こんな大勢の前で自分の考えを発表するだなんて……アリエーラはとても緊張していた。
だけど、彼女は臆せず自分の考えを主張した。
「私の発表内容については以上です。ご質問等はございますか?」
発表後、あたりは騒然とし、そして各々は長考していた。
するとアイルが手を上げたので、アリエーラはレポート用紙をたたんで右手に持ち変えて左手で促すと、アイルは発言した。
「ええっと、冒頭のエンビネル氏の指摘にもありましたが、パワーストーンは何かの力の通り道だということですか?
繰り返しになってしまって申し訳ないが――」
アリエーラは答えた。
「はい、パワーストーンは精神の通り道です。
精神力は魔法のエネルギーの源ともなりますし、
精神は皆さん個人個人にも備わっているものですからパワーストーンの存在の有無に関わらず魔法は行使できますし、
精神の通り道であるパワーストーンが解放されれば魔法の力は増大する――その説明も可能だと思います。」
「しかし”通り道”というのがどうにも――」
アイルがそう言うとアリエーラはまた臆せず主張した。
「ええ、ですが火のない所に煙は立たちません、
つまり、本来なら特に何もない所から突然大きな力は降って湧いたりしないことと同じことです。
恐れながらこれまでのパワーストーンの研究内容を一度洗い直させていただいたのですが、
暗黙のうちに”パワーストーンは力を生み出す何か”という方向で話が進められていたような気がするのです。
ですからそもそもパワーストーンが何者なのかという点から考え、
私なりに導き出した案が今回発表させていただいた内容です。」
それに対してナキルが関心を示した。
「そうだ――確かにパワーストーンは力を生み出すためのもの――では、
どのようなアルゴリズムで魔力を生み出しているのかというのが根底にあったから根本的な部分について考えるという発想はなかったな」
また別の学者が口を開けた。
「しかしそれがトンネルだとして、対象はただの石だぞ?
出入り口らしきものがあれば別だがあれはただの一枚の壁岩と言われている、一体どうやって開くのか?」
それに対してナキルが代わりに答えた。
「いや、アリエーラ女史は”精神の通り道”と称した、つまり精神力の通り道ならば物理的な出入口である必要がない。
女史の説明では、魔法そのものが通っているということではなく、
魔力エネルギーとなる前の”精神エネルギー”がトンネルの内部を”行き来している”と言っているからね」
さらにその場が沸いた。
「待て待て待て! ”行き来している”と言ったな!
それでは我々が精神だけの存在だったらトンネルの向こう側へ行けるということになるぞ!?」
また一人の学者がそう言うと、アリエーラは頷いた。
「それについては次回にもう少し内容を詰めてレポートに記載させていただく予定でしたので、今は概要だけ。
確かにそういうことになりますね。
というよりも、そもそもそのパワーストーンを介し、精神体となってこの世界に姿を現しているものがいます――
実際にはこちらの世界に現れたと同時に血肉を持った生物として存在しているものとなりますけどね。」
そう、それこそがまさにアリエーラ女史が今回の発想に至ることになった存在だった。
「まっ、まさか――パワーストーンは”召喚獣”の通り道だとでも言うのか!?」
「はい、その可能性が高いと思います。クラウディアスは召喚王国です。
ある資料によると一昔前までパワーストーンの力は大昔のクラウディアス王族たちによって封じられてしまっていたようですが、
それでも何故クラウディアスが召喚王国として栄えることになったのか?
その理由があの石にある――私はそう考えています。」
研究会でのアリエーラ女史の発表は大成功だった。
「やはりアリエーラさんを推したのは正解だったね」
エンビネルは嬉しそうにそう言った。
「そんな、私なんて……みなさんの足元にも及ばないです――」
アリエーラは謙遜しながら答えたが、
「そんなことはないだろう。
そもそも私の考えを裏付けるまでには相当の時間を費やしている。
いや、実際のところ、私の考えではまだ説明できていない点も多いぐらいだ。
それなのにアリエーラさんの考えときたら、
私の案が抱えている問題もすべてクリアーにしている始末、
みんなの支持を集めたのは確かだ、胸を張ってもいいんだよ」
しかしアリエーラはそれでも謙遜していた。
話をしている間に先ほどアリエーラの案に乗っかった一人の召喚士がやってきた。
「やあエンビネル、こうやって会うのも久しいね」
それはナキルという人物だった。
「なんだ、どうしたんだナキル、もう帰ったんじゃなかったのか?」
「いや、実はちょっと話をしたいことがあってね」
そう言われるとエンビネルは頭を抱えながら言った。
「うーん――実はこれから講義があるのでね、できれば後にしてもらえれば助かるのだが――」
しかしナキルは首を横に振った。
「ああっ、ごめん。話はエンビネルじゃなくて、そちらの美人の学生さんとしたかったんだよね」
それに対してエンビネルは驚き気味に、そして頷きながら答えた。
「えっ? ああ、アリエーラさんか。それなら彼女さえよければいいんじゃないかな?」
そう言われたアリエーラ、戸惑いながらも話に応じることにした。
アリエーラはナキルを研究室の一室に促し、お茶を出した。
「わざわざありがとう。いやー嬉しいねー、こんな綺麗な人にお茶を出してもらえるだなんてー♪
エンビネルのやつもなかなか隅におけないなぁ♪」
ナキルがそう言うとアリエーラは唖然としていた。
「……ごめんなさい。気に障ったかな、本当にごめん――」
ナキルは悪びれながらそう言うとアリエーラは控えめな態度で答えた。
「あっ、いえ――あの、それで、どういったご用ですか……?」
アリエーラが本題を切り出すとナキルはお茶を飲み、カップをテーブルに置いた。
「うん、実はパワーストーンが精神トンネルだっていう考えに圧倒されちゃってね。
まだいくつかの案も可能性が残されているし、それでも今のところエンビネルの研究内容がメインとして進んでいるというのに、
キミの考えたその案を覆す要因がぐうの音も出ないほど出てこないからすごいなと思ってね」
そう言われても――アリエーラは実感が湧かなかった。
「言い換えればキミの案はエンビネルの案を踏襲しつつもさらに根底を覆し、
その他の案の可能性さえ踏襲してオールクリアーにしてしまった。
そんなことができる逸材はまさに天才と呼ぶに相応しい、恐れ入ったよ」
アリエーラは照れていた。
「そういえばアリエーラさん、以前にも会ったことがあるけど、キミも召喚士なんだよね」
しかしアリエーラは覚えていなかった。ただ、一応召喚士であるハズ――
「えっ、あっ――はい……一応召喚士見習いです――」
「いやいや、見習いだなんて謙遜しなくたっていいんだよ。
聞くところによると幻獣キリンやシュタラウト、
それに、そこそこに名が知れている私でも知らない”獣(じゅう)”を従えているというのだから、
かなりの使い手と見て間違いないだろう」
それでもアリエーラは実感が湧かなかった、そういうものなのだろうか?