舞台は再びセイバルの島の本部内、シュリーアを目の前に、果敢に挑んでいる男の姿があった。
「ふふっ、あなた、なかなかやるじゃあない。次の下僕、前に出なさい!」
シュリーアはその男に対して次々と下僕を差し向けていた。しかし、その男の強さは圧倒的だった。
「あの、そろそろやめません? それでもどうしてもというのであれば、
あなた方が全員一度にかかってきても一向にかまいませんので――」
果敢に挑んでいる男、それこそがまさかのディスティアであった。すると――
「あん? テメエ、女神様の力をなめてんのか!? テメエごときが、女神様の御身に触れられると思ってか!」
と、シュリーアの下僕の一人が怒りをあらわにしながらそう言った。
すると、ディスティアは前向きに話した。
「そうですね! 彼女、とてもおきれいな方ですから、ぜひに触れてみたいものですね!
というのも、そもそも私の目的ですが、実はそれなんですよ!」
それに対し、シュリーアはニヤっとしながら答えた。
「あらぁん? もしかして、私の下僕になりに来たのかしらぁん?」
そう言われるとディスティアは難色を示した。
「うーん、何と言えばいいかな、私の用事と言うのはエレイアさん、あなたですよ。
ですからすみません、シュリーアさんには用事はないということですよ」
すると、シュリーアは笑い出した。
「バカねえ、まだわからないのかしら? だから言っているでしょ!
もうこの世には、お前の知るエレイアって女はいないんだよ!
言ってしまえばこの私こそがエレイア――新たにシュリーアっていう女神として生まれ変わったこの私こそがお前の求める女なのよ!
そろそろお分かりいただけるかしらぁん? だ・か・ら……いい加減にこの私の香りとこの美貌に心底心酔し、
そして私の手足とおなりなさいな♪ もちろん、あんたはすんごいイケメンだから、特別に扱ってあげるわよぉん♥」
シュリーアはディスティアに対し、色香を振りかけてきたが――ディスティアには効かなかった、
それがシュリーアとしては納得のいかないことであり、イライラを助長させていることでもあった。
するとディスティアは、その女の向かって剣を――
「あら、何のつもりかしら?」
「ええ、これは意思表示と言うものです、つまりはそう言うことですね――」
すると、彼女の取り巻きたちが一同に会して襲い掛かってきた!
「女神様に向かって何様だ貴様! 今すぐ始末してくれるわ!」
するとディスティアは自分の剣を構えなおし、向かってくる男共に対して次々と剣を浴びせていった!
「ぐはっ、こいつ、強い、強すぎる!」
無論、不殺ずの極意、酷く痛めつけただけで、命まで奪うことはなかった。
「すみません、こればかりはどうしても”約束”ですから、譲るわけにはいかないのです。
ですから、どうしてもというのなら、私はあなたとて、容赦は致しませんよ!」
ディスティアは力強くそう言うとシュリーアは楽しそうに言った。
「ウフフフフ、容赦しないってどういうことかしらぁん?
だったらほぉらぁ、やってごらんなさいな、この私の美しすぎるボディ、どうしたら傷がつけられるというのかしらぁん?
さあほら、やってみなさいな? ウッフゥン♥」
と、シュリーアは色気全開でディスティアに迫ってきた。
それこそまさに誘惑魔法の中でもかなりの効力を誇る大技、男共が攻撃をためらうこと請け合いの能力だった。
それを知ってか、シュリーアは半ば裸に近いフォルムの立ち姿で完全に丸腰かつ、あらためてディスティアを誘惑し、
自らの手足とするべく、いい香りを漂わせた――
ところが――
「すみません――」
ディスティアはそう言いながら納刀していた。
「なっ、何がすみませんって? バカじゃないの? さっきの勢いはどこに行ったのかしら?」
シュリーアはディスティアのその様子に対して得意げに笑いながらそう言った。
「ええ、実は――あなたがいろいろと話をしているうちに既に決着をつけさせていただいたと、そういう意味です。
とにかく、今のは少し反則でしたね、まあ――こういう状況ですから、お互い様と言ったところでしょう――」
何を言っているんだこの男は、シュリーアは得意げな表情でそう思いつつ、話を返した――
「はあ? お互い様ですって? なんのつもりかはわからないけれども、この私のこと、ナメないほうが身のためよ?」
だがしかし、次第に彼女の身に異変が――
「それとも何かしら? やっぱりこの私のために尽くしたいと、そういう……」
と、シュリーアはそう言いながらその場でぐったりと倒れてしまった。
すると、そこへとある男が飛び出してきた。
「なんだ、どうしたんだ!? シュリーア! 我が妃よ! 何があった!? どうしたというのだ!? しっかりするのだ!」
そいつはドライアスだった。そして、ディスティアのほうへと向き直ると、そいつは激怒しながら訴えた。
「己ぇ貴様! 今、何をした! 私のシュリーアに向かって、一体何をしたんだ!」
それに対し、ディスティアも怒りをあらわにして訴えた。
「彼女はシュリーアではないしお前のものでもない!
