そして、早速、腕を鳴らそうと、ディルフォードとレヴィーアとで手合いを始めた。
しかし、それがどういうわけか彼女の能力が妙に強い、いや、自分の腕が衰えただけだろうか、ディルフォードは焦っていた。
それもそのはず、ディルフォードは木刀を渡されたのだが――
「さーて、どれで相手してやろうかね――おたまで倒せるやつ相手に剣だしたくねえしな――」
完全にコケにされていた。
「いようし! それじゃ、これで相手してやろうじゃあないのよ♪」
彼女はやはりおたまを取り出して構えた。
そんな相手にディルフォードは息まいていた、かつて万人斬りと呼ばれたこともある男に対し、それは何のマネなのだろうか、と。
お前など、ただの試し切りに過ぎないというのに、なんでそんな得物で対峙できるというのだろうか。
だが、そんな考えは甘かったことを痛感させられた。
「遅い!」
「うわあっ!」
「ほらほら、どうしたよ!」
「ぐはあっ!」
「ほい! 次は――右のひじ!」
「くっ! させるかっ!」
「だから遅ぇっつってんだろうが!」
「ぐばぁ!」
何と、おたま相手の彼女に対して一向に技が決まらないどころか、一方的にやられていた。
「今度は――左ひざの裏やったろか!」
「ま、待った、降参だ! しかし、何故なんだ、なぜそれほどの強さが!?」
「甘いわ!」
「うわあっ!」
ディルフォードは完全にダウンした。
それから2か月ほど続けて、ディルフォードは彼女に挑み続けた。もちろん、歯が立たない。
しかし、ディルフォードは、相手の部位を正確に打ち抜けるあの能力、
どうしても知りたかった、それさえあれば、エレイアを助けることができるかもしれない!
だから、彼は諦めることなく彼女に挑み続けた。
しかし――
「それほどまでに決意が固いということなのね。
でも、残念だけど、この技はあんたには無理だから、諦めたほうがいいわね。」
「そんな! 無理って、何故なんだ、何故無理なんだ!」
「無理よ。こういうのは理屈では説明しづらいから、
何故とか言われても困るけど、とにかく無理、絶対に無理、諦めな。」
彼女は片手でおたまをクルクルと回しながらそう言って突き付けてきた。
だがしかし、ディルフォードは食い下がらなかった、エレイアを、彼女を助けたい――どうしても、エレイアを助けたいんだ!
ディルフォードは自分の剣をその場に伏せ、彼女に懇願した。
「……本当にやる気?
もちろん、どんなことでもするし、今まで自分が獲得してきたこともすべて捨てるほどの覚悟がいるっていう条件付きよ、
それぐらいでないと多分、あんたには体得できないと思うからね。」
全部、覚悟の上だった、今の自分などどうでもいい、とにかく、今の自分自身から脱したい。
何より、すべてはエレイアを助けるためだ、そのためなら何でもしよう、今まで勝ち得てきたものも要らない、
私は、すべてを捨てる、必要なのはエレイアを助けることだけだ、
それ以外は何も要らない――ディルフォードの決意は揺るがないものとなっていた。
「そう、よっぽど決意が固いのね、気に入ったわ、イケメンさん。彼女のこと、大事にしてあげてよね。」
そして、彼は今まで得てきたことをすべて放棄した。
しかし、やってきたことの事実がぬぐえることはないがそれでも、
これまで得てきたものと引き換えに新たな力を得るのだ、
茨の道となることは容易に想像できることだろう、しかし、彼はもう振り返ることはない。
「さあ、今まで使っていた剣をよこしなさい、それは私が処分しておくから――」
ディルフォードは”骸”と呼ばれたまさに血塗られた暗黒剣をレヴィーアに差し出した。
別に何の変哲もない剣なのだが、その剣はいつしかそう呼ばれるようになり、血で滲んでいたのである。