イールアーズはケンダルスに行き、妹を助けるための方法を探っていたが、
あれから……2~3年は経っただろうか、なんとかそれらしい方法を探りだそうとはしてみたものの、
結局見つからずそのままシェトランドの島へと戻っていた。
しかし、その道中、何やらシェトランドにとって良くない噂を聞いたのだ。
もとより、あまりいい噂を聞かないが、以前よりもさらに悪くなっているような気がした。
さらに島へ戻るや否や、いつもの独特の雰囲気を醸し出すその島だが、
今回は明らかに違っていた。なんだか知らないけれども、やけにものものしいというか、
さらに静まり返っているというか……。一体、何がどうなって、このような状況になっているのか、
イールアーズはまったく理解できていなかった。
「リオンかワイズリアはいるのか!」
イールアーズはシェトランドの長の家に着くと、大きな声でそう言い、誰かを呼んだ。
すると、1人のシェトランドの男が現れた。
「何だイル、ワイズならオウルの里にいるだろうよ。リオーンなら、そういえばさっき――」
さっき、何だ?
「あ、いや、そういえば、さっき、バルティオスに慌てて戻っていったらしいぜ」
らしいってなんだよ、悠長なこと言っている場合じゃないってのに、イールアーズはそう思った。
そういう彼の様子を見てか、この話をしている相手、エイゼルは訊いてきた。
「なんだよ、一体、何が聞きてえんだ?」
どうもこうもねえ、自分のいない間に大変なことになっているじゃないか、そう聞き返した、すると――
「はあ? お前、いなかったってのか!? それでか! それで、俺ら、戦いに負けたんだな!
このイル野郎! 戦闘狂のクセしてふざけんな!」
いきなり怒りをあらわにされても……と思ったが、そこはイールアーズという鬼人剣の存在、
反省するしかなかった、しかし、そうも言っている場合じゃない。
「んで、セイバル相手になぜ負けた? ワイズやリオンが不在なのは仕方ないにしても、
ほかにもメンツがそろっているだろ? 第一、ディルはどうしたんだ?」
「や、そ、それが――」
詳細は分からない、だが、あのディルフォードが――そんな、ばかな!
自分よりも経験豊富で、一応、尊敬もしているあの万人斬りが、こともあろうに、
この度のセイバルの島での戦いに敗れただなんて、まったく信じられなかった。
いや、事態はそれよりも悪くなっていた、なぜなら、それは噂通りの展開――
「なあ、俺が聞いた噂によると、一部のシェトランド人が、何故だか知らんが、
西のデュロンド国を攻め入っているそうだが、それはワイズもリオンも把握しているのか?」
そう、イールアーズにとっては、これが信じられなかった。
シェトランド人は無意味に殺戮や侵略行為を行ったりしないし、デュロンド国といえば、
シェトランドにとっては、直接的ではないにせよ、それなりにお世話になっている国だ、
だから、そんな事実があるわけがないのである。
だが、しかし――
「ああ、もうすでに、リオーンもワイズリアも知っているよ。
だから、リオーンはバルティオスに行って、慌ててグレート・グランド国単位で本格的に政策とかいうのをやっているわけ。
ワイズリアは……大方、ルシルメアやディスタードのアールに親書を送ったりしようとしているんじゃあないのか?」
それはそれで、この2人の行動が信じられなかった。
シェトランドの問題はシェトランドで解決する、今までそれでやってきたのに、なんで、ここで異種族の力を借りるんだろうか?
でも、デュロンド国、結局は他所の国を巻き込んでしまっている惨状、もはや異種族云々とか言っている場合でもなさそうだ。
「ああ、うん、まあ。そもそも、セイバルのやつらの企てで、ことがここまで始まっているんだよね――」
詳しい話は分からないらしいが、どうやら、シェトランド人を操作するための技術が完成したという話らしい。
そんな技術も眉唾物だけどな――イールアーズはそう思うが、実際にはその技で、
多くの手練れのシェトランド人がごっそりと利用されているらしく、
なんていうか、イールアーズはもはやどうしていいのかわからなかった。
「そうだ、ディルはどうしたんだ!? 本当に、連中にやられたのか!?
それとも、ディルも利用されている中に入っているのか!?」
「悪いが、俺はあまり知らされていないんだ。
ただ、一つ言えることは、セイバルは、俺たちへの侵攻を、とりあえず止めたらしい、それだけは確かだ。
もちろん、こちらから何も仕掛けなければ、の話だ」
イールアーズにとっては何もかも信じられない話だった、何が何だかさっぱり訳が分からない。
よくよく聞くと、それは、シェトランドがセイバルの提示した降伏条件を呑んだということらしい!
俺たちはセイバルに負けたっていうのか! イールアーズはひどく落ち込んでいた。
「そうだよ、俺たちは負けたんだよ! あいつらは、俺たちの同胞を奪い、利用している!
そして、必要とあらば、俺たちの同胞同士で殺し合いを行うことも辞さない!
何故かわからんが、俺たちは負けたんだよ! 戦争はもう終わった! そうだよ、それが真実なんだよ!」
エイゼルは怒りながら、そして、涙を流しながら訴えてきた。
俺の知らない間にそんなことになっているとは――イールアーズは深く反省していた、妹のことばかり考えている場合ではなかったようだ。