一方で、今度はさるコンビが辺境の洞穴へとやってきていた。
「ふんふんふん、臭うね、とっても臭うね。」
「臭うって、本当に、ここにいるのでしょうか?」
「うん、恐らくここで間違いないだろう。」
洞窟の中の主にもその声が聞こえてきた、なんだか2人分の声が聞こえてきた、両方女の声のような気もするが――
片方は――なんだか聞き覚えのありそうな声だった。
しかし、洞窟の主は、そんなのを相手にするのも嫌だった、さっさと消えてほしい――
その思いとは裏腹に、その2人は近づいてきた。もう、なんでもいい、少なくとも、自分のことはほっといてくれないだろうか。
だが――
「おやおや、まさか、本当にこんなところにいただなんて。探したよ、ディルフォード君。」
ディルフォード? そう言われた洞穴の主は、そう言えば自分の名前がそういう名前だったことを思い出した。
しかし今はもう違う、自分は何者でもない、もはや完全にすべてを捨てることに決めたのだ、
だからもう、誰も自分のことは構わないでほしかった。
「まったくもう、かつて万人斬りと呼ばれた男が、こんな洞穴の中で、
一人寂しく死を待つだけという状態とは、とうとう落ちるところまで落ちたね。」
なんとでも言え。もはや、何を言われても構うものか、ディルフォードはそう思った。
自分はすべてに裏切られた、そして、すべてを忘れ、人知れずに命を終えようとしている。
もう、これ以上、何を失うのを見たくはない、ただ、それだけだった。
「うん、まあ、重症だよね。」
両方女かと思ったが、この聞き覚えのある方の声、シルエットから察するに、多分男――というか、
この声にこの口調、恐らく、あいつだろうとディルフォードは思った。
すると、その男はいきなり魔法を使い光を発射した。まぶしいからやめてほしかったディルフォードだった。
「おやおや、また随分とヒドイ顔をしているね、せっかくのいい男なのに顔が煤だらけで台無しだよ。」
構うものか。しかし、だからなんだ? 私に何の用だ?
自分はもう用済みだ、もう何をやる気力すら湧いてこない――ディルフォードはそう考えることさえも面倒に感じていた。
「ならば仕方がない、かなり荒っぽいけど、こういうのはどうかな?」
どうでもいい、行動を起こす前にディルフォードは明後日の方向を向いた。
「ちょっと、まだ何もやってないのにいきなりそっぽ向くとはなかなかヒドイ。」
何度でも言ってやるが、なんとでも言え、ディルフォードは内心むっとしていた。
「しかし、キミは私がこれからやることに対してシカトをすることはできないんだよ。」
すると、アール将軍はおもむろに、ディルフォードの顔を拭き始めた。やめろ、いらんことをするな!
「いやいやいや、せっかくの美顔が台無しだ、むしろ、その顔でないと困るからね。」
すると、アール将軍の傍らにいた、もう一人の女が、ディルフォードのことを抱いてきた――
「うふっ、ディル、私――」
その時、ディルフォードの脳裏には、あの時の光景が呼び覚まされた――
「ねえ、お願い、私をもう一回抱きしめて――」
エレイア――ディルフォードは、彼女の言われるがまま、再び彼女を――
「うふふっ、ディル、私、とっても幸せよ。あなたと一緒に、こんなことができるだなんて、とっても嬉しい――」
「そうか、私もだ、エレイア、ああ、エレイア、私は、お前のことが――」
「ええ、本当に、今までありがとう。私、あなたのことを一生忘れないわ――」
「私もだ、エレイア、私も、お前のことを一生、忘れない――」
ん? 一生、忘れない、そのセリフになんだか違和感を覚えていたディルフォード、エレイアに訊き返した、すると――
「私はもう、こんな淫らな女の身体になってしまったの。そんな女、ディルだっていやでしょう?
だから本当にゴメンね、もう、これが最後だから。あなたはとっても優しいし、とってもいい人なの。
だから、あなたは、あなただけは、私という腐った女の元にいたらいけないわ。
私からの最後のお願いよ、ディル。あなたはここから離れるの。
そして、私という腐った女なんか忘れて、幸せに暮らしてほしいの、だからお願い、私のことはもう――」
「ぐっ、ぐあああああああっ!」
ディルフォードは手元にあった剣を、自分自身で鎖でがんじがらめにして抜けない剣を取り出し、そのままぶんぶん振り回した。
「やめろっ! やめろぉおおおおおっ!」
ディルフォードを抱いた女は即座に放れ、アールの後ろに隠れた。
アールはディルフォードの剣に対してうまい具合にあしらいつつ、隠れた女性に話をした。
「ごめんね、変な役やらせて。」
「いえ、構いませんわ。ディルフォード様ぐらいの方であれば私も嬉しいです、
本当に、エレイアさんが羨ましい限りですわ――」
エレイア、だと――そのワードにディルフォードはひどく反応した。
「その半端ない落ち込み様ときたら――やっぱり、”女”、だよね。
自分の彼女が敵に取られ、挙句の果てに彼女からは自分を忘れてって言われ、落胆する男――」
「私も解るなあ、彼女の気持ちが――」
「うん、私も解る。彼女は本当にキミのことが好きなんだということが痛いほどわかるね。」
解る、だと? だったらなんだ? 何がしたい? ディルフォードは引き続きむっとしていた。
「うん、キミにはこの世界からリタイアしてもらうのはまだ早いと思って、
わざわざ探しに来てやったんだよ、ありがたいと思いな。
ほら、そうと決まったらさっさとここから出るんだ、こんなところにいつまでもいられるほど私も暇じゃないんだ、
だからさっさと出てくるんだ。」
……また、勝手なことを――ディルフォードは頭を抱えていた、ここへきて、なんでこんな目に合わなければいけないのか。