アリエーラはエンブリスでの一件を終わらせると、その足でそのままスクエアへと戻った。
スクエアは厳かな雰囲気のエンブリスとは打って変わって先進的な高層ビルなどが立ち並ぶ町である。
そこは流石は”経済都市スクエア”と呼ばれる都である。
貿易の拠点としても有名で、いろんな物資が集まりいろんなものがある、所謂”都会”である。
ということは当然、この町を満喫するのも骨が折れるということである。
そう、戦時中ということもあって経済都市の流れは活発で、
それこそエンブリスよりもさらに人混みが多く、アリエーラはこの町でも散策を断念せざるを得なかった。
そのため、彼女は本来の目的のために行動することにした。
改めてだが、アリエーラの本来の目的はこの町を足掛かりにしてクラウディアスへ向かう手段を得ることである。
これだけ発展した経済都市、貿易都市としての側面もあり、
情報の流れも盛んなこの地において手始めにどうすればいいのだろうか、はたまた渡航手段などあるのだろうか、
これからのことについていろいろと考えた。
クラウディアスの位置は地図的にはルーティスから北の海、
セラフィック・ランドからなら北東の海、割と手が届きそうな位置にあるのにこの距離が見た目よりも果てしなく遠く感じる――。
渡航することだけに絞ればいくらでも連絡船の発着場で情報が得られるけれども、
目的地がクラウディアスということになると話は別、望み薄だった。
物は試しとダメ元で確認しに行ったアリエーラだったが、予想通り聞くだけ無駄だったようだ。
ということで翌日はアプローチの仕方を変えてみることにした、ハンターの仕事のついでに渡れないかということである。
当然ハンターの仕事と言ってもクラウディアスへ行くまでがネックとなっている仕事もあると思う。
だけどもしかしたら渡航手段を提供してもらえた上で行けないだろうか、
そう言った可能性は望み薄ではあるがゼロではない、賭けてみるのはありだと思った。
もちろんこの手の仕事についてはリスクを伴うことのほうが多いが、
それでも運よく渡れてしまう可能性を求めてアリエーラは決意した。
もちろんそういった望みがかなうまでに辛抱は必要かもしれない、だから根気よくやり続けていくしかないと思われる。
それにそもそもこのあたりの土地勘を把握していないアリエーラにとっては勉強のためにも、これはこれでありだと思っていた。
だが、そのうえで一つの大きな問題点が発生した。それはハンターという性格が招いた面倒ごとである。
それを物語るエピソードについてはスクエアのハンターズ・ギルドに赴いた時の出来事、
ギルドは大きなビルの一角にあり、非常にしっかりとした佇まい。
内部は開放的で明るい感じのする内装だったが――
「どのようなご要件でしょうか、お嬢さん。本ギルドをご利用されるのは初めてですかね?
簡単に説明させて頂きますと、
本ギルドではご依頼内容によって報酬のほうも相談させていただいております。
予めご了承のほど、よろしくお願いいたします」
受付ではそう言われて返されてしまったこと、それが問題だった。
しかし、それについては身に覚えがあったアリエーラ、
あちこち駆け回っていて感じた違和感の一つが男尊女卑的な反応、
ここのギルドに限った話ではなかったのである。
なるほど、私なんかだとハンターとしての資質が見当たらないってことか、
こんなお嬢さんと呼ばれてもおかしくはないような非戦闘向けな装い――
華やかな印象のトップスに丈の長いスカートではそう判断されるのが妥当なのだろうか、アリエーラはがっかりしていた。
でも、それならそれであえて訊いてみるのもいいかもしれないと前向きに考えたアリエーラ、
自分の目的を果たすために訊いてみることにした。
だが彼女は男尊女卑的な反応に頭にきていたため、
これから一連の話をするうえでの態度はお嬢様口調的な、上からものを言うような感じだった。
何気にこういう彼女の姿は滅多に見かけない非常に貴重な一幕、刮目せよ。
「ええ、そうね、初めてだから詳しく教えていただけますか?
私、クラウディアスに行きたいのですが、いい方法はありませんか?
我こそはって言うハンターさんはいらっしゃらないですか?」
そう言うと受付は困った感じで返してきた。
「ク、クラウディアス……ですか――。
うーん、そうですね……引き受けたいのは山々ですが、渡航手段を提供いただけないことには――
いえ、そもそも渡航が目的のご依頼のようですので、今の状況ですと実現させるのは難しいかと存じます。
ですので、それでよろしければ――」
難しいのは百も承知である、これまでルーティスでもスクエアの港など、
あちこちで訊いたけれども結果は散々、だからこそここに来たのである。
ということであればもう一つの依頼――アリエーラが元々ここに来た目的を聞き入れてもらうことにしようとして、
改めて上からの態度で話した。
「無理なら結構です、渡航手段がなければ仕方がありませんね。
だったらその間、私をここへおいていただけませんか?」
それに対して受付はアリエーラの予想通り驚いていた。
「えっ、おいてくださいって言うのは――ハンターの仕事をするというのですか? あなたが?」
「あら? 私なんかじゃあダメですか?」
アリエーラは食いつくようにそう言うと受け付けは警告するように話し始めた。
「あっ、いえ、その――内容によっては魔物との戦闘も発生するのですよ?
というより、どの依頼内容もまず戦闘が発生することのほうが前提だと思ってください。
ですので、戦いの経験をある程度積まれていないことには大変苦労すると思います――」
そんなことは言われなくても大体わかっていたアリエーラとしてはそんなことまで言われるなんてなおのこと気に入らなかった。
とはいえ、とりあえず戦いの経験があるということを伝えた。
「そんなことは心配なさらなくても結構です、これでも一応戦いの経験はありますからね――」
しかし、それに対して受け付けは笑いながら――
「いやいや、そんなちょっとぐらい魔物倒せたってダメですよ!
地元獣をちょっとぐらい倒せたところでハンターの仕事は務まりませんからね!」
その反応に対してアリエーラは表情こそ平静さを保っているけれども内心でははらわたが煮えくり返っていた、この始末どうしてくれようか――
すると、傍らのベンチに寝そべっていた男が話に参加してきた。
「おいおいおい、お嬢ちゃん、冗談言ってそいつを困らせんなよ。
第一、そんなこと言ってたらせっかくの綺麗なお顔が台無しになっちまうじゃねーか。
だから、ケガしないうちにとっとと帰んな」
その言い様も気に入らなかった、やっぱりここはこういうところなのだろうか、
頼るところを間違えたようだ――アリエーラは後悔していた。
「ま、迷子のガキ探しとかお使いとか、仕事にはピンからキリまであるから別に構いやしねえがな。
そういや、事務の仕事ってぇのもあったな? まあ、席が空いていればの話だが――」
と、男は話を続けた。アリエーラは完全に見下されていた。