島にある民家を一つ借り、ディルフォードはエレイアと共にそこで夜を過ごした。
次の日、目を覚ますと、やっぱりエレイアが先に目を覚ましていて、
風呂でシャワーを浴びていたようだ、少し心配になってきたディルフォード。
しかし、彼はすぐさま異変を感じ、すぐさま立ち上がり、剣を引き抜いた。
「いるのはわかっている。さあ、おとなしく出てくるんだ!」
すると、敵は素直に手を上げながら出てきた。
「流石は万人斬りと呼ばれることだけはあるな。
しかし、こちとら、いつでも貴様の寝首を掻くことができたんだぜ?」
何だと……!?
「だけど、万が一ということもあって、手を出さずにいてやったのよ! ありがたく思いな!」
まさかこの私が、敵の気配も気づかず、そのまま眠り続けていただと? ディルフォードはひどく警戒していた。
「そうともよ。なるほどなあ、こいつは驚いた、まさかほんまもんの力を得ているとはな……」
……なんの話だろうか、ディルフォードは気になっていた。
「まあ、いい。今回は様子を見に来ただけでっさあ。だからひとまず、これで退散してやるぜ」
何を言う、そうやすやすと返してなるものか、そう言うが――
「ディル! 大変だ、来てくれ!」
と、助けを呼ぶ声がした。
「ほら、お仲間さんが呼んでますぜ?
それに、俺の仲間が、あんたの大事な女の命を狙っていることも忘れてもらっては困るなあ」
卑怯な。だけど、敵はどういうつもりなのだろうか、やるんだったらさっさとやればいいものを――
「ふっ、じゃあな、また会おうぜ」
そう言うと、敵は仲間と共にどこかへと消えていった。
風呂上りのエレイアはコロンをまとい、彼の元へとやってきた。
「どうしたの、ディル? 誰か呼んでいるみたいだけど?」
「あ、ああ、なんでもない、今向かう――」
ディルフォードは少し狼狽えながらも、とりあえず、助けを求めるところへと向かった。
ディルフォードは呼んでいた仲間の元へとやってきた。そこでは、大変なことが。
ある程度は予想していた、先ほど敵がやってきたぐらいだからだ。
「何がどうなっているんだ? 仲間が一瞬にして吹っ飛んじまったとでもいうのかよ!」
そこにいたやつは、仲間がものすごい勢いで吹っ飛ばされ、そのあたりに躯となって転がっている様を見て驚いていた。
その様は明らかに一戦交えた跡であり、つまりはそれなりに派手な戦いが起きていたということでもある。
しかし、ディルフォードとしてはどうしても腑に落ちない点があった、
そう、戦いがあったとすれば、ディルフォードが寝ていた場所とはそう遠くない場所であるため、
彼がすぐ気が付いて加勢に来ていてもおかしくはない場所なのである。
それなのに、何故、私は気が付かなかったのだろうか、
それに、ここで仲間が殺されるとは――ディルフォードは悔しがっていた。
「島の守りはどうなっているんだ?」
自分が気が付かなかった点についてはどうあがいてもどうにもならないが、
それとは別に、島の防備について確認することにした。ところが――
「それが、北東に配置されていたオウル組の連中からの応答がないんだ」
そんなばかな! まさか、シェトランドをなぶり殺しにできるような兵器でも開発したとでもいうのだろうか、
ディルフォードは驚きながらそう言った。
「まさか、ルーイの姉ちゃんのパワーで殺戮兵器が完成したとか、そういうことじゃないだろうな――」
万が一そうことになると、ことは一刻を争うのは明白である。
ディルフォードらは先発隊として、ボートでセイバルの研究島ともいわれる南側の島へと向かうことにした。
敵に警戒しながら向かうが、どうやら敵は姿を現さないようだ。
だからこそ気になるというのもある、常に警戒を怠らないように。
「エレイア、大丈夫か?」
ディルフォードはエレイアのことを心配していた。
「うん、私は平気! 大丈夫だよ、ディル!」
島についてからというものの、エレイアはなんだか怯えていたような感じだったが、
今は何ともなさそうで、安心したディルフォードだった。
「ディル、心配してくれてありがとう、私は大丈夫だからね!」
それなら言うことないが、エレイアはなんだかワクワクしているようだった。
「どうしたんだ?」
「うん、だって、戦場にディルと一緒に来れるだなんて、すっごく嬉しくって――」
言われてみればそういうことってあんまりなかったなことを思い出したディルフォード。
数えてみれば、オウルの里を守るために、3回ぐらいエレイアと一緒に戦った、それぐらいのものだった。
「島についたぞ!」
ほかのシェトランド人に言われてディルフォードはそちらに目をやると、研究島の入り口が見えてきた。
切り立った崖の間に海岸があり、そこから島の中へと入れる、ディルフォードとしては久しぶりの地でもあった。
「あれ? ディルって、この島に来たことがあったの?」
エレイアがそう言うと、ディルフォードは答えた。
来たことは何度でもあった、昔はなんでもない島だったが、
いつしかセイバル軍が支配するようになり、それ以降も仲間の奪還のため、
何度か足を運んだこともあるいわくつきの島なのである。しかし、それと同時に懐かしくもあった。
「そう、懐かしの大地なのね!」
しかし、その大地に上陸するや否や、妙な気配を感じた。
「おい、気を付けろ! なんか知らんが、なんかゾロゾロといるぞ!」
上陸地点の近くには、別の船が接岸しており、大勢の者が乗っていた。
「あれは、連絡船!? なんで連絡船がこんなところに!?」
それはレザレムとティルアをつなぐ連絡船