最近になって夜な夜な妙な物音がするという屋敷の依頼、
現地に到着するとそこにはひときわ異彩を放つ不気味な洋館が、
その屋敷の庭にうっそうと生い茂っている背の高い草木に覆われて、とにかく不気味な雰囲気を醸し出していた。
さらにこの屋敷の周辺には家々が立ち並んでおり、
特に屋敷の周囲にはいくつかの賃貸物件らしき建物があるけれども、
”呪われた屋敷”事件のせいで今ではいずれも廃屋となっており、住む人がいない状態らしい。
「これは明らかに何か出ますって感じですね――」
「ああ、そうだな。物音がするというのだから何か出るのは確実だろう」
アリエーラとデュシアは現場に来るや否や、その異様な屋敷の光景を目の当たりにしてそう言っていた。
屋敷はブロック塀で囲われており、誰も寄せ付けない感じの雰囲気を醸し出していた。
そして、屋敷の正面は鉄製の門があったのだけどボロボロに錆びていて、既に門としての機能を果たしていない。
その代わりにエンブリス神殿側で新たに木で扉を取り付けており、閂と鎖と錠前を施すことで完全に封印されていた。
「ところでアリってこういうのは平気?
”お化け屋敷”とか”呪われた屋敷”とか最初に脅かしちゃった感じがするけれども心霊耐性はどうなの?」
と、心配そうに言うデュシアだったが、アリエーラはその心配をよそにワクワクしている様子で答えた。
「私はこういうのは全然平気ですね! むしろ得意なほうだと思ってます!」
それに対してデュシア、アリエーラのその様子を見て呆気に取られていた。
「えっ、そうなの!? 人は見かけによらないもの、あなたって本当にその言葉が丸々当てはまるわよね。
でも、本当に平気なの?」
デュシアは念を押すように改めて訊いてきた。
「本当に平気ですよ、でなければ召喚士なんてやっていませんよ。
もちろん、同じ召喚士でもこういうのがニガテな方はいらっしゃるかと思いますが、
少なくとも私は幽霊とか呪いとかいうのは平気です!
それに、怖いということで言えば幽霊よりもはるかに恐ろしい召喚獣も中にはいますから、
幽霊ぐらいで驚いていられませんよ。」
そう言われたデュシアは納得した、
確かにアリエーラほどの召喚士だったらいろんな種類の獣を従えていてもおかしくはないから説得力はあった。
そして召喚士と言えば――アリエーラのライセンスの内容を思い出した、
この娘、召喚士のクラスの一つである”ガーディアン・サマナー”の能力級も青い色だった。
アリエーラの性格は怖がりな女子という要素は一切なく、
どちらかというと”不思議ちゃん”に通づるものがありそうだ。
デュシアはギルドから予め受け取っていた鍵を使い、
エンブリス神殿側でつけなおしていた扉の錠前を外し、閂を固定していた鎖を解くとそれを外した。
2人は門の中へと入ると屋敷の玄関の扉にも鍵がついていたので、こちらもデュシアが予め受け取っていた鍵で中に入れた。
意を決して扉を開けて入ると、屋敷の中は埃だらけでものすごく荒れていた。
さらに屋敷の内装は薄暗くて不気味さを引き立てている上にあちこちボロボロとなっていて、
昔の栄華を思わせる姿などどこにも見当たらなかった。
「この屋敷ってどういった方が住んでいたのでしょうか?」
アリエーラは訊いた。
「さあ? 私はその辺の話までは知らないね。
印象としてはこの辺の地主だと思うけれども、どういった家柄なのかは全然わからないな――」
もし、そのあたりが一連の事件の手がかりになればと思ったアリエーラだが、それでは仕方がない。
さらに歩を進め、玄関から正面にある部屋の扉を開けて中に入ると、そこは食堂だった。
ここも損傷は激しいとはいえ、食堂らしく長いテーブルとイスはそのまま整列されていた。
「ここはあまり荒れていませんね。問題はここではないのでしょうか?」
アリエーラはそう言うとデュシアは異常がないことを確認し、次に行くかと言ってアリエーラを促した。
しかしその時だった、屋敷のどこかから物音がした。
「何だ!?」
アリエーラはその際、なんだかとてつもなく大きな力を持つものがこの屋敷の中にいることを感じ取った。
「えっ、この力……何か、とんでもないものがいるようですね――」
それに対してデュシアは驚きながら反応した、それは間違いないのだろうか、
アリエーラは頷いた。
「上のほうから感じます。とにかく、上のほうへと行きましょう!」
デュシアは”絶級ガーディアン・サマナー”であるアリエーラの言うことを信じた。
2人は改めて意を決して上の階へと向かうべく再び玄関ホールへと赴き、大階段を駆け上がった。
大階段を登り切り大扉を開けると、これまた埃だらけでボロボロの広間へと出てきた。
「ここか?」
デュシアがそういいながら広間を見渡すが、そこには何もなかった。
そこで、アリエーラの顔を見合わせると、彼女は上を見上げているようだった、もっと上のほう?
上のほうと言えば――デュシアはこの屋敷の外観を思い出した、
外から見ると左右2つの塔があった気がする、もしかしてそこだろうか。
だけど、だとしたらどちらの塔に問題が潜んでいるのだろうか、
もちろんどちらに行ってみてもいいかもしれないけれども、こういう場合は――
アリエーラはさらに意識を集中させ、問題の箇所を特定した。すると――
「左の塔です! 左側から何かの気配がします!」
すぐに判明した。
「左塔か。屋敷の構造的には、恐らくこっちが左塔の入り口のはずだ!」
デュシアは広間を出てホールの左側の廊を歩き、それらしい場所を探すと、アリエーラもそれに続いた。
さらに進むとそれらしい階段が見えてきたため、2人は再度意を決して塔の階段を上っていた。その先には――
「この扉、何者かが出入りした形跡もあるな――」
階段の先にあったのは扉だった。
デュシアの言うように、明らかに最近になって何者かが出入りしているような真新しい痕跡があった。
「となると、問題はこの中にあるとみて間違いなさそうだが――」
封印されてから長らく立つ建物なのにこういった痕跡があるのは明らかに何かがいる証拠。
それに、アリエーラとしても、この中に何かがいるような感じ――
それも、相当の覚悟が必要そうな得体のしれない存在がいるように思えたため、デュシアに改めて注意を促した。
「わかった、気を付けるわね。アリのほうは大丈夫?」
デュシアはアリエーラに絶対の信頼を置いていたようで、アリエーラは嬉しかった。
それはそうと、デュシアの問いに対してアリエーラは「大丈夫です!」と答えると、
デュシアは思い切ってその扉を開けた!