一方、その頃――イールアーズたちはセイバル軍の南の島へと到着した、
ディルフォードたちが敗北したあの島である。
しかし、その島の施設はもぬけの殻、だが、海底トンネルが見つかり、そこへと侵入していた。
このトンネルは、確かセイバル軍の拠点となる本島へと通じているハズ、イールアーズはそう思った。
だが、どういうわけか、敵は全くいない。どういうことだろうか、何かの罠だろうか?
そして、トンネルを進んで本島へと進むと、研究所の地下らしき場所へとたどり着いた。
なんだか見覚えがある光景だったが、シェトランドは何度もセイバル相手に攻撃を繰り返しているのだから、
見覚えがあるのは当然か、イールアーズはそう思った。
だが――誰かがいる気配を感じたイールアーズたちはそのまま陰に隠れていた。
それにしても最悪だ、敵はセイバル人だけでなく、何故か同胞であるはずのシェトランド人も混じっていて、
さらには交戦中であるはずのデュロンドの兵隊も含まれている当たり、とにかく異様としか思えなかった。
シェトランドからは降伏を宣言したはずだが、セイバルとしては特にシェトランドに対して何をするということもなく、
引き続きシェトランドが仲間の奪還のためにこのように攻撃を繰り出している状態が続いているあたり、本当に降伏したのかと疑いたくなる。
だが、それには実際には裏があり、この戦いに対してグレート・グランドが待ったをかけている状態であり、
結局は戦いが続いているというのが実際のところである。
無論、グレート・グランドが口出ししてきたということは、それによって他の国も動くということであり、
セイバルにとってはその予想外の展開に対して迂闊に進軍することができないということなのかもしれない。
なお、グレート・グランドの王と言えばシェトランドの長でもあるリオーンなのだが、
シェトランドはシェトランドの問題ということで本来ならばグレート・グランドからシェトランドの問題には首を突っ込まないという方針でいたハズである。
それは、グレート・グランドのためにと考えたもので、セイバルとの戦いとは切り離して考えることの意思表示である。
だから、セイバルはあくまでシェトランドがターゲットである以上の何物でもない限りはグレート・グランドからは干渉しないという取り決めをしていたハズだった。
そのハズなのだが、セイバルはあろうことかデュロンド国に攻撃を仕掛けた、これが引き金となり、
隣国の窮地を口実にグレート・グランドや、それに追随して他の国が出てきてしまったのである、
セイバルとしては喧嘩を売るタイミングを間違えたという見方が強そうである。
とにかく、障害を攻略しながら先に進むイールアーズたち、
その研究所は南の島とを結ぶトンネルがあるだけの拠点のようなので、
そこを抜け出し、他の拠点へと急いだ。
そこで、ローナフィオルが話をした。
「私、あんまりセイバル軍については知らないんだよね。この島はどんなところ?」
それに対してエイゼルが話した。
「おお、ローナちゃん! 俺が教えてやるぜ!」
しかし、それをイールアーズが遮った。
「早い話、シェトランドを殲滅するために作られた施設が立ち並ぶ要塞島ってところだな。
といっても、軍事施設というよりは研究施設ばかりで構成されている島だな。
恐らくリベルニアとロサピアーナの支援を受けているんだと思うが、その金で研究施設を次々と建設している、ということらしい。
ルーイが使用されているらしい話を一切聞かないのがとりあえず救いと言えるが、
シェトランド人の核を使用するということを応用して、
所謂パワーストーンを量産して兵器として使用するということがなされているらしい」
しかし――そのパワーストーンによる実践登用はあまりうまくいっていないというのが実情らしい、
何かがうまくいっていないのだろうか、魔法と機械の融合とは難しいものである。
さらに施設をいろいろと物色していると、シェトランド人を研究しているらしきデータを見つけるに至った。
「私のハッキング技術にかかればこんなもんよ♪」
ローナフィオルは得意げだった。
それに対し、エイゼルがなんだか嬉しそうにほめたたえていたが、ローナフィオルは完全に無視していた。
「言っても、これは古いデータなのかしら、ここ数年全然更新されていなければ閲覧履歴もない感じね。
でも、これを見る限りだと、この時期にルーイとエレイアの存在に興味を持ったことは間違いなさそうね――」
それに対し、イールアーズはなんだかイラついていた、無理もない、自分の妹が……
「ルーイについてはどうするかはまったく目途が立っていないみたいね、
確かに”神授の御魂”なんて強大な力、フツーに考えればどう使っていいかもわからないからね――」
俺の妹はモノじゃない、そうとでも言いたそうな面持ちだったイールアーズだが、
彼は考え直し、別の方向に考えながら言った。
「フン、人一人の力、俺たちの力を見誤った結果がそれってわけか、世話ないな。
ったく、何がシェトランド人の研究だ、バカも休み休みにしてほしいもんだな」
対して、ローナフィオルは心配そうに答えた。
「でも、これは当時の資料の状態で止まっているから、
もしかしたら今では研究が進んでいる可能性もあるわね、そうなるとルーイが心配……」
それに対してイールアーズが話した。
「心配なのは間違いないが、少なくとも、これまでルーイがそんな目に合っていないのは間違いないと思っている。
もし、そうだとしたらガレアのアイツがすぐにでも反応しそうな話だしな」
ローナフィオルは前向きに聞いた。
「あら、なんだ、イールってば、案外リファ様のことはそれなりに信頼しているのね?
全然そういうのじゃあないと思ってたから意外ね。」
イールアーズはため息をつきながら言った。
「ルーイが本当に絶大な力を持った身体だというのなら、ガレア軍どころの話ではないからな。
だから、お前とは違ってやつにそこまで信頼を置いているとか、そういうことではない。
勘違いするな」
それに対してエイゼルは楽しそうに話した。
「俺はローナちゃんと同じく、リファリウスのことは信頼しているから安心していいぜ!」
しかし、ローナは……
「はいはい、よかったわね」
呆れながらそう言うと、エイゼルはしょんぼりとしていた。
ローナフィオルはデータをいろいろと探していたが、それに対し、イールアーズは半ばイライラしながら話をし始めた。
「できればさっさとケリをつけたいのだが。何をいつまでもやっているんだ?」
それに対してエイゼルは冷や汗を垂らしながら訊いていたが、ローナフィオルはなんだか真剣な様子だった。
「見てよこれ、この島、地理的な構造以上に広そうよ。もしかしたらセイバル軍のシェトランド進撃用の本拠地なのかもしれないね。
ということは……だいたいわかるでしょ?」
イールアーズは考えながら言った。
「敵が多すぎるということか。にしてもこの基地は少し手薄な気がするな」
ローナフィオル答えた。
「セイバル軍の中心拠点から外れたところにあるから目が届きにくいのかもしれないわね」
それに対してイールアーズはあることに気が付いてローナフィオルに聞いた。
「おい、まさか、この島の地図でも見つけたんじゃないだろうな?」
それに対してローナフィオルは得意げに答えた。
「さっすがイール、わかってんじゃん♪
地図だけでなく、他の拠点の建物の情報まで御覧の通りよ♪」
それにはイールアーズは驚いていた。
「すっげえ! 流石はローナちゃん! 綺麗だし可愛いし、なんでもできるんだな!」
と言うエイゼルを遮りながらイールアーズは言った。
「なんだよ、だったら先に言えよ。
んで、他に何かつかめたのか? 例えば敵の本部の拠点の侵入口とか――」
「もちろん見つけたけど――正直、真正面から乗り込むのは得策じゃあなさそうだから、
他にも探しているところよ。例えば――エレイアを元に戻す方法とか――」