ギルドでそんな話をしている中、受付の奥の部屋から誰かが飛び出してきた。
その人はアリエーラの姿を見るや否や、何やら嬉しそうな表情で言った。
「おお! これはこれは!
まさにハンターとして試してみる価値が大いにありそうな方がいらっしゃったな!」
それに対して受付が驚いて言った。
「しょ、所長! 試してみる価値って正気ですか!?」
「正気だ。世このの中、男尊女卑で通っているけど、
そんな中、我々としてはこんな風な考えを持っている女性がいるということを大事にすべきではないかな?」
意外だった、アリエーラにはそれを言える人がここにいるとは思えなかった。
「えっと、アリエーラさんですよね?」
えっ、どうして私の名前を!? アリエーラは非常に驚きながら理由を訊いた。
「もちろん、大変よく存じ上げております!
第一、このような印象に残るほどの綺麗なお方、そうやすやすとは忘れられるものではありませんよ!」
するとギルドの所長はとある新聞の一面を出した、
それには”美しすぎる女教授の歴史的大発表”とあり、
アリエーラの写真が大々的に掲載されていた――例の記事である。
それを出されたアリエーラは非常に恥ずかしかった、こんなところでも未だに当時のそれを引き合いにされるだなんて――。
だが、このようなシチュエーションはそれほど珍しいことでもなく、アリエーラ自身もどう収集を付けたらいいのかわからず、悩んでいることでもあった。
「それにしてもルーティスでは大変な目に合われたようですね、何とも痛ましいことです――」
と、所長はアリエーラに対して心配そうに言った。
確かにルーティスではあまりに凄惨なことがあり、何とも痛ましいことである。
しかし今は――そこでお世話になったあの人の悲願でもある目的のため、こうして旅に出たのだ。
その目的については所長も把握していた。
「クラウディアスに行きたいということですよね? ということはつまり、例の碑石の調査ということですよね?
実はこの記事に書いてある事なんですが、当時は私もルーティスに研修のためにおりまして、
その際にあなたの発表を聞いておりました故、事情は大体把握しているつもりです」
直接聞いているというだけあって流石に話が早い、アリエーラはそう思った。
「ただ――もう既に把握されているかと存じますが、
今のこの現状ではクラウディアスへ赴く手段はないに等しい状況と言わざるを得ません。
まあ、運よく渡航できる手段がなくはないかもしれませんが――
でも、その間にあなたのそのお力を我々にお貸しいただけるというのであれば、それはそれは幸いなことでしょう」
と、所長は改めてそう言った。
「ルーティスの女教授? 歴史的大発表? クラウディアスに碑石? 所長、彼女は何者なのですか?」
受付の方はその記事をマジマジと眺めながら言った。
だから、その記事は恥ずかしいから――アリエーラは顔を赤くしていた。
「この方は相当な使い手であることは確かだ。
ルーティスでの研修では一応あなたの講義にも出席していますからね、その際の腕の程は大変よく存じ上げております。
高位の魔法使いとか高位の召喚士とは大体想像がつくような能力者だけれども、
それ以上に彼女は剣の腕も確かだ、あの時はとてつもない技を見せつけられたから、保証はするよ。
だけど一番びっくりしたのは別の教員――大男の腕をひねってまさに痴漢撃退さながらの体術を見せつけられた時だったね――」
所長がやたらとアリエーラ推しな理由が分かった、アリエーラの講義に参加していたのか。
だとすれば剣の腕――魔法剣の使い手として磨いた剣の腕も見ているだろう。
でも、痴漢撃退さながらの体術――ああ、あの時の講義か、アリエーラは冷や汗をかいていた。
あれは純粋に反射的に身の危険を感じて行ったことで狙ってやったわけではない行動だったため、
あの時はアリエーラも技を仕掛けた大男相手にただ平謝りしていた――
相手はこんな美女に技を仕掛けられるとは大変貴重な経験だと笑いながらリアクションをしていたのだが。
でも、そんな現場まで見られていただなんて――アリエーラはさらに顔を真っ赤にしていた。
「こんな逸材、めったにいないぞ。だから彼女に仕事を受けさせてみないか?」
と、所長は受付に念押しで言った。
しかし、現場のハンターである寝そべっていた男はなかなか縦に首を振らなかった。
同時に、ベンチに寝そべっていた態度からその場に座り直していた。
「だからって、どれぐらい使い物になるのかわからんだろ。
いいか? 俺たちの仕事は学校の授業や護身用のそれとはわけが違うんだよ。
そういうものとは一緒にされちゃあ困る、迷惑なんだよ。
バカの一つ覚えが……冗談言うのもほどほどにしてほしいもんだ」
アリエーラはその男の物言いにますます腹が立ち、態度には出さなくとも内心イライラしていた。
それに対して受付が出し抜けに言った。
「わっ、わかりました、それなら、これでどうでしょうか、
まず、彼女にハンターの仕事をさせるべく、”とある依頼”を受けさせます。
そして、”ハンター・ライセンス”を取得させるのです。
最近ではこんなことせず、ハンターの仕事の見習いとして参加しながら取得するものですが、
この際ですから先にライセンスを取得させてからハンターとして活動してもらう、これでどうでしょう?」
所長は本来とは違う方法でライセンスを取らせるということについてあまり納得していないようだった。
とはいえ――
「うーん、まあ……ライセンスを取らせるというのなら反対はしないが――
もちろん彼女がその方法でいいというのならの話だ、それなら私は構わんが――」
一方で、ベンチの男は納得したようだった。ただしその言い様は――
「いいぜ、別に、ライセンス持ちなら話は別だ。もっとも、”取れれば”の話だがな」
と、非常にネガティブな言い回しだった。
それでも、ライセンスがあれば認めてもらえるということならアリエーラはその”とある依頼”を受けることにした。