彼女の名前はエレイア! 私にとって掛け替えのない、大切な人だ!
それをお前は踏みにじった、その恨み今すぐここで晴らしてくれる!」
「何だと!? 貴様、何のつもりだ!? この女は私のものだ!」
何のつもりとはいい質問である、まさか、この男の存在を忘れているのだろうか――
すると、倒れたはずのシュリーアは、か細い声を上げながらその言い合いに反応していた。
「もしかして、あなたは――」
それに気が付いたドライアスは、シュリーアのほうに慌てて駆け寄りながら言った。
「おお、どうした、私の大事な女神よ、今すぐ、お前のことを――」
しかし、シュリーアは駆け寄ってきたドライアスの存在を振り払い、真っすぐとディスティアの目を見ながら訴えていた。
「もしかして、あなたはディル……?」
ディル!? ディルってまさか――ドライアスは恐る恐る後ろを振り向くと、
その男、ディスティアの顔を改めて確認した……
「まっ、まさか貴様、あの万人斬り――」
すると、ディスティアはドライアスを瞬時に切り刻み、殺した――
「ひっ、ひぃぃぃぃぃ……」
いや、殺すつもりだったが途中で考えを改め、すんでのところで踏みとどまった。
そう、彼は”万人斬り”ではなくなったのだから。
「元・万人斬りだ。とりあえず、改めてお前に問うことにしよう。彼女はシュリーアではなく、エレイアという名前の女性だ。
彼女は私にとって掛け替えのない、大切な人なのだ。だから、彼女は返してもらおう、それで異存はないな?」
ドライアスは声も出せず、そのまま首を縦に激しく何度も振った、OKと受け取って差し支えなさそうである。
しかし実に惜しい、万人斬りを卒業してしまうタイミングが悪かったというべきか、
ディスティアとしては、腰が砕けて立ちすくんでいるこの男を殺せないのがあまりにも惜しいことであった。
「さあエレイア、行くよ――」
ディスティアはエレイアの元に近づき、彼女を抱きかかえあげた。
「ディル……すごい、本当に助けに来てくれたんだ――」
エレイアはか細い声で彼のことをじっと見つめながらそう言った。
「今は何もしゃべるな、傷に触る。
再び核に傷をつけてしまったんだ、安静にしていた方がいい――」
なんと、ディスティアは彼女の核をまたしても傷をつけたのだという。
それは当然、シェトランドをコントロールするための遺物を破壊するということを行ったためであり、
もちろん、エレイアの胸元からはそれ相応の流血が――
「大丈夫、切り口は正確、すぐには死にはしない。ですよね、リリアさん?」
それに対し、ギャラリーに交じっていたリリアリスが前に出て話した。
「まあね、シェトランド人って結構タフだから、
ちょっとやそっと傷ついたり血出したりしてもそう簡単には死なないのよね。」
それに対し、ディスティアは悩みながら言った。
「いや、でも、だからといって、それはそれであんまり気持ちのいいものでは――、痛いものは痛いですし……」
ディスティアは改めてリリアリスに訊いた。
「そう言えば作戦通りであれば――リリアリスさん、あと時間はどのぐらいです?」
リリアリスは得意げに答えた。
「あと、2分半ってところかな。
大丈夫、ある程度はカタが付いているハズだから、あとは私らが脱出するだけよ。」
それなら脱出を――と思ったが、ディスティアは肝心なことに気が付いた。
「ああ、そう言えばあなたは――どうします?」
ドライアスにどうするか訊ねることにした。そいつはそのまま腰を抜かして立ちすくんだままだった。
「立てないのですか? 手を貸してあげましょ――」
と、ディスティアは手を差し伸べたが、ドライアスは慌てて逃げ出し、
腰が引けているのか何度も何度も転びながら、その場から一目散に逃げだした。
「なーんか、逃げちゃいけない方向に行ったわね、せっかく元・万人斬り様の技にかかって生きながらえたっていうのに……」
リリアリスは呆れながらそう言うと、ディスティアは言った。
「うーん、自ら命を投げるというのは――本来であれば止めるべき立場ではあるのですが、
この際ですから、彼の存在は見なかったことにしましょう」
賢者様にも見捨てられるとは……もはや救いようがなかった。
まあ、因果応報ということで命を諦めてもらうほかなさそうな感じである。
そしてあの後、リリアリスは時間を示した通り、
セイバルの本拠地……いや、あの島の拠点をすべて爆弾で吹き飛ばしたのである。