記憶が曖昧なりにも、セイバル軍の土地についてはある程度詳しかったエレイア。
しかし、その服装はセクシーな女王様そのまま、現状、他に変えがないのだから致し方がないが。
「大丈夫なのか?」
イールアーズはそう聞くと、エレイアは元気そうに答えた。
「大丈夫ですよ、ここは私に任せてください!
みなさんのことはあまり覚えていませんが、私はセイバル軍の生物兵器として改造されてしまった身、
セイバル軍の情報はきちんとつかんでいますから!」
それに対してローナフィオルが心配そうに言った。
「みんなことはあまり覚えてないって……ディルのことは……?」
そう言われたエレイアは、胸に手を当てたまま答えた。
「ディル、今は無事かしら……今頃どうしているのかな……」
なんだか、せつなそうな感じだった。
それに対してアイゼルは鼻を伸ばしながら言った。
「大丈夫か、エレイアちゃん! 辛いんだったらいつでも言いな! いつでも俺が抱っこしてやるぜ!」
すると、それに続いて、次々と男共は調子よく俺が、俺がと声を上げてきた、こいつら――イールアーズは頭を抱えていた。
「ローナちゃんも疲れたら俺に言うんだぜ、お姫様抱っこしてやるからな!」
と、エイゼルも調子よく、ローナフィオルにそう促すと、彼女は即答えた。
「うん、間に合ってるから遠慮しとくね♪」
エイゼルは酷く落ち込んだ――
「バカヤロウ、やってないでさっさと終わらせるぞ!」
そんな彼に対してイールアーズの喝が飛んできた。ところが――
「あっ、ご指名だ――」
ローナフィオルはスマートフォンが鳴動していたのですぐさま反応すると、いきなり立ち止まってそう言った。
「ご指名ってなんだ?」
イールアーズは言うと、ローナフィオルは答えた。
「ガレアからの招集指令よ。残念だけど、私はここまでね。
直ぐに迎えが来るわ、だから――」
それに対してイールアーズは驚いていた。
「直ぐって……まさか、ガレア軍はもう到着したのか!?」
「ううん、先遣隊がやってくるってところみたいよ。
それに、ほら……、メリュジーヌの毒香にかかっていた人たちもこのままにしておけないから、ガレア側で何とかしないとね――」
それに対してイールアーズは頷いた。
「ガレア軍の目的はそう言う連中の保護か」
「それもあるけれども、とりあえず、最初の目的はソレね――」
それに対してエレイアは心配そうに訊いた。
「一緒に来られないのですか?」
「うん、ごめんね、せっかくだけど、それどころじゃあないみたい。
だからとりあえず、私はこのまま戻ることにするね――」
それに対し、何人かの男たちはとても名残惜しそうに彼女を見送っていた。
だが、しかし――
「彼女は彼女で私たちと共に戦っているんです、だから、私も頑張ります!
みなさん、よろしくお願いしますね!」
と、エレイアが言うと、名残惜しそうにしていた男たちの態度はどこ吹く風か、
すごく楽しそうに「はい! エレイアちゃん!」と言ったようなニュアンスでそれぞれ答えていた。
そんな様に、イールアーズは再び頭を抱えていた。
「……まあ、いいかこの際、敵を倒すということなら――」
そんな中、その様子をカメラ越しに遠くから眺めていた連中が――
「連中、とうとうここまで侵入してくるとは――」
「そんな! あれは、メリュジーヌでは!?」
「何だって!? 連中に寝返ったとでもいうのか!? ありえない!」
その連中は、口々にそのようなことを言っていた。
「ドライアスを呼べ! まずは、やつに何故このような状態が発生しているのか説明させるのだ!」
そして、そのドライアスはすぐさま呼び出されると、連中の総司令官というやつがカンカンに怒っていた。
「お呼びでしょうか?」
「何をのんきなことを! 監視モニタを見ろ!
これまでずっと大丈夫と豪語していたようだが今はあのようなありさま、どういうことだか説明してみよ!」
ドライアスは監視モニタを見た。
「ほう、あれはまさに、ヴィーナス・メリュジーヌ様ではございませんか、なんとも神々しい」
「この期に及んでまだ戯言をぬかすか!」
ドライアスは平然としていた。
「ふむ、確かに、連中がやってくるであろう南の研究所にて、バリアブル・コアの情報にアクセスした記録がありますね」
「南だけではなかろう! 西も! 北も! 東も! 全部、全部からのアクセスがあると、ここには記録されている!」
「さあ、どうでしょうか、職員の職務上、データベースへのアクセスは一般的ですから、
そのようなことがあってもなんら不思議ではないと思いますがねえ――」
「そういうことを言っているのではない! やつらはシェトランド人だろう!
それをどういうことだか説明せよと言っているのだ!」
「ふむ、何を言っているのか理解に困りますね。
よく見てください、彼女はヴィーナス・メリュジーヌ様です、そして、その近くにいるのは女神様の下僕共、
そうですかそうですか、いよいよ鬼人剣も自らの虜とされたのですね、いやあ、まさにお見事、それしか言いようがありません」
「ドライアス! ふざけるのも大概にしろ! とにかく、あの状況をなんとか打破するのだ!
今回の件についての責任はお前に一任されている、だから、貴様の首がかかっていることを忘れるでないぞ!」
「確かにおっしゃる通り、今回の件については私の責任の下で行っております故、そのようにいたします――」
ドライアスはそう言いながら部屋を早々に出て、部下に漏らしていた。
「ったく、ウザったい総司令官だ、ただの能無しの分際が――」
「まあまあまあ。しかし、本当に、ただの女神様のお戯れなのでしょうか?」
「ふん、まったく、女神様もお戯れが過ぎる。
だが、あの能無しの言うことをまともに取り合っていると作業が遅れるのでな」
「そんな! それなら、何とかして対処しないと!」
「対処? そんなもの必要はない、すでに手は打ってある。それに、こうなることは予定のうちだ」
「は?」
「くくくっ、いや、とにかく、私の邪魔立てするものがいるとなれば、たとえ誰であろうと容赦はせん!
それがたとえ総司令官であろうと、女神であろうと、まして、あのディスタードの軍勢だろうとな!
それを覚えておくといい……」
「はっ、はい、わかりました――」
ディスタードの軍勢、まさか――