エレイアさえ元に戻せれば――案外それが切り札なのかもしれない、
そう思うと、イールアーズはローナフィオルに話をした。
「何か策でもあるのか?」
ローナフィオルは答えた。
「傭兵やったことあるイールやエイゼルなら、
確実に任務を遂行したり辞めたりするときに、与えられるものがあるでしょ?
で、もしかしたらそれが今のエレイアにも通じるのかなと思ったんだよね」
何かを与えられる? 何を? イールアーズはそう聞くと、エイゼルは頷きながら言った。
「そういや昔、こういうのがあったぜ、
敵陣を崩すのにこちらの陣形を組みなおしたり、撤退命令を下されたりする際、
謝った情報でそういうことをするのを防ぐため、暗号というか合言葉による指示だけで遂行するっていうやつがな。
面倒ではあったが、あれはあれでなんか面白かったぜ!」
そう言われたイールアーズは納得していた。
「”命令コード”ってやつだな、例えば”Aの135”って命令コードがあったとして、
そのコードが発令された時には敵に攻撃を仕掛けると前もって取り決めておけば、
みんなその通りにするっていうアレだな。
戦闘の最中にいきなり変な指示を出されても、それは雇い主側による正確な情報なのかどうかわからん。
その点、コードは関係者間しか知らないことだから、
それを頼りに動けば確実に雇用主の命令通りに事を起こせるっていうわけだな。
それがどうかしたか?」
すると、ローナフィオルは何かの情報を展開して2人に見せた。
「これ、その”バリアブル・コア”の命令コード一覧って書いてあるんだけど、もしかしてって思ってさ……」
イールアーズはその情報をまじまじと見つめていた。
「”E-40832QZ”、レディ・ベーゼ削除、道徳死天使・ヴィーナス・メリュジーヌ様降臨? どういう命令だ?」
それを聞いたエイゼルは何やらピンと来ていた。
「そういや敵に取られたエレイアちゃん、
道徳死天使・ヴィーナス・メリュジーヌ様とか言いながらデュロンドとかを攻め入っていたって聞いたことがあったな。
だから案外、そう言うことかもしれねえぞ――」
イールアーズは考えながら言った。
「そういうことってどういうことだよ?
そもそもエレイアがどうしてそんなふざけた命令コードを聞かなければいけないんだかがわからん」
それに対し、ローナフィオルは別の資料をイールアーズに見せていた。
「多分、これのせいじゃないかなと思う。
セイバルの人造シェトランド人の話って覚えてる? リオーンが言ってたアレよ。
確かに、セイバル側にとっては失敗に終わっているプロジェクトみたいだけど、
この資料によると、シェトランド人の核にコントローラを取り付けて操作するということに関しては成果が得られているように見えるのよ。
それがもし、死にかかっているエレイアの”二つの御魂”の再結合が起こる際に取り込まれたとしたら――」
イールアーズは頭を抱えながら言った。
「まったく、まさにあの時にリオーンの言っていたことがそのまま当てはまるってわけかよ――」
出撃前日、そもそもどうしてエレイアがセイバルに加担するハメになったのか、それだけがわからずにいたイールアーズたち。
「なんでエレイアちゃんが裏切ったんだよ! ふざけんなこのリオン! ディルフォード!
あのディルの野郎がなんかしたのか!?」
「そもそもディルの野郎はどこ行きやがったんだ!!
まさか、やつもエレイアと一緒に裏切りを働いたわけじゃあねえだろうな――」
シェトランドの島ではそのことについて怒号が飛び交っていた。
その際にはリオーンも同席し、話をしていた、といっても、
シェトランド人といえばほぼ脳筋みたいなものが集まっているような民族性であるため、
考えるものはほとんどおらず、何故、何故というもんくばかりが飛び交っている状況だった。
だけど確かに、あのエレイアに限って裏切るとは到底思えないし、そんな彼女に対してディルフォードはどうしたのだろうか、
それについてはイールアーズのみならず、ほかのシェトランド人についても同意見である。
「ディルはわからんが、エレイアは、ワイズによると”二つの御魂”らしい。
それをセイバルが”バリアブル・コア”と呼んでいるのは、みんななんとなく知っているだろ?」
リオーンはそう聞くと、周囲は「まあ、なんとなくなら」と言った感じで返事をしていた。
「待て待て。”てらぱわぁなんとか”とかじゃなかったっけ?」
「ああ、そうだ、一体何が何だかわからないぞ!」
テラ・パワー・コアはエレイアではなくイールアーズの妹、ルイゼシアのほうである。
こいつら脳筋には一から話をし直さないといけないところもありそうだった。