アリエーラは受けた依頼をこなすため、
スクエアから南西の位置にあるセラフィック・ランド10番目の都市がある島、レビフィブ島へとやってきた。
依頼の内容は、ハンターになりたければこの島の”とある洞窟”の最深部にある”とある石”を持ち帰れというものだ。
どんな石なのかは行けばわかるということらしいけれども、早い話”度胸試し”というものなのだろう。
もちろん魔物も出てくるけれども、依頼を受けた後の建物から出る際、
所長が慌ててアリエーラのところへやってきて、こっそり言われたことが気になった。
「そうそう! その前に一つお願いがあるのですが――」
「お願い? なんでしょう?」
「ええ、あの……先にも申し上げました通り、強さの程は大変よく存じ上げております。
ですから、最深部のボスが登場した暁には――お手柔らかに頼みますよ」
所長はそう真剣な表情で頼んできたのである。
恐らく、”最深部のボス”という相手には手加減してくれということだろう。でも、その真意は?
レビフィブ島にある”とある洞窟”についた。
そこは先ほどのハンターズ・ギルドのスクエア支社が管理している”挑戦者の洞窟”というものである。
ここが指定された洞窟で、問題の”とある石”はこの中にあるらしい。
内部の魔物の気配を察したのでアリエーラは剣を取り、洞窟へ挑んだ。
内部は細い坑道のような感じになっていてほぼ一本道、
そして、途中にいくつか大きな空間に出るという構造だが分岐はなく、基本的に一本道が続く構造のようである。
それにしてもこの剣、アリエーラは振るうたびに考えるのだけど特別製の剣だった気がする。
見た目は大剣に近いぐらいの大掛かりなもので、こういうものは基本的には両手剣、つまり両手で扱うのが一般的である。
しかし、見た目とは裏腹に非常に軽く、女性でも片手で扱えるような代物なのが特徴。
しかもその刃は非常に洗練された大業物で、使い手の御業次第でどんなものでも軽く切れるような作りとなっているのである。
アリエーラにそれほどの能力があるのかは何とも言えないところだけれども、
少なくともこれは、とある友人に作ってもらった唯一無二の愛用の剣、
アリエーラ用に調整してもらったオーダーメイドの武器のため、アリエーラは大切にしていた。
とにかく、その剣を振るって途中の魔物を退治しつつ、先へ先へと突き進んだ。
だが、この行為自身もまた彼女が違和感を覚える行為そのものだった。
何を隠そう、彼女は魔物を強いと感じたことが一切なく、
どんな魔物も正面からうまい具合に適当に攻撃を繰り出しているだけで堂々と倒してしまえるのである。
自分にはどうしてそんな芸当ができるのかがあまりわかっていない。
それは流石に武器がいいものだからというだけで説明できることではないハズである。
そして、アリエーラは洞窟の最深部らしき場所についた。
そこには何やら光を放つ鉱石のようなものがあった。
「あれっ、これはまさか――」
しかし、アリエーラが気になったのはその光を放つ鉱石ではなく、
その手前にある、見た目は何の変哲もない手のひらサイズの石ころのほうだった。
彼女はそれを持ち上げてまじまじと見つめていた。
すると――誰かがやってくる気配がしたので、アリエーラは入り口のほうに向かって構えた。
「ふん、いくらかはびこっているハズの魔物を蹴散らしながらこんなに早くに最深部に進めているたあ驚いたな、
ちっとは腕を認めてやってもいいが――」
そして、そいつはアリエーラの前に姿を現しながら続けざまに言った。
「ほう、まさかその石を知っているとはな」
そいつはなんと、ハンターズ・ギルドのベンチを独占し、最後の最後までアリエーラのことを認めなかった男だった。
しかし、この石を知っているってどういうことだろうか、アリエーラは訊いた。
「目的の持ち帰る石というのはそいつのことだ。
元々そいつを持ち帰ることを知っていたのか、それとも誰かが手を貸したのかは知らんが――」
そう言われてもよくわからなかったアリエーラ、
でも、この石を持ち帰るということは今聞いて初めて知ったことを言うと、続けざまに言った。
「私はただ――この石は”スピリット・ライト”、”魂玉石”とも呼ばれますが――
これは生物の精神の力を蓄える効果があるという珍しい石です。
そして、この光を放つ石こそ、まさしく”トワイライト・ストーン”そのものですね。
”トワイライト・ストーン”は”スピリット・ライト”を生み出す原料にもなっている石ですが、
そもそも”スピリット・ライト”の人工生成は非常に困難で、
原則、このように自然に生み出されることでしか生成ができないという物質です。
それにしても、こんなに大きな”スピリット・ライト”を見るの、私も初めてです!
だから――ちょっと珍しかったので手に取って眺めていただけです!」
その説明に男は圧倒されていたが、臆せず話を始めた。
「――そ、そうか、それはよかったな。
俺はそのなんたらストーンとかいう石の……ふん、そんなことは知らんし、そもそもどうでもいい。
ただ、石を持ち帰ってこいという依頼を受けたあんたの仕事を邪魔しに来ただけだ――」
えっ、邪魔をしにとはどういうことだろうか、アリエーラは訊き返した。
「俺があんたの仕事の最深部のボスをしろという依頼を受けた。
つまり、あんたにとっちゃあ最終試練となるわけなんだが――」
そういえば手加減するって話、つまりはこの人に手加減をしてほしいということになるのだろうか、アリエーラはふと思った。
「まあ、あれだ、変なお嬢様ハンターがいてくれても目障りだし、
それこそハンターの質も落ちたと言われたらシャレにならないもんでな。
だから、あんたの事情が何であれ、奮闘しようとしているところ悪いがハンターになるのは諦めてもらおうか、
そう思ってこうして最深部のボス役を受けたってわけだ」
アリエーラはこの男の言ったことに対して再びイラっとした、なんとも意地の悪い人である。
「本来であればボスである俺を納得させるほどの戦いぶりをすることで合格となり、
そのなんたらストーンを持ち帰るように俺が指示するという流れを踏むことになっているわけだが、
あんたの妙な好奇心のせいで予定が一部崩れちまったようだ、まあ、今更だがな。
とにかくさっきも言ったように、お嬢様ハンターなんてお呼びでないんでな、今なら間に合うぞ、その石を置いてとっとと失せろ」
そんなこと言われてもアリエーラは引き下がるハズもなく。
「あの、一つ訊いてもよろしいでしょうか?」
アリエーラは訊いた。
「何だ?」
「”嫌です”と言ったらどうします?」
その時は――男は剣を握った、そういうことか――。こうして、ボス戦が始まった……のだが――