アリエーラはシャトが言うことに反し、
一刻も早いうちにエンビネルたちを探さなければと学園内のあちこちを探し回っていた、
言ってもそれはシャトも想定していたことのハズだが。
「学園のミサイル・ガードが破られている……、敵は既に学園内部にまで――」
アリエーラは空のほうを見ながら憂い気にそうつぶやいた、学園を覆っている対砲弾バリアが消滅していたようだ。
すると――
「ナキルさん!」
「えっ、アリエーラさん? どうしてここに? キミは避難したんじゃなかったのかい?」
今度はナキルと出会った。
「それよりエンビネル教授は!?」
「エンビネルならここにはいない。それより、敵が近くにいるから気を付けるんだ!」
と、ナキルは注意を促す――こんなところまで敵の兵隊が侵入しているなんて。
「ほら来た、気を付けるんだ」
ナキルはミサイル・ガードを展開し、自分とアリエーラの身を護っていた、
本来個人で使うレベルではほとんどの場合はこういう使い方であり、学園に展開するようなものはむしろ特殊なものである。
だが、その効果のほどは――
「ちっ、ルーティスの魔道士ってやつは面倒なのが多いな!
まあいい、撃たれるよりも切り刻まれることを望んでいるということだな!」
ハライアルの兵隊が姿を現すや否や、2人に向かって銃撃を行っていたがものの見事に弾かれていた、
ハライアルの軍が苦戦するほどの効果であることは保証されたようである。
「どうだろうか、切り刻まれるようなら既にここにはいないと思うがね――」
ナキルは得意げに答えた。
「そうか、ならば試してやろうか?」
敵はナキルの挑発に対してムキになってそう言い返した、すると――
「隊長! こいつ、あれです! ”召喚名手ナキル”です!」
兵隊の一人が叫んだ。
そう、ナキルは”召喚名手”と呼ばれ、エンブリアではその名を知らない者がいないような高名な使い手なのである。
「何!? 召喚名手だと!? 召喚名手が何故ここにいるのだ!?」
隊長は驚きながらそう言った。
「私はここでご厄介になっているだけのこと、キミらに何故を言われる筋合いはないね」
ナキルは杖を構えながらそう言い捨てた。
「そうか、ならばナキルの首を打ち取れ! 打ち取って名を上げるのだ!」
隊長のその命令で兵士たちは躍起になり、次々と発砲を繰り返していた。
”ミサイル・ガード”という守りがあるとはいえ、これだけ無数にやられるとそれはそれで少々つらいものがある。
また、これの適用範囲は主に物理的かつ遠隔タイプ攻撃に対するバリア、簡単に言えば銃や弓矢に対して効果を発揮するバリアであるのだが、
刀剣といった格闘による直接攻撃や、もちろん例え同じ遠隔攻撃だとしても魔法攻撃に対しては適用外……
つまり、これらの攻撃に対してはまったくの無力であるため、これだけで凌げるほど甘くはない。
しかし――
「ふん、簡単に言うけどそうはいかないな。何故なら――召喚名手と呼ばれたこの私の力を知ればわかることか――」
そう、召喚獣である、”召喚名手”と呼ばれる理由の一つにそれが呼び出せることがあげられる。
召喚獣を呼び出すだけならある程度修行したものであれば分けないが、
そこであえて”召喚名手”と呼ばれるほど有名な存在ということは、それでいて能力も高いということでもあるわけだ。
そして、召喚名手が呼び出した召喚獣はナキルとアリエーラの2人の足元から地面へと浮き上がってきた。
姿は五角形でドラム型のような人工的な生物――魔法生物型の召喚獣である。
2人はその召喚獣の上におり、敵兵を見下ろしていた。
「さて、どうするね? こいつは”パニッシュ・アイズ”と呼ばれる獣。
大昔、裁判の間で大罪を犯したものをその目から放たれる破壊の光線で焼き尽くしたという存在だ」
ナキルの言う通り、五角形のそれぞれの側面には不気味な目が見開いていた、これがその破壊の光線を放つという目である。
「ひっ、ひるむな! 撃て! 撃て! 撃て!」
敵兵は次々と召喚獣に対して射撃を繰り返してきた。
「ははあ、飛び道具には飛び道具を、か。
確かに敵の数も多いし、このままではこちらが持たないかもね、アリエーラさん?」
えっ、私? 急に振られたアリエーラは驚いていた。でも、自分も何かしたほうが良さそうなことだけは間違いない。
そう思い立った彼女、この際だからこの子にしようかと考えると、何かを召喚した。
そいつは上空から、パニッシュ・アイズの上――2人の目前に、
ある意味火の玉を模したようなおどろおどろしい姿をした変な黒い球体が降ってきた。
「こっ、こいつは! まさか世界を破壊すると謳われるあの魔獣では!?」
ナキルは驚いた、召喚名手ほどの使い手でも驚くほどの幻獣らしい。
そいつは”パニッシュ・アイズ”と同じ魔法生物型の召喚獣であり、その名前は――
「”カタストロフィ”! 重力増大!」
アリエーラの意志に従い、カタストロフィが何やら念じると、
周囲の敵兵は動きが遅くなり、銃口をこちらに向けることが難しくなっていった。
