それからどのぐらい時間が経ったのか知らないが、イールアーズは気が付いた。
「ルイゼシア!? ルイゼシア、どこだっ――」
だが、自分はどういうわけか、床の上に倒れて後ろ手に縛られている状態だった。
「ルイゼシアは知らないけど、そうじゃない女だったらあなたの目の前にもいるわよ。
まあ、私じゃその娘の代わりになるわけないんだけどね。」
と、その女は得意げにそう言った。その女の存在に気が付いたイールアーズは――
「なっ!? お前はまさか――」
それに対して女は片手を上げながら言った。
「よっ、久しぶりね、鬼人の剣君。あれから強くなったー?」
その女は得意げだった、そう、その女はリリアリス=シルグランディアという女だった。
「くっ、貴様には言いたいことがたくさん――てか、なんなんだこれは、どうなっているんだ――」
と、イールアーズはもがきながら言うと、リリアリスは答えた。
「うん、床の上に倒れて後ろ手に縛られている状態よ。」
んなことはわかっている! どうしてこうなっているのか知りたいんだ! イールアーズは怒りながらそう訴えた。
「なんだ、そっちか。
つまりあんたはセイバル軍が作ったっていう生物兵器によって心を奪われ、そして操り人形と化していただけよ。
どうやらアンタの妹に化けた妖魔によってそれがされていたみたいね。
で、果敢にも、その状態のあんたがこの私に立ち向かってきたから、
蹴り飛ばして気を失っている間に腕を縛ったっていうのが真相よ、お分かりかしら?」
け、蹴ったって……でも確かに、みぞおちがなんだか軋むようだ――
「もちろん、そんな大けがしたままってのもカワイソウだったから回復はしといてあげたけど、
あんまり暴れられるといろいろと面倒だから、回復魔法の効力は約8割減らしたのよ。
おかげで大人しくしていてくれたから助かったわね。」
こら、やるんだったらきちんと回復しろよ、なんで8割減なんだ、イールアーズはそう突っ込んだ。
「てか、どうしてあんたがここにいる? というか、ここはどこだ?」
「ここ? あんたが攻め入っていたはずの場所の一角よ、そこから変わっていないわよ。」
なんだって!? ということは、やっぱりここはセイバル島!?
いろいろと聞きたいことがあったイールアーズ、他はどういう状況なのだろうか、
なんでこの女がここにいるのだろうか、自分が罠にはめられている間、何が起きたのか、
そして、セイバル軍の生物兵器として君臨することとなった女神様、つまり、エレイアは!?
あの後、ローナフィオルはメリュジーヌの毒香にかかっていた者たちを引き連れ、
セイバルの島からその手前の研究島というところまで戻ってきていた。
しかし、そこから移動せず、ただただガレア軍の先発隊という存在を待ち続けているだけだった。
すると、そこへ――
「ローナさん! 大変お待たせしました!
本当に遅くなってすみません、これまで毒香にかかっていた者たちの中で心細かったでしょう!」
と、ローナフィオルに話しかけたのはガレア軍のラミキュリアだった。
しかし、ローナフィオルは――
「ううん、全然。万が一のことがあってもその時は股間めがけて蹴り上げるだけだから平気だよ♪」
男にとっては恐ろしいことを平気で言うローナフィオル、
その効果を一応知らないわけでもないラミキュリアは、無邪気にそう言うローナフィオルに少し恐ろしさを感じていた。
そして、それを感じていたのはラミキュリアだけではなかった。
「まあ、なんて恐ろしい娘なのかしら!? でも確かに、それは効果的でもありますね――」
と、そこへやってきたのはプリズム族の里・ラブリズの長であるララーナだった。
そんな彼女に対してローナフィオルは驚いていた。
「うそっ!? そうなの!? やっぱりプリズム族って侮れないわね――」
当然、ローナフィオルはそれをしようとする前に、
予め男たちを一人ずつ後ろ手に紐でしっかりと締め付けていたのだった。
「あの女、ぬけぬけとようやるわ。でも、私は騙されないわよ」
ローナフィオルはキリッとした態度でそう言うと、ラミキュリアは優しく諭した。
「まあまあまあ、それでも彼女は一応、エレイアさんなんですから。
ただ敵に操られているだけ、そうですよね?」
そ、それはそうなんだけど――ローナフィオルは内心複雑だった、
それなりにエレイア――メリュジーヌから邪悪な気配を感じたからである、
その力を使い、あちこちで女王様とか女神様を名乗っては男の心を奪って好き放題にする行為は流石に……
「にしても、またずいぶんとしたご挨拶ですね。
中には結構重症化しやすい毒を受けている者もいらっしゃるようですね――」
と、ラミキュリアは縛られている男たちを一人一人観察しながら言うと、ララーナが答えた。
「まあ、そういう者については仕方がありません、治療困難な場合は私たちが引き取ることといたしましょう――」
それはそれで怖いのだが。正常な精神で聞いている男がいないのがせめてもの救いか。
「ラミキュリアさんやローナさんもいかがですか?」
ララーナは優しくそう言うのだが、2人はすぐさま断った。
「いえ、私は遠慮しておきます――」
「私も間に合ってますから!」
そして、その男たちから毒香を抜く作業が始められた。
「それにしても私たちの力をこうも悪用するとは――セイバルの方々はちょっとオイタが過ぎますね――」
ララーナには思うところがあったようだ、なんだか波乱の予感が。