アリエーラとエンビネルとの馴れ初めは2年前の戦争にあった。
ルーティスの都の目前までグレアード軍が迫っていた。
「エンビネル! これ以上はこっちが持たない! 一旦退くぞ!」
当時のルーティス軍はグレアード軍から劣勢を敷かれていた。
そんな中エンビネルとナキルはルーティスの前線を守り通していた。
しかし、それもこれまで――
「それはダメだ! ナキル、ここの砦を破られるとルーティスは後がなくなる!
ランスタッド軍が援軍に来るまでの辛抱だ!」
エンビネルは必至に応戦し、諦めないでいた。
エンビネルはしばらく前線で持ちこたえていた。
ナキルやほかの魔道士たちも彼の頑固さに負け、その場を守り通すことにした。
「ここを守らねば――ルーティスの、学生の未来がない――」
だが、彼らも限界が近づいていた。そのため、既に倒れる者も出始めている頃だった。
「グレアードの植民地となれば……我々の未来は断たれたも同然――」
軍国主義なグレアードに平等で偏りのない学問を期待することは絶望的だった。
しかし、ナキルは何かに気が付いて叫んだ。
「なんだ!? あの大きな鳥は――」
それは瀕死の状況の彼らの頭上に突然現れたのである。
「これは一体――」
彼らは警戒していた、見たことのないその生物、
神々しいまでに純白な色の巨大な鳥、こちらを見つめていた。
「まさか、グレアード軍の放った召喚獣、ということはないだろうな――」
純白の鳥は静かに羽ばたきながらこちらの様子を優しく見守っていた。すると――
「エンビネル! グレアード軍からの攻撃だ!」
遠くから砲弾による集中砲火がルーティス軍に襲い掛かった! もはやこれまでか、そう思って諦めかけたその時――
「こっ、これはいったい――」
エンビネルは驚いた、2人はオーロラのカーテンのようなものに包み込まれていた。
「エンビネル! 上を見ろ!」
ナキルがそう促すと、オーロラのカーテンは純白の鳥の仕業だったことが分かった。
そのオーロラのカーテンは敵からの攻撃をすべて遮断、グレアード軍の攻撃を完全に無効化していた。
さらに純白の鳥は七色の光をまとい、攻撃の元であるグレアード軍に対して狙い定めをしているようだった。
「ナキル、あれは召喚獣なのか!?」
「さあ、私もあの”獣”は見たことがないな」
エンビネルは疑問に思っていたがナキルもよくわからず、不思議そうに鳥の様子を見ていた。
すると鳥は、次に大きな縦円を描くように飛んだ。普通の鳥なら出せそうにないものすごい速さで回った。
「ナキル! あれは!」
エンビネルは気が付いた、鳥が飛び回っているその背景の崖の上に佇んでいる女の子がグレアード軍に向かって詠唱している姿があった、
そう、彼女こそがアリエーラである。
「まさかこの鳥は、彼女の”獣”なのか!?」
エンビネルは驚きながらそう言った。
すると、鳥が描いた円の内部から次第に数個の強大な光が発生し、
それがレーザーのごとくグレアード軍めがけて次々と放たれた。相手をけん制していたのだった。
「……こんな”獣”は私でも知らないな、一体何なのだろうか――」
ナキルはそう言った。そのうち鳥は攻撃を一旦やめ、その場で静かに羽ばたいていた。
それに対して今度はグレアード軍が反撃をしてきた。
すべての攻撃は鳥のほうに向けられたがその攻撃は鳥には一切通用せず、すべてかき消されてしまった。
そしてその後――鳥から強大なレーザービームが放たれ、グレアード軍を一掃した。
その後、鳥は姿をくらますと、召喚主であろうアリエーラはあの場にぐったりと倒れていた。
2人はその女の子のほうに向かうと、その姿を確認した。
「エンビネル、見ろ! なんでもない、ただの少女だ! こんな子が、未知の業を使用するとは――」
「しかし、力尽きて倒れてしまっているようだな。
グレアード軍を一掃するほどの力を放ったのだ、流石に無事ではいられないだろう――」
2人はその少女の死を覚悟し、がっかりしていたが――
「ナキル! 息があるぞ!」
「何!? あれほどの大軍隊を葬り去るほどの力を行使したというのにか!?」
それからというもの、アリエーラはこの学園でお世話になっている、自分のことを知ることもなく。
当時放った謎の召喚獣は彼女が無我夢中で発動した存在だが、
当時に何を召喚したのかなど、あの時のことは一切覚えていなかった。
ただ行き場がなく、彼女は召喚魔法の使い手ということもあって、
エンビネルをはじめとするルーティス学園らの目にも留まり、結果、居候という形でお世話になっている、
ルーティスの女性精鋭寮という住を提供してもらっていたのである。
ルーティス学園は学術に優れた都市、ここで育った精鋭というのはまさにエリート、
武技の使い手だったり、魔導の使い手だったり。
精鋭寮にはそんなルーティス学園の卒業生たちが住んでいて、各地で活躍しているのだ。
ちなみにあのエンビネルもここの元生徒で男性精鋭寮で住んでいたこともあった、
彼はすでに結婚していることから独身寮であるその寮からは住を移しているが。