エレイアのことも気になるが、先発の主力部隊がここでいつまでもじっとしているわけにもいかないので、
彼らは先に敵地へと赴くこととなった。
そして、錆びてはいるが、しっかりとした頑丈な作りの建物が姿を現し、敵が待ち構えていた。
いよいよここまでやってきたのだ。
「どうだ? なんか、それらしい兵器は見当たらないようだが――」
昨日の夜に仲間の命を奪ったとされる兵器の存在は見受けられなかった。
「しかし、これは本当に罠なのだろうか?」
こういう場合、だいたい罠である可能性は大いにあった。
そもそも敵が進行してくる数が少ないことと、敵が島まであんな攻め方をしてきたことなど、
罠を誘っている可能性は非常に高い。しかし、彼らはだからと言って退く気はなかった。
ただ――これがもし罠だとして、連中の狙いは何なのだろうか、そればかりが気になっていた。
それにしても、エレイアが遅いことが気がかりだったディルフォード、
念のために、仲間を一人エレイアの元へよこしていたのだが、大丈夫だろうか?
しかし、それから40分程度経ち、敵地を攻めるための拠点を構えている最中に、エレイアとその仲間がやっと戻ってきた。
「遅くなってごめんね!」
「おいおいおい、本当に大丈夫だったのか?」
「うん、大丈夫、問題なくってよ! ねっ?」
「ああ、何も問題はない、最高の気分だ!」
大急ぎで来たのか、2人は汗でびっしょりと濡れていた。
またしても汗――一緒にいた仲間はともかく、エレイア、大丈夫だろうか、ディルフォードはそればかりが気になっていた。
「ねえ、ディル、私をしっかりと抱いて♪」
は? こんな時にか?
「いいじゃねえか、お前の”でぇじなでぇじな”エレイアちゃんが、これから覚悟するって時に、頼んでいるんだぜ?」
「そうだ、そうだ! このディルのやつ! うらやましいやつだぜ、てめぇはよ!」
「まったくだ! エレイアちゃん、すっごくセクシーになったよな! 服装もまた随分と大胆になりやがって!」
「それも全部、俺たち男の目の保養のため……いやいやいや、ディルのためなんだぞ!」
なっ、何を言う、こいつら! ディルフォードは構えていた。
「ねぇ、ダメ?」
うっ、エレイアは色っぽく訴えてきた。こうなっては仕方がない――
「ひゅうひゅう! いいねえ! ディル畜生!
お前、後でエレイアちゃんの心を奪った窃盗の罪でリンチの刑にしてやっからよお!」
「そうだ、そうだ! エレイアちゃんの唇を奪った窃盗罪、エレイアちゃんの身体に触ったわいせつ罪、
エレイアちゃんの、エレイアちゃんの、ああっ!
エレイアちゃんの何もかもすべて全部ディルが超悪い罪でお前は死刑だー!」
なんだそれは。
戦は正午を過ぎ、昼を食べてから始める。腹が減っては戦はできぬ、まさにその通りである。
しかし、敵もバカではない、彼らの存在をすでに把握していることだろう、
それに、あの研究所は何度か仲間が襲撃をかけている、だから、すでに、それに対する備えも万全であることだろう。
ということは、正面突破しても、裏から侵入しても、結果は大体同じで、恐らく面倒も多いだろう。
そのため、二手に別れ、正面と裏の挟み撃ちで作戦を行うことにした。
もちろん、挟み撃ちも以前に既に実行済だけれども、やはり、一番落としやすそうな作戦がこれしかないからである。
ただ、今回はオウルの連中も含め、シェトランドの主力メンバーが大体集まっての大規模な作戦となる、
これで決着がつけば――
「やっぱり、敵が多いよな、研究島は」
「多いのはもちろんだけど、それにしては手薄だな。上陸地点にも敵は待ち構えていなかったし」
「やっぱり、ディルの言う通り、罠かもしれないな」
「でも、どんな罠だろうか?」
「さあな、ディルに訊いてみようぜ」
ディルフォードは答えた。
「そうだな、考えられるのは……シェトランドの主力部隊を破壊すべく、
”テラパワー・コア”を利用する、といった話だろうか」
「しかし、それならば、直接、俺たちの里を攻撃したほうが早くないか?」
「いや、連中の目的は、あくまで私らの核だ。殺戮するのなら易しいが、核を破損してしまっては意味がない。
だから、核すら取り出すのが困難な主力部隊はこの際諦め、鬼がいなくなってから、
残ったか弱きシェトランドの民を拉致して核を採取する、というのが考えられる罠だ」
「なるほど、つまり、俺たちの島が手薄になっているときが一番危険ってことじゃないか!」
「ああ、その通りだ。そう思って、島には何人か残してある、
特に……本物の鬼にはそろそろケンダルスから帰ってもらわんと困るからな」
本物の鬼――鬼人剣イールアーズか。