エンドレス・ロード ~プレリュード~

悠かなる旅路・精霊の舞 第1部 先の見えぬ旅路 第1章 ルーティスの危機

第5節 美しすぎる女教授の歴史的大発表 -伝説はここからはじまった

 アリエーラはナキルと話を重ねていた。 その後エンビネルが講義から戻ってくると、2人の話題には腰を抜かしていた。
 後日には一部の共同研究者も加わると、 アリエーラの説については割と信憑性が高いと言われるようになり、 しかも話を重ねていくとともに自分たちが研究対象にしてきたパワーストーンがまさかの伝説の存在とも言われた”幻界碑石”である可能性がどんどん高まっていくため、 次回の研究発表会ではアリエーラの説を中心に話を進めていくこととなった。
 しかしその際の研究発表会と言えば、 これまでのクラウディアスのパワーストーンについての研究発表会という催しとは打って変わって規模の大きさが桁違い―― エンブリアの神話について研究している者から当時の天変地異について研究している者、 さらにはセラフィック・ランドの歴史を研究している者やそれ以外にも様々の分野の研究者と、 そしてエンブリアやセラフィック・ランドの歴史に関わる内容ということもあってか 研究者以外にも見学しに来た者も多く、会場はルーティス学園でも最大の大きさを誇る大講堂が使用された。
 ただ、セラフィック・ランドにかつてあったとされる様々なオブジェを1つ1つ説明しようとなると、 いろいろと面倒そうな話になりかねない。 そう考えたアリエーラたちはあくまで”幻界碑石”の話を中心とした内容として、 他のオブジェを補足程度に説明していくという感じに進めていくことにした。
 一番アリエーラが気にしたのは発表する場の人数の多さではない――それについてはある程度想定していたが、 それよりも多くのカメラが設置されていることについては想定外だった。 非常に緊張したが、アリエーラはそれに対して臆せず自分の考えを発表した――

 だが、翌日の各種メディアを見たらとんでもないことになっていた。
「”美しすぎる女教授の歴史的大発表”だって! ははは、いいねこりゃ!  各社こぞってキミが世紀の大発表をしたことと同時にキミの美しさを取り上げているよ!  才色兼備の女教授は講堂内の者すべてを虜にしていた、まさに彼女こそが奇跡の美女と呼ぶに相応しいのだろう、だってさ!」
 エンビネル教授は笑いながら言った、 それは某新聞社が掲載している後の世まで伝説として語り継がれることとなる、まさに伝説の大見出しである。 なお、研究対象を直接確かめて確証を得ているわけではないため、 見出しもあくまで”大発見”ではなく”大発表”でとどまっている。 しかし、それでも一面を堂々と飾っているアリエーラの美しい立ち姿については誰もが圧倒し、 誰もが見惚れること請け合いである。
「違います! 私は別に、そんな”美しすぎる”とか、”奇跡の美女”とか、 とにかくそんなふうに持て囃されるような器ではないですし、それに教授でもありません!」
 アリエーラは顔を真っ赤にしながらムキになってそう言い放った。 その様が可愛らしいことについてはこの際、捨て置こう。
「それにしても、キミの才能はその若さにして、この学園の学生たちはもとより、 教員・教授のそれを遥かに凌駕している、大したもんだ。 それでいてこのビジュアル――キミの意に反するが、才色兼備というのはまさにキミのためにある言葉としか思えないね――」
 そう言われたアリエーラは顔を真っ赤にしたまま、またしても謙遜していた。 とはいえ、確かに若いと言えば若いのかもしれないのは確かだ、 年齢にしてだいたい17~18歳ぐらいという印象を受けられるため、教授というよりはむしろ学生である。 そのハズだが、アリエーラは年齢に対して違和感があった、恐らくだがもっと生きている気がする――
「でもさ、今の時代こうやって女性が堂々としている様を取り上げているのは新たな時代の流れなのかもしれないね」
 と、エンビネルは嬉しそうにそう言うとアリエーラは我に返った。 この際、一面を飾ってしまったのは今更どうしようもないとしても、 今回の発表でうまい具合に事が運んでクラウディアスに行くことになるためのきっかけになればいいな――アリエーラはそれを密かに期待していた。

 その日の新聞の一面を飾ってしまったアリエーラ、面倒なことにその日以降は彼女への取材がひっきりなしだった。 当然、彼女としてはそういうつもりではないので戸惑っていた。
 アリエーラは少し前からこの学園で教鞭を取っていた。 彼女の才については学園側としても見過ごしておくハズもなく、学園から特別講師として依頼されていた。 アリエーラとしてもほぼ居候同然で研究している状態でもあるため断ることなどできるはずもなく。 だけど、それでいて取材だなんて……なんだか大変なことになってしまったようだ。
 とにかく、アリエーラは取材に対応したくなかった、恥ずかしいのである。 そのため、学園側の関係者が対応に追われていたのである。
「アリエーラ女史は教授ではない!? ということはつまり学生さんなのですか!?」
 この通り、取材の内容はパワーストーンではなくアリエーラ個人についての話ばかりであるため、 彼女としてはなおのこと取材を受けたくないのである。
「いえ、学生というわけでもないですね。というのも実は彼女、素性が一切わからないんですよ」
「ルーティス学園の者ではないのでしょうか?」
「そうですね、少なくとも本学園で教育を受けた経歴はないですね。 それに、本人でさえ自分自身のことをよくわかっていないようです」
「わからない? どういうことでしょうか? 記憶喪失か何かということですか?」
「それについては何とも……。説明しましたように、彼女については当学園では一切情報を持っていないのです。 ですから、できれば彼女について情報をお持ちの方がいらっしゃれば、むしろ教えてほしいというのが正直なところです。 それについては彼女を発見した際に市にも報告しておりますため、そちらを確認いただければと思います――」
 だが、ルーティス市に問い合わせて得られたのは情報提供を広く呼び掛けている内容のみ、取材陣は断念せざるを得なかった。