シェトランドは石の民、彼らの力は侮れないほどの戦闘能力を有している民族であるとしてエンブリアでは比較的有名な話である。
当然、シャト自身の能力はそれに裏打ちされているほどの使い手である……最初はそう思っていた。
だが――シャトの力は単にシェトランド人だからということだけでは片づけられないほどのものだったようだ。
それは、いくらシェトランドの戦闘能力が高いとはいっても物事には限度というものがある。
しかし、彼女のそれは想定以上、”手練のシャト”などと呼ばれ、非常に恐れられた存在として有名になっているほどである。
それこそ、過去の名だたる猛者たちを圧倒しているぐらいの使い手なのだが、そんな彼女とアリエーラについてはとある共通点があった、それは――
「私もあなたも過去の記憶がない。
そしてオマケにとんでもない力を発揮して大軍隊を1人で潰したことがある。
もちろん、自分にどうしてそんなことができる力があるのかまったくわかっていない。
それだけならまだしも、お互いにルーティスはおろか、
聞いたこともないような国や勢力が幅を利かせている情勢に困惑していると、そんな感じでしょう?」
そう言われてアリエーラは改めて頷く結果となった。
「やっぱりシャトさんも……どうやらただの記憶喪失というわけではないみたいですね、私たち――」
すると、シャトは少し得意げになって話をした。
「自分の力を過大評価しているわけじゃないけれどもこの力でここを守り切れるかもしれない。
確証はないけれどもなんとなくそんな気がする。
だからアリ、あなたにはほかの地域を見てきて欲しいのよ――」
ちょっと待った、それと言うのはつまり――嫌な予感がしたアリエーラは急いで学園に戻った。
「シャトの元に行ってきた?」
アリエーラは研究室に戻るとエンビネルにシャトから聞いた事について話をしていた。
「教授! このままでは学園がとんでもないことになります! ですから早く、まずは避難誘導を!」
と、その時――学園内にすさまじい爆音に揺れと衝撃が!
「ま、まさかこれは――」
一足遅かった、ハライアル軍の砲撃が学園の近くまで飛んできたようだ。
「今のは魔弾砲……ルーティスを直接破壊するためミサイル・ガード”対策として物理的な弾頭から切り替えてきたようだな――」
それは間違いなく、軍がルーティス学園に接近してきていることの表れだった。
「教授! 事は一刻を争います!」
アリエーラは念押し気味にそう訴えた。
「分かった! 私は市と連携して事に当たる! だからアリエーラさんは――」
「私は、学園の子供たち、年少クラスの子たちを避難させに行ってきます!」
互いに、それぞれやるべきところへと行ってきた。
「ねぇね、アリエーラせんせ、これからどーなっちゃうの?」
「大丈夫だよ、絶対に大丈夫だから――」
アリエーラは年少クラスの子供たちをなだめていた、
ルーティスの裏手にディスタード軍の船が停泊しており、そこへ大勢避難していた。
だが、アリエーラは船をこっそりと抜けると学園のほうに戻った。
抜け出しているのが見つかると面倒なので、とにかくこっそりと抜け出したのである。
その時、出合い頭に――
「シャトさん!」
「第4防衛区が先に抑えられた。
前後が抑えられている以上はいつまでも第3防衛区にしがみついていても意味がない、
だから撤退することにした」
シャトは厳しい表情を浮かべながらそう言った。
「それより、アリはどうする気?」
「いえ、シャトさんこそ――」
するとシャトは答えた。
「そう、アリはここから非難するのね。
私はルーティスのこの状況を本国に、ランスタッド軍本部に戻って報告しなければいけないから、ここで一旦お別れになるわね――」
シャトの本来の任務はハライアル軍の動向を視察するため、第3防衛区に滞在していただけだった。
そのため、有事の際は原則単独での戦闘、深入りは原則禁止、生きて帰らなければならないのである。
ただ、ランスタッド軍はハライアル軍の侵攻によってガタガタな状況、
これから彼女はどうなるのだろうか、改めて気になることである。
「もうじき本国からの迎えが来る、時間がなくて残念ね。じゃあね、また今度一緒にお話しましょ」
そうですね、お元気で――アリエーラがそう言うと去り際にシャトが言った。
「ねえ、アリ」
えっ、何でしょう、アリエーラは訊き返した。
「……絶対に生きて帰るのよ」
「……はい! シャトさんのほうこそ!」
そうして2人は別れた。