エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第1部 先の見えぬ旅路 第2章 遠き旅路

第14節 伝説の美女の天罰

「あれ? どうしましたか? 場所はレビフィブ島ですよ?」
 アリエーラはスクエアのハンターズ・ギルドに帰って来るや否や、受付にそう言われた。 それに対してアリエーラはニコニコとした笑顔のまま、堂々と受付のカウンターのど真ん中に目的の石を置いた。
「えっ、この石……まさか!」
 そう言うと所長が慌てて出てきた。
「ちょっとちょっとちょっと! いくらなんでも早すぎやしませんか!?  あの男の人はどうしましたか!? まさか殺してしまった……なんてことは――」
 すると所長が心配していた男は、ゆっくりとハンターズ・ギルドの中へと入ってきた。 そして、勢いに任せてカウンターごしに訴えかけるように話しかけた。
「なんなんだよこの女! どう考えてもおかしいだろ! ”バケモノ”じゃないか!」
 それに対して所長が反論した。
「何を言うか! だから本気で相手をしろと忠告したんだ、依頼内容にもそうあっただろう!?  ”相手は見た目に反して相当の手練れ故、くれぐれも本気を出して戦うこと”とな!  それに、それで勝てなかったのなら彼女でなくてお前の問題だろう!?  だいたい依頼はボス役をやれというだけで勝つ必要などないものだというのに何故勝ちにこだわる?  第一このような美女――女性を捕まえて”バケモノ”とは失礼にもほどがあるだろう!?」
 所長は怒り気味にそう言うと受付に話をふっていた。
「えっ? ええっと――えっ、負けたって本当ですか?  だって、どこも怪我をしていないように見えますが――」
 受け付けは再三再四確認するかのように驚きながらそう言うと、所長が呆れた態度で言った。
「だろうな、さしづめ、最後に彼女に情けをかけられ、 強力な回復魔法かなんかで傷を癒してもらったとか、そういうオチなんだろう」
 だいたい合っていた、的確な指摘に男は口をつぐんでいた。
 だが、実際に起こったことといえば――この男に対して心底腹が立っていたアリエーラ、 相手の力量をある程度確かめると――全力でやると間違いなく死ぬことは目に見えていた。 だから苛立ちとの葛藤の中で、ギリギリ死なないだろうぐらいの力で繰り出した魔法剣の極意、 アリエーラめがけて突きを放ってきた男にそれをたった一撃浴びせると、 そいつの身体は予定通りその場に崩れ落ちた。 男はもはや虫の息、そのまま手を下さずに放置しておけばいずれかは死ぬだろう、 そう思って石を携えたまま洞窟を出ることにした。
 だが、洞窟の外の明かりが見えてきた頃、所長が手加減してくれとわざわざ頼んできたことを思い出したアリエーラ。 大きなため息をつきつつ、男のいる最深部まで再び赴くと、そいつは依然としてぐったりとしていた。 見ているだけでも腹が立つこの男、いっそのことこのまま手を下すのも一興かと何度か頭をよぎったが、 その時にとある友人のセリフを思い出した、 自分を散々見下していた相手に仕返しをするうえでより効果的な方法を聞いたことがある、 その相手に情けをかけて生き恥をさらせばいいというものである。 アリエーラにとってはそんな相手が現れようはずもないことはその時まではまったく思ってもみなかったけれども、 今回のこれは、まさしくそれを適用するきっかけだと彼女は思い立った。
 それでも気の休まらないアリエーラ、男を回復魔法で傷を治し、 その男の傷が治って立ち上がった後、「次は回復魔法も効きませんからね。」と、 顔はにっこりと微笑んでいるのとは裏腹に剣先を向けたままであることと、 その表情はどこか恐ろし気で殺意むき出しな負のオーラを漂わせながら言い放つと、 男はアリエーラ相手にひどく恐怖し、その場で腰が砕けて動けなくなった。 こういう人は怒らせると大体怖いとはいうが、まさに彼女こそがその典型である。
 そう――彼女を絶対に怒らせたらいけません、大事なことなので2回言いました。
 その後のアリエーラはレビフィブ島で帰りの船を待つ間、町のカフェでお茶を楽しんでいた。 各々がギルドに帰って来たタイミングを考えればわかるように、あの男と同じ船に乗ったことは間違いないハズだが、 男はアリエーラを極度に恐れて避けていたためか、互いに顔を合わせることはなかった。

 話を戻そう。所長はアリエーラの腕について改めて絶賛しつつ、話を続けた。
「まあ、そういうことだ。私の見立ては間違ってなかったということだ、言っても既に彼女の腕を承知の上だったわけだが。 目的の石を持ち帰り、最深部のボスを倒した上、情けまでかけた、その気になれば殺すことも容易いだろう。 そしてこの圧倒的なビジュアルの良さに頭の良さ、彼女を完璧と言わずしてなんと言う?  無論、私としても彼女をハンターにするのは抵抗がある、 それは彼女の強さによるものではなく、ハンターにするにはあまりにも勿体ない逸材だという意味でだ。 それでも彼女が望むのならばそれはそれで仕方がない、彼女にも事情があるのだからな。どうかな?」
 と、所長は得意満面に言うが、アリエーラとしてはそこまで言われるほどの者では――と、やはり謙遜していた。
「わ、わかりました、約束は約束です。いいでしょう、彼女にハンターのライセンスを発行します。それでよろしいですね?」
 受付は言うと、アリエーラは前向きに、
「はい! お願いします!」
 と答えた。
「いやあー、本当にお綺麗ですよね!  実は私も、もしあなたのような方がハンターになったらいいなーなんて思っていたんですよー!  本当に嬉しいなー、美女ハンターかあ……毎日話しかけられるだなんて思うと最高に幸せだなあ――」
 絶対に嘘だ、アリエーラはそう思っていた。 そもそもファースト・インプレッションが劣悪、お前だってさっきまでアリエーラさんのことをバカにしていただろう、 誰が見てもそう思わざるを得ない。
「おい、しゃべってないでさっさと彼女の手続きを済ませろ!  あと、あの洞窟を使用したのだから整備の手配をしておくように。 それと、まだやっていないようだからあえて言っておくが、 今日は指名手配の壁写真の更改日だからくれぐれも張り替えを忘れないように!」
「はっ!? ひっ、ひええええー!!」
 所長は受付に怒りながら注意すると、受付は慌てふためいていた。 いい気味だ、アリエーラのみならず誰もがそう思うことだろう。 アリエーラ的には受付の人が少しかわいそうな気もしたけれども、 この際だから罰を受けたのだと思って諦めてもらうことにした。