「なっ、銃が……重い……!?」
「揺らして!」
カタストロフィがさらに念じると地震が発生し、
敵兵はまともに起き上がることができなくなっていた。
「時空間をゆがませることで重力を操作したり大地を揺るがしたり……伝承は本当だったのか――。
いやしかし……となると、彼女は本当に何者――」
ナキルはカタストロフィとアリエーラの所業に対して愕然としていた。すると――
「あっ、アリエーラさん! あれは!」
ナキルが促すと、そこにはハライアル軍の戦車が現れると、学園の建物を……まさか、そんな――
「ルーティスももうおしまいか――」
そんなの、そんなのって――アリエーラとナキルは絶望していた、
学園内であのような兵器が蹂躙しているとは――
「……。アリエーラさん、どうするね、私は彼らを許すことが到底できないよ、
彼らは我々の学園を奪った、学び場を破壊したんだ……例え、私がこれからすることが非人道的と言われてもだ――」
「私も同じ気持ちです、ナキルさん――」
ナキルとアリエーラは心を鬼にした。
「異存はないね、アリエーラさん。彼らのやっていることは最低そのものだ。
奇しくもお互いに呼び出した獣はどちらも似たような性質の魔法生物型の破壊獣……
つまり、彼らはこの状態で完全に破壊されてももんくなしと受け取ってもいいだろう、どうかな?」
「ええ、私も止む無しと思って受け取ります。あの人たちを許すことなど到底できません!」
2人は頷くと、カタストロフィとパニッシュ・アイズと呼応し”完全なる破壊”を唱えた。
カタストロフィの時空間を左右する力とパニッシュ・アイズの罪人を灼く力、
その力が合わると、そこらにいた敵兵や敵の戦車すべてを木端微塵に、完膚なきまでに破壊した。
「……こんなことをするのは初めてだ、こちらとしても到底気分のいいことではない。
だけど――彼らのしたことは私らのしたこと以下だった、二度と、二度と……こんな力を使いたくはないものだね――」
ナキルがそう言うとアリエーラは頷いた。
「私は――以前のことはよく覚えていませんが、とにかく彼らがしたようなことが二度とないように願うばかりです――」
さらにそれからというものの、ルーティス軍の抵抗は善戦していき、何とか戦況を立て直していた。
後日、ルーティスからの避難民が完全にルーティスを離れると、ランスタッドの援軍も本格的にルーティスへと上陸を開始、
そのまま、ハライアル軍を蹴散らしていった。
だが、ランスタッド軍も既に解体気味、やってきた援軍は数もそう多くなく、ハライアル軍を攻略したのもギリギリに近い状態だった。
しかし失われた命はもう二度と戻らない、エンビネルもすでに連中によって亡き者に――
私、どうすればいいのだろうか、行き場を失ったアリエーラは悩んでいた。
「ナキルさん! 大丈夫ですか!?」
「ゲホッゲホッ、ああ、なんとか平気さ――」
戦いの後、アリエーラはナキルの様子を見に行っていた。
ナキルは戦いで体調を崩していて簡易ベッドの上に横たわっていた。
大丈夫だろうか、心配するとナキルはにっこりとしながら答えた。
「こんなに過剰に魔力を使ったのもご無沙汰だからね、
それに私はもうそんなに若くもない、昔は多少の無茶も余裕だったが今は流石に辛いようだ。
だからしばらくは安静にしているべきだろう。
だけどどうだろうか、キミは私より魔力をだいぶ使っていたはずだ、それこそ私の全盛期以上の力をね。
それなのにキミは全然堪えていないときたんもんだ、まったく――ミステリアスな美女とはキミのことか」
アリエーラは相変わらず自分のことについては聞き流していた。
「そ、そうですか――お体を大切にしてくださいね!」
でも、これからルーティスはどうなってしまうのだろうか、それが非常に気になるところである。
幸いにも建物は辛うじてきちんと残っている、だから再び学園生活が始められるとは思うが、
それでも戦の爪痕は深く、学園の復帰が先の話になるのは避けられないだろうとナキルは言う。
確かに建物だけあっても教える立場の者がいなくては――
多くの者が亡くなっているのだからそれを弔うのが先だろう。
「そうそう、そういえばキミにはエンビネルからの伝言――いや、遺言を伝えなくてはね――」
と、ナキルは思い出したかのように言った。
「というか、こうなった以上は伝えるほどのことでもないだろう。
一応、あえて言っておくけどキミには引き続き、”幻界碑石”を調べてほしいそうだ」
確かにアリエーラに託されたことは他になかった、
それがアリエーラにとっての彼に対する弔いとなるのだろう、これまで共同で研究していたのだから。
しかしその研究をする過程でやらなければいけないことがある、それは――
「わかりました、私、”幻界碑石”を求め、クラウディアスへ行ってまいります!」
そう、かの地へ赴くことが大きな課題となっていた。
道は平坦ではないかもしれないが、だけど、アリエーラは何が何でもかの地へ行かなければならないのだ。