イールアーズの妹であるルイゼシアは”神授の御魂”と呼ばれる核を持ち、
それこそまさに神がかり的なパワーを備えた心臓を持っているという。
下手すれば、昔の戦で使用されたという原爆だかなんだかというものの力に匹敵するエネルギーを発することがあるという。
それをセイバル軍は”テラ・パワー・コア”と命名し、ルイゼシアをとらえると、実験の材料にしている状態なのである。
まあ、既に話している通り、それ自身は現状うまくいっていないみたいだが。
一方でエレイアは”二つの御魂”と呼ばれる核を持っている。
その名前の由来というのが1度死んでも蘇ることがあるという伝説に基づいた話から来ているのだが、
そのことを研究したセイバルの情報を拝借した内容によると、
実際には核が損傷してたとえ死んでも、核が再結合して生き返る能力を持っているということが判明したのだそうだ。
そして、セイバル軍はそれに”バリアブル・コア”と命名していた。
「ばりぶある……」
横文字がきちんと言えないリオーンに対してイールアーズが促しながら話を続けた。
「”バリアブル・コア”だ、無理すんな。
それだけなら聞いたことがある奴もいるだろうが、
これは、直接”二つの御魂”のことを意味しているわけじゃないらしい」
再び、怒号が響き渡った、”バリアブル・コア”が”二つの御魂”を意味しているわけではないのならどういうことだ、と。
すると、リオーンが話を続けた。
「”ばりぶある”っつーのは多用な、変容する、と言った意味だ、お前らも知ってるガレアのあいつがそう言ってたしな。
恐らく、セイバルではすでに”二つの御魂”についての研究が進んでいて、
後は実際に”二つの御魂”さえ手に入れば予定通りに事を運ぶ寸法だったのさ」
さらにリオーンは話を付け加えた。
「連中、俺らの核に超詳しい上に、人造シェトランド計画を考えていたってのは知っているよな!?」
すると、怒号の中から――
「おう! そんな変な作戦、この俺がとっくのとうに潰してやった、あの作戦だろ!?」
「でもよ、なんか元々うまくいかねえって話だったらしいじゃねえか!」
「ふん、所詮、あたしらみたいな人間はそう簡単に作れないって話よ! いい気味よね!」
と、なかなか攻めた感じの怒号が会話を始めていた。それに対してリオーンは頷いて答えた。
「おお! その通りだ! だけど、人造でない、シェトランド人が仲間になれば、
別に人造でなくてもいいってことだよな?」
……そういわれると、何を言っているのか理解できなくなったイールアーズたち。
確かに、シェトランド人がセイバルの仲間になれば人造である必要はないのだが、
シェトランド人がどうしてセイバルの仲間になることが可能なのか、そこの解にはなっていないからである。
そして、そのエレイアについていったシェトランドたちも同様である。
「うん、いや待てよ、確か人造シェトランド人を作ってセイバルのいいように動かせる人形は作ったみたいだが、
なんか結局そいつをまともに生かすことができなかったってオチでなかったっけ?」
怒号の中で一人だけ、それに気が付いた。それに対して別の怒号が会話をしていた。
「じゃあ、つまりこういうことか、まともに生きているシェトランド人をセイバル軍の言うことを聞かすようにしむけりゃあいい、と?」
それじゃあ逆戻りである、どうやったらそのシェトランド人がセイバルの仲間になるのかって話の解にはたどり着けなさそうだ。
だが、それに対してリオーンが話を続けた。
「そこでエレイアという”二つの御魂”が出てくる、
核が損傷してたとえ死んでも、核が再結合して生き返る魂の話がな!」
待てよ、”再結合”ってことは――イールアーズはピンときた。
「おい、まさか、エレイアちゃんが死んだっていうのは――」
怒号は一旦落ち着きつつ、その中から一人がそう言うと、リオーンが話を続けた。
「”二つの御魂”だからつまり、エレイアは実は死んでおらず、
核が少し損傷しただけで、実際には生きていると、流石にそこまではいいな。
でも問題は次で、”ばりぶあるこあ”が元の核に戻る際の過程で”再結合”が起こるってことがセイバル共の研究で分かっている。
だけど、もしその”再結合”の際に”何かしらの異物”が混入されたらってことだ」
異物、それが今回の原因のカギを握りそうである。
「なあ、異物って、なんだ?」
その野次はこの際無視しよう。そして、なんとなくリオーンの話が見えてきたイールアーズは話をまとめた。
「人造シェトランド人を作ってセイバル共の言うことを聞かせる人形を作ることは成功しているが、
あくまで人形は人形のままでその生涯を終えた。
だが、そのセイバル共の言うことを聞かせるためのブツについてはちゃんとしたものができていて、
エレイアは核の”再結合”が起きる過程でそいつを取り込んでしまっている、と。
その結果、エレイアはセイバル共の言うことを聞くようになり、俺たちの敵となってしまった、つまりはそう言うことか?」
イールアーズはリオーンに聞きながらそう言うと、リオーンは何も言わず、難しい顔をしながら頷いていた。
しかし、それに対して再び怒号が飛び交っていた。だが、先ほどのもんくとは打って変わって――
「お、お前、”二つの御魂”じゃないだろうな!」
「そ、それをいうのならあんたのほうこそ!」
そんな意味不明な言い合いだった。
だが、そんなことはどうでもいい、彼らにできることは最低でも、
セイバルに狙われて拉致されないように気を付けることぐらいである。
イールアーズは改めてローナフィオルに訊いた。
「さっきの命令コード、なんか有力なコードはないか?」
それに対し、ローナフィオルはイールアーズに訊き返した。
「エレイアが敵になった原因についてはこれで得心がいったって感じね。
で、エレイアについていったみんなのことは納得した?」
そう言われると、イールアーズはエイゼルを見ながら言った。
「ああ、なんとなくだが、見えてきた。
もし、エレイアが妖魔の力を得たという話であれば確実に説明が付きそうだ、
シェトランド人を改造しそうな連中であればそれぐらいのことは容易に想像つきそうだ。
それに、俺らにはお前みたいなやつが多いからなおさらな」
そう言われたエイゼルは的を射ていなかったが、ローナフィオルはちゃんと把握していた、
可愛い子には喜んでついていきそうな男――といえば大体見えてくるだろう。
とにかく、イールアーズはなんだかイライラしながらローナフィオルから情報を聞き出していた。
だが、ローナフィオルはそれを気にせず、淡々とことを運んでいた。ただ、エレイアのことは気にしていた。