エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第1部 先の見えぬ旅路 第2章 遠き旅路

第15節 もう一人の女ハンター

 翌日――アリエーラはハンターのライセンスを修得してからというもの、 オファーというか仕事の同道依頼についてひっきりなしに来たのだった。 女ハンターは歓迎されないのではなかったのだろうか。
「どうしたのかな、お嬢さん? 俺がお嬢さんの依頼を引き受けてやっても……えっ!?  ハンターのライセンス持っているんだって!? すげーなぁ! だったら俺と一緒に仕事しようぜ!」
「何言ってるんだよ! アリエーラちゃんは俺と仕事すんの!」
「俺も俺も!」
「アリエーラちゃんは俺と一緒に仕事すんの! お前らはすっ込んでろ!」
 ……といった具合でギルド内ではアリエーラの取り合いになっていた、 そんなことしなくたって……彼女は引いていた。 それに、アリエーラとしてはなんとなく引き受けてみたい仕事があったのだ。
「あっ、あの! ”謎の幽霊屋敷”の依頼を受けた方はどなたでしょうか?」
 ところが――
「おっ、俺だ! それは俺が受けたんだよ! 誰だ俺の仕事を取ったやつは! 俺に返せ!」
「俺も俺も!」
「バカヤロウ! そいつは俺の仕事だ! 前々から目ぇつけてるって言ったろ! 横取りするんじゃねえ!」
 アリエーラは昨日に引き続き苛立ちが募っていた。 まったく、いい加減にしてほしいものである。

 負のオーラを漂わせているアリエーラの様子を見かねた所長が、 本来なら一般のハンターなどが立ち入ることは基本的にしない受付の奥の事務室にアリエーラを促し――というより避難させた。
「まあまあまあ、キミのそのルックス……いや、ともかく、ああなるのは仕方がないと思うよ――」
 アリエーラは所長になだめられていた。
「でも! ここの人たちってあんまりです! ちゃんと真面目に仕事をする気がないのでしょうか!?」
 とにかくムキになって苛立っているアリエーラをなんとかなだめようと所長は必死だった。 そこで所長は、アリエーラの言っていたことを思い出し、話題を切り替えた。
「ああ! そうそう! そういえばご所望の屋敷の件だけど、 その依頼を受けたのはデュシアという女ハンターだね」
 ん? 女ハンター? なんだ、自分以外にもいるんじゃないか、アリエーラはそう思って訊き返した。
「実はそうなんだよ、彼女はここに来たときは既にライセンスを所有していたんだ。 だから腕は確かなのは間違いないんだろうけれども、彼女は誰とも組みたがらず、男勝りで気難しい性格なんだよ。 それに、他のハンターがいない朝早い時間のうちに現れてさっさと行ってしまうしね」
 既にライセンスを所有ということは確かにアリエーラと似たような過程を踏んでいるということである、 スクエアのハンターズ・ギルドにいる女ハンターは先にライセンスを取得している状態で仕事をしているという意味で。 それに男勝りで気難しい性格――男の人は寄り付かなそうだ。
 だけど彼女は既に仕事に行ってしまったのか、アリエーラはがっかりしながらそう言うと所長は――
「どうかな、彼女はいつも決まったレストランで朝食をとるのが日課になっているみたいで、 ちょうどこのぐらいの時間ならそこにいるかもしれないよ。 それに、ここを出発してからは時間的にはそんなに経ってないハズだし、もしだったら行ってみるといいよ」
 そうなのか、アリエーラは思い立って所長に言われた場所へと行くことにした。

 アリエーラは言われた通り”メストーレ”という名のレストランに赴いた。 高級レストランのイメージが強い外観と内装だけど食事はビュッフェスタイルで提供されていて、 値段は意外と安価で食べられるのが特徴だった。
「あなたがデュシアさんでしょうか?」
 アリエーラはデュシアらしき女の人にそう言って話しかけた。 髪は茶髪で前髪はショートでポニーテール、 褐色の肌に結構色っぽい感じに軽鎧を着こなしていて脚絆(きゃはん)と呼ばれる脚防具を身にまとっている人物…… 所長から聞いた特徴に該当する人物がほかに見当たらなかったので、その人に話しかけた。
「そうだけど……あんた誰?」
「あっ、やっぱり! 申し遅れました、私、アリエーラと申します!」
 当たりだったようだ。アリエーラは改めてあいさつをすると――
「ああ、あんたが新しく来たっていう女ハンターね。 さっき所長からそんな風なこと聞いていたけど、早く会えてよかったわ」
 えっ、早く会えてよかったとはどういうことだろうか、アリエーラは驚きながら訊いた。 それに対してデュシアはため息をつきながら言った。
「……多分、ここに来てから既に感じていると思うけれども、 周りがしょーもない男たちばかりでムカツクでしょ?」
 ムカツク。アリエーラは一切否定しなかった。
「特にあんたみたいなのって見た目から”カモ”になりそうじゃん?」
 ……それも言われてみればそんな気がする、どういうことなんだと何度も考えた。 挙句、コテンパンにやっつけた結果の捨て台詞はバケモノ扱い。 しかも、周囲の男共はとにかく調子がいいときたらない。 こんなところ、さっさとやめてどこか別のところに行きたい――それを考え始めていたところでもあった。 が、どこへ行っても同じような気がしてならないし、せっかくのスクエアでの活動、 余所に行ったら目的のクラウディアスから遠退いてしまう可能性もある、背に腹は代えられない――
 そんなアリエーラだったが、デュシアは前向きな話を持ち掛けてきた。
「そういうのは嫌かなーと思ってさ、こうしてあんたを待っていたってわけよ」
 うん? 待っていた? アリエーラは訊き返した。
「あ、いや、来たらいいのに程度で思っていたのよ、所長は私のことをある程度知っているし、 特にあの所長のことだからこういうことを想定しているかなと思ってね。 まあ、とにかくせっかくだから女同士で仲良くできればいいかなーと思ってさ、どうかな?」
 確かに周りが男だらけで男同士で意気投合しているようだけど、 スクエアでは女ハンターはこれまでデュシアしかおらず、女性陣によるコミュニティがないのである。 それは新たにやってきたアリエーラも然りである。 しかも、女ハンターとくれば男共に高貴の目で見られた挙句、頭にくることもしばしば(=常々)とろくなことがない。 だから、女性の輪で結束すれば仕事だってやりやすいし、楽しみだって増えるというものだ。 さらに――
「第一、この仕事は男向きだから女はこの仕事は無理とか、 そういうバカげた考え方があるのがとにかく気に入らない。 言っとくけど腕っぷしならそんじょそこらの男には負けないよ!  それなのに性別だけで実力を決めやがって……あんたもそう思わない?」
 デュシアは圧倒的に正しい! まったくもってその通り! アリエーラはそう思った。 しかし残念なことに、このあたりでは男尊女卑な考え方が根強く残っているのが実情である、 そういう偏った考え方には未来も希望もまったくないのだが。
「でしょ? あんただって立派にライセンス持っているんだ、だからこれを機に世の中を見返してやろうよ!」
 確かにデュシアは所長の言った通り、男勝りで気性の激しい人という印象だった。 誰とも組みたがらないと聞いたけれども、実際には単にあそこにいる男たちと組むのが嫌だというだけのことだった。 もちろん、アリエーラもあの男連中と組むのは嫌だった。