エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第1部 先の見えぬ旅路 第2章 遠き旅路

第17節 幽霊屋敷

 とりあえず、2人はそのレストランで朝食を済ませ、会計も済ませた。 アリエーラもここの朝食については絶賛、明日以降は一緒に朝早くからギルドで仕事を取ってきたら、 ここで一緒に食事をしようと約束したのである。
 そして、早速アリエーラのご所望であった現場となる屋敷へと赴いた。 現場は経済都市スクエアの郊外にある片田舎で、 スクエアの中心街とは打って変わって長閑な風景が広がっていた。
 目的地に着くまでの間、アリエーラとデュシアは今回の依頼についての話をしていた。
「そういえば依頼者へのあいさつはどうします?」
 アリエーラは疑問をぶつけると、デュシアは優しく答えた。
「今回は”大型窓口”経由の依頼よ。 だからギルドのシステム上――厳密にいえば依頼者はギルドになるから、 今回は仕事を受けたらそのまま現場に行って、解決したらギルドに報告するだけでいいのよ」
 複数の同じような依頼があった場合や大口の取引先や緊急性の高い依頼、 または工数が多岐にわたる大掛かりな依頼や、重要度が高くてギルド全体規模で取り組まなければいけない依頼となると依頼の内容をギルドが一手に引き受けることになるため、 その様なケースの場合は”大型窓口”経由での依頼となる。 この場合、依頼の詳細をギルド側で把握し、ハンターに直接依頼の内容を伝えることになる。 無論、それで情報が足りない場合はクライアントに直接訊きに行くこともあるのだが。
 一方で、それ以外の案件の場合は”通常窓口”経由の依頼となり、 詳細な話はハンター自ら依頼者本人に直接会って確認する形態をとる。
 今回のケースでは複数の同じような問い合わせがあり、 以前からたびたび問題視されていて、似たような依頼がギルドにも何度か問い合わせがあったため、 それを一気に解決すべく、ギルド側も”大型窓口”経由での依頼として重い腰を上げたようだ。
 確かに”幽霊屋敷”だなんて言うぐらいだから近隣住民が薄気味悪がって、 町内会レベルで依頼を出したということは大体想像造がつくけれども。 しかし、それだけだったら町内会の代表の方が”通常窓口”に依頼するべきという気がするかも知れないけれども、 複数の似たような問い合わせを何度も受けるたびに何度も依頼をこなしているようなケースだと、 何度も再発していることでもあるため、結果的に”やっぱり解決していないじゃないか”という批判的な声も寄せられていくことになる。
 ただ、ギルドはあくまで営利を目的とした団体であるため、 基本的には問い合わせがあった依頼を愚直にこなしていき、 それが解決したら報酬を得るというスタイルのほうがよいわけで、 営利を目的とした団体としては再発するたびにその都度問題を解決して報酬を得ていくスタイルがベストと言える。 しかし、”やっぱり解決していないじゃないか”というような批判の声が多いと、 それを無視するのはギルドの信用問題にもなりかねないため、 その場合は完全解決のために全力で取り組んでいくことを考えるというわけである。 早い話、今回の幽霊屋敷の件については”その都度問題解決スタイルの潮時案件”という側面があった。 それを乱暴に言い表すと、幽霊屋敷の件で依頼者を金づるにするのはこれ以上無理なので、 そろそろ手を引くこととギルドの信用問題とを両立させるために問題を完全に解決しようという大人の事情である。
 ギルド側の思惑として、双方でウィンウィンな状況にならないとこの商売が成立しないというのが玉に瑕である。 実際、報酬については幽霊屋敷というだけあって町内会の依頼者の事情的にあまり弾んでももらえない、 そのため、どうしてもこのようなスタイルをとらざるを得ない。どの企業でも似たようなもんだ、残りは懐事情次第というやつである。
 そして、今回このお屋敷で問題となった出来事が――
「この辺りでは私が生まれる前から存在している有名なお化け屋敷でね、 知っているやつはあの建物に誰も近づかないのよ」
 と、デュシアは言った。このことからもわかるように、彼女はスクエアの出身だそうだ。 ただ、この地区の生まれというわけではなく、風の噂でこの屋敷のことを知っている程度らしい。
「お化けが出るのですか?」
 アリエーラはそう訊ねるとデュシアは答えた。
「お化けかどうかはわからないが、何やらとんでもないのがいるらしい。 この屋敷に面白半分で行ったというバカなやつ―― 行くなと言われているのに肝試しとかそういう輩なんだそうだが、 そいつが死んでいたという話もあるぐらいだ、それもとんでもない死に方をしているみたいでな――」
 とんでもない死に方? アリエーラはさらに訊いた。
「警察の調べでは、どうやら自傷を繰り返し、挙句、自ら命を絶ったという死に方だったそうだ。 だから――それでここは”呪われた館”と呼ばれるようにもなった――という話だ」
 それは確かに怖い話である。そんな話に対してアリエーラは疑問をぶつけた。
「それにしてもそんな館、よく今まで放置されていましたね――」
 デュシアは答えた。
「言ってもこの事件はスクエアの一部界隈では比較的有名な話でね、最後に事件があったのは10年も前の話なんだ――」
 そして、今は”呪われた館”と言うだけあってエンブリス神殿側の管理になっており、 入り口も固く閉ざされていて誰も入ることはできないハズなんだそうだ。 また、最初の事件は20年前でその時は死人は特に出てないが、 誰もいないハズの屋敷から夜な夜な物音が聞こえると言われていたらしい。
「それで、それを確かめようと実際に肝試し感覚で入った輩がいて、 そいつは幽霊らしき影を見たって言っていたそうだ、どうだかねぇ――」
 デュシアはそう続けた。20年前の話はほとんど噂話にしかならないようなものらしい。 そして、その真意を確かめようと肝試し感覚で確認しに行った輩の壮絶な死体、 さらには”幽霊屋敷”やら”呪われた屋敷”やら、そういうレッテルの張られた古い洋館の存在と、 むしろ、噂話とあらぬ噂が立ったことで、様々な憶測を呼んでいったというのが実際のところなのだろう。 とはいえ、どうして今になってそのような屋敷の案件が跳んできたのだろうか、アリエーラはデュシアに訊ねた。
「今回の依頼の問題点はまさにそこにある。 最近、夜な夜な妙な物音がするというから何とかしてほしいということらしいが、 10年前のような”呪われた屋敷”事件の可能性もあり得るから確認してきてほしい、ということだそうだ」