「痛いけど、少しだけ我慢するのよ。」
エレイアはあの後、セイバルの研究島まで戻ってくると、リリアリスの手術を施されるに至る。
「麻酔とかしないのか?」
イールアーズはそう言うと、リリアリスは言った。
「分かってるでしょ、そもそもシェトランド人にはそういうのはほとんど効果がないのよ。」
あっ……そうか、敵から何度か麻酔銃や麻酔針の類を受けたことがあるイールアーズ、
言われてみれば確かに――
「大丈夫よ、私は上手なんだからさ、うまくやってあげるわよ。」
すると、リリアリスはゴム手袋をした手をエレイアの傷口の中へと突っ込んだ、
ディスティアがうまい具合に切り付けてできた傷口である。
エレイアは苦しそうだったのでディスティアは心配したが、
リリアリスならうまくやってくれると信じて祈っていた。
「エレイアの核ね、確かに、正確に、異物を切っているわね。
これで再結合が起こればきっと――」
普通なら身体のあちこちの器官を傷つけそうな行為だが、
恐らく魔法の力でも使っているのだろうか、うまくやっていると思われる。
「にしても、意図的に核を傷つけて元に戻すとか、結構とんでもない方法だな。
成功したからいいものの、でも、そこはきちんと正確な技を入れる当たり、流石と言うべきか――」
イールアーズは感心しながらそう言った。
そして、リリアリスはエレイアの身体の中をいろいろと探っていると――
「見つけたよ、これがそうね――」
彼女はそう言いながら、ゆっくりとエレイアの傷口から手を引っ込めた。
すると、彼女はその手で何やら変な物体を握っていた!
「これでエレイアをコントロールしていたっていうの!?」
ローナフィオルは驚きながらそう言った。
それに対し、リリアリスはその物体を眺めながら答えた。
「なかなか精密な機械ね。
多分だけど、魔力を増幅して神経系統を支配するための機構が備わっているのかしら。
魔法生物を操るのにこの手のものが使われるケースもあるけど、
そういうものに比べると、これははるかに高度なものよ。
それはやっぱり、ヒューマノイドタイプの生物相手だから、
より精密かつ高度な技法や部品で作られているってことになるのかしら、ちょっと分析が必要ね――」
こんなものがあるから、エレイアは――
「もしかしたら、薬の力で解消する方法があるかもしれないわね、次の被害者が現れたらの話だけど――」
機械に対してそんな対処法があるのか――でも、神経系統に作用するということなら意外とありなのかもしれない。
にしても、手術とか、薬を作るとか、そんなことまでできるとは、リリアリスの力は侮れないようである。
そして最後に、セイバルの研究島の施設も爆破すると、彼らはその場を後にし、それぞれの島へと戻っていった。
数日後、ディスティアの今の状態についてはいろいろと賛否両論あるようだが、
彼にしてみればそんな話、ほぼどうでもよかった。
しかし、それでも彼にとって気になるのはエレイアのことである。
「賢者ディスティア様になったんだね、そう呼んだほうがいいのかな?」
エレイアは彼にそう言うと、ディスティアは優しく答えた。
「いいや、今まで通りに呼んでくれると嬉しいよ、キミにとっての私は私だ、それ以上でも以下でもない。
もう、身体は大丈夫なのか?」
エレイアはまだ調子を取り戻せてはいないが、それでも、普通に動けるまでには回復していた。
「うん! ディル! 再結合、うまくいったみたい!」
「そっか、それはよかった!」
ところで、エレイアはディルに話があった、真剣な話である。
「私のこと、あんなに心配してくれて、ありがとう。やっぱり、私には、ディルしかいない――」
そして、エレイアは悩みながら話し始めた。
「でも、私、今まであんなこと――とっても淫らなことやってきた女なのよ?
それこそ、ヴィーナス・メリュジーヌとかシュリーアとか名乗って、たくさんの男たちと……。
それなのに、今になっても私はディルと一緒にいたいだなんて、どうかしてるよね、
こんな女、ただのアバズレ女よね……」
エレイアはとてもつらそうにそう言うが、ディルは何も言わずに彼女をそっと抱きしめた。
「私もかつては多くの人を殺し、万人斬りと呼ばれた身だからね。
もちろん、その過去は決して消えることはない。
だから、これからもそれに向き合って生きていくつもりだよ――」
エレイアはため息をついていた。
「そっか、ディルは強いんだね、私なんかとは全然違う――」
そんなエレイアに対し、ディルは優しく諭した。
「強いわけじゃないよ、私にはそれしか残されていなかったんだから。
当然、そこから逃げて、生きることを放棄できたハズだけど、私にはそれができなかったんだ。
だから、今の私はここにいるんだ――」
生きることを放棄できなかった? どうして? エレイアは訊くと、ディルは優しく答えた。
「それはエレイア、キミのおかげだからだ。
それだけのことかもしれないけど、私がこうしていられるのはまさにキミのおかげだと思っている。
だからもし、エレイアがいなければ、きっと私は変わることができず、あのまま生きることを放棄していたことだろう」
「私のおかげ?」
「そう、エレイアのおかげだ――」
エレイアは少し考えた。
「ねえ、ディル、私も変われるかな?」
ディルは笑顔で答えた。
「もちろんだ、私ができたのだから、エレイアにできないハズなどない。
私のためなら何でもしてきたキミだから、キミにできないとは到底思えない、だから、間違いないよ」
エレイアは楽しそうに答えた。
「ふふっ、不思議ね、ディルに言われると、本当にできそうな気がしてきた!」