはアリエーラみたいに男が集りやすい女、 要するにそう言うことだな……まったく、男ってやつは――」
 それで幻獣エステリトスの逆鱗に触れた賊たちはその生涯を終えてしまったようである。
 さらにもう一つ、最近になって妙な物音がするという話についてはフェニックシアが消滅したことに端を発するらしい。 あの一件以来、各地の魔物が異常行動を示すようになったらしいが、 それと同時にエステリトスもフェニックシア消滅による力場の大きな乱れが原因で、最近になってすごく頭が痛いと言っていた。 その悶えよう、部屋中駆けずり回るほどの辛さだったという。
 と、いきなりフェニックシアと呼ばれる場所が消滅したという突拍子もない話が出てきたのだけれども、 その話は結構有名な話であるため、言うほど驚くほどのことではなかった、本来であれば。 しかし、それほど有名であるにも関わらず、アリエーラはそんな話を今まで一度も聞いたことがなかった。
「それでエステリトスはどうした?」
 デュシアはそのエステリトスの現状について訊いてきた。もちろんアリエーラは召喚士でもあるため――
「ええ、エステリトスとはあの場ですぐに契約し、力を貸していただけることになりました。 既に以前まで存在していた使い手の手から離れ、本来は幻獣界に帰るべき存在のハズですが、 以前の使い手からどうしても誰かに伝えるべき内容があると言って未だに帰らずにいるようなんです。」
 まさに、それこそが根本的な問題だった。 使い手の手から離れると、幻獣は通常そういった行動を起こすことはない。 が、現にそういう行動を彼女が行っているのは、一体どうしてなんだろうか。

 とりあえず、ハンターの仕事の終了報告を早々に済ませるため、 2人は朝食をとったレストランでお茶をしながらレポートを作成していた。
「レポート書かせるなんてごめんね、でも、アリの字ってとってもきれいね!」
 デュシアはアリエーラの書いている字を絶賛していた。 アリエーラは嬉しそうにレポートを書き上げていた。
「字をほめていただけるなんて嬉しいです!  レポートのことはお気になさらず、以前はルーティスでも似たようなことをしていましたから私にお任せくださいな。」
 と、得意げに言うアリエーラ、続けざまに言った。
「やっぱり手書きのレポートを書くってなると、きちんとした字で書かないといけないですよね――」
 それに対してデュシアはそういうものなのだろうかと訊き返した。
「私の”とある友人”がこういうことを言っていたんです、”下手な字を書くと恥もかくことになる”って。 その友人も私のことを絶賛してくれているのですが、だからこそきちんとした綺麗な字を書いた方がいいよって言っていました――」
 デュシアは納得した。
「なるほど、アリの記憶の隅っこにいるらしい、謎の大親友さんの受け売りだったのね。 それにしても、あなたのご友人はうまいこと言うのね、下手な”字を書く”と恥もかく(は”じもかく”)ことになる、か――」
 そうこうしているうちにアリエーラはレポートを書き上げた。
「こんな感じでよろしいですか?」
 アリエーラはレポートをデュシアに見せた。 デュシアはアリエーラの綺麗な文字に魅入りつつも、内容をしっかりと読んでいた。
「そうね、幻獣関連の事情についてはよくわかっていないけれども、アリが言うんじゃあ間違いないのよね。 だったらこれでいいんじゃないかな?」
 今回の依頼は大型窓口経由のため、終了報告の際にはレポートの提出が必須となっている。 通常窓口の場合は伝聞による報告のみのためこのような流れにはならない。
 そして、当然ながら大型窓口の依頼のほうが報酬も高くなっている。特に今回の件は特別料金である。
「それにしても、今回の件は本当にアリがいてくれて助かったよ。 私ひとりじゃ解決できない案件だったわね。 もちろん、その場合はまたギルドに持ち帰りになるんだろうけれども、 女2人で解決して、女2人で報酬を山分けできるなんて嬉しいわね。 まさにガールズ・パワーって言ったところ?」
 確かにその通りのような気がしたアリエーラだった。
「ゴメン、山分けってないわよね、今回はアリの大活躍だって言うのに……」
「いえ、そんなお気になさらずに、山分けでいいですよ――」
 何とも欲のない彼女、これじゃあ人気もあるわけだ。