エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第1部 先の見えぬ旅路 第2章 遠き旅路

第19節 謎の正体

 気が付くと、アリエーラとデュシアは互いに剣を取り合い、2階の広間で何故か互いに戦っていた。
「えっ!? えぇっ!? ちょっと、一体何!? なんなの!?」
 アリエーラは突然の出来事で困惑していた。だが、デュシアは――
「死ね! 死ね死ね! バケモノめがぁ!」
 なんと、アリエーラに対して敵意むき出しで襲い掛かっていた!
「ちょっ、ちょっと! デュシアさん! 一体どうしたんですかっ! しっかりしてください!」
 ところが、デュシアは一切聞く耳持たないという感じである、どうしたものか――
「デュシアさん!」

 あっ、そういえば――アリエーラはこの状況下であるにも関わらず、冷静になって考え始めた。
「お化けかどうかはわからないが、何やらとんでもないのがいるらしい。 この屋敷に面白半分で行ったというバカなやつ―― 行くなと言われているのに肝試しとかそういう輩なんだそうだが、 そいつが死んでいたという話もあるぐらいだ、それもとんでもない死に方をしているみたいでな――」
 ここに来る前にデュシアが言っていたことを思い出した、とんでもない死に方――それは――
「警察の調べでは、どうやら自傷を繰り返し、挙句、自ら命を絶ったという死に方だったそうだ。 だから――それでここは”呪われた館”と呼ばれるようにもなった――という話だ」
 自傷を繰り返した挙句、そのまま自殺を図ったということ。 それってもしかして、一緒に来た仲間と同士討ちをする可能性もありうるってことなのかもしれない。 それにこの状況――
「このバケモノがぁ! さっさとくたばりやがれ!」
 アリエーラは”絶級ウィング・マスターとは”を体現するかの如く、デュシアの攻撃を軽々かわしていた。 なるほど、デュシアの目には、どうやら自分の姿が本当にバケモノに見えているのだろう、そんな印象だった。 恐らく精神に作用する魔法なんかをかけられていて幻惑でも見させられているのだろうか、 そう考えると10年前の事件の真相も、そして今のこの状況も説明が付きそうだ。 いや、20年前の事件は? 20年前は――恐らく違う問題だろう、 20年前のはあくまで都市伝説みたいな内容のためこの状況とは別だ、アリエーラはそう考えた。
 それにしても精神に作用する術を持つ者がいるとはなんだか面倒なことになってきた、アリエーラはそう思った。 それほど珍しくはないといえばそれも確かだけれども、デュシアの様子を見るや否やかなり強力な術であることは大体わかった。 デュシアは完全に自分をバケモノだと信じ込んでいる、そしてここまで殺意むき出しの状態ということは、 幻覚による効果で完全に我を忘れている状態であるということ、ここまで彼女を変貌させられる能力者と考えると――
 その時、アリエーラは閃いた、そうだ、あれはルーティスで幻界碑石の研究をしていた頃の話、 幻惑で相手の精神に作用する術を持つ幻獣の話を聞いたことがあった。 クラウディアスの使い手の中にはそのような幻獣の使い手がおり、 それが今からちょうど15年ぐらい前にその幻獣の使い手が消息を絶ったというような内容を知り得たのである。
 そして、その幻獣の使い手はクラウディアスの近衛兵の一人であるセディル=スタイアルという人物だそうだ。

 もしやと思い、アリエーラはデュシアを適当にあしらって再び左塔の最上階へと向かうことにした。
「待てバケモノ! どこへ行く気だ!」
 しかし、デュシアは全く逃がしてくれそうになかった。 こうなっては仕方がない、アリエーラはその場に一旦とどまると、 左手から強力な魔法を生み出し、その場に魔法を落とすように地面に設置した。 すると、その場にはいつぞやのおどろおどろしい黒い炎のようなシルエットの球体が地面の中から現れた。
「なんだと!? バケモノが2匹!?」
 デュシアはその様子に驚いているようだが、アリエーラはそのすきを見計らい、 改めて左塔の最上階へと向かうことにした。
「なっ! こら、待て! バケモノめ!」
 逃げようとしているバケモノにすぐさま反応したデュシア、その後を追おうとしたが――
「カタスト! 重力解放! 足止めお願い!」
 アリエーラがそう言った途端にデュシアにかかっている重力が突然消えてしまった!
「なっ、なんだこれは! 何をしたバケモノ! 待て! どこへ、どこへ行く気だ!」
 デュシアは重力の檻から解放されて地面から浮き上がってしまっていた。 まったく身動き取れない状態の彼女をしり目にアリエーラはそのまま左の塔へと向かった。

 そして、左の塔の最上階の部屋にて、その存在は豪華そうな肘掛椅子に色っぽく鎮座していた。
「あらら、全部バレバレだったのね。 そうよ、私は”ルスト・ティターン”界の住人、端的に言えば”幻獣”と呼ばれる存在よ。 それにしても私の術が通用しないだなんて、あんたなかなかやるじゃないの」
 そいつはアリエーラが扉に入ってくるとすぐさまそう言った。 そう、その存在は――彼女は”エステリトス”と呼ばれる幻獣、 幻獣の住まう”幻界”の中でも”ルスト・ティターン”と呼ばれる世界に住まう幻獣の一員である。 見た目は人間の女性に近い姿をしているが、それでもれっきとした幻獣と呼ばれる存在である。
 そこで、アリエーラは思い切って訊いてみた。彼女について気になることがあったからだ。
「エステリトス、あなたが契約を交わした主の中にはセディル=スタイアルがいたはず! セディルはどうしたの!?」
 いや、セディルもそうだけど、そもそも訊かなければならないことがあった。
「クラウディアスはどうなっているの!? 主の主、つまりクラウディアス王のリアスティンはどうしたの!?」