ディルフォードはなんだかんだで言いくるめられ、あの洞穴を後にした。
言いくるめられた要因はいくつかあり、まず1つに、あの女、アール将軍の傍らにいるラミキュリアって女がいる。
プリズム族というのは恐ろしいもので、自分自身の能力でエレイアっぽいあの雰囲気を、自分の中から呼び起こしてきた。
呑まれそうになるとても恐ろしい力、反抗しようがなく、素直に従ったほうがいいような気がした。
2つ目の要因はアールの言うことはわりと的を射ていることがあった。
正常なディルフォードの状態であれば、こいつの話術で言いくるめられるのは簡単なことだろう、
もちろん、それ相応の根拠などを述べられていればの話だが、根拠も理屈も筋が通っている、それが怖い所だ。
しかし、ディルフォードはもはや正常な状態ではないため、アールの言ったことで傾くことはなかった。
そのため、3つ目の要因が主な理由としてあげられる。それは、相手がアールだからだということに尽きる。
あいつの話を延々と聞いていてみろ、もう、言いくるめられる云々の話ではない、とにかく、鬱陶しいのだ。
ディルフォードとしては前にも似たようなことがあって、こいつのこの執念だけには参った、
まあ、あの時は断る理由としてもっともらしい理由がなかったため、
それもあって、アールの言うことをしぶしぶ承諾せざるを得なかったのだが。
今回もそうだ、あのしつこさで、そう簡単に人一人を死なせてはくれなさそうだ、
そう思ったディルフォードはあの後早々に諦め、素直に従うことにした。まあ、今はともかく、そのうち逃げ出してやる。
ただ、身体の調子があまり良くなく、まともに歩くことはできなかったようだ。
場所はルシルメアより北東の海岸、アールはディルフォードに聞いてきた。
「さて、ここだと、南西のルシルメアと東のケンダルスとがある。
キミとしては人の少ないケンダルスのほうが都合がいいと思うけれども?」
「ああ、そうだな」
正直、なんでもよかったので、彼は空返事をした。
「よしっ、じゃあ、ケンダルスへ行こう!」
というと、アールは東のほうに向かい、車を走らせた。文明の利器――
ケンダルスへは半日でついた。すると、いきなりアールは――
「すまんが、用事が出来たのでね、ここはひとまず、お別れということで。」
おい、無理やり連れてきたくせに、どうしてだ。
「すまんね。ただ、ケンダルスと言えば、今なら私の知り合いがいるハズだから、訊ねてみるといい。」
何を勝手な――そう思うと、振り向いたときは既に2人の姿はなかった。
完全に置き去りにされ、この始末、どうしてくれようか。
かといって、せっかくここまで車できたのに、またあの穴倉まで帰るのも……くそっ、
計算していたな、あいつ――ディルフォードは落胆していた。
ディルフォードはアールの知り合いとやらがいるらしい場所へと、何ともおぼつかない足で赴いた。
目的も何も見失った彼は、言われるままに向かうのみである。
ふん、何をいまさら……自分はリタイアを決意した身の上なのに、
何故、何かしようと、歩を進めているのだろうか、それが不思議だった。
「あっ、イケメンさん♪」
また女だ。指定された場所でじっとしていると、女がやってきた。まったく、女というやつはわからんな。
ところが、もう女という生き物には関わりたくないディルフォードの期待に反して、その女が彼の腕をつかんだ。
「えへへっ、捕まえたー♪」
「なっ、何のつもりだ! 離せ!」
「ヤダ。絶対にヤダ。せっかくだから、この私と一緒にイイコトしーましょ♪」
断固拒否する! ディルフォードはその女から逃げようとした。
よく見るとこの女、プリズム族ではないか! 絶対にダメだ!
ルシルメアでのあの一件から始まり、そして最後にセイバルの島で――あんな悪夢は二度と見たくない!
それなのにこの女、必至になって振り払おうとしているにも関わらず、しっかり握って離さないどころか――
「いいから! アンタはこれからアタシと一緒にイイコトするんだよ!
だから四の五の言わずにアタシの言うことを素直に聞けばいいんだよ! このイケメン男!」
不意を突かれ、腹と顎に1発ずつ食らい、気を失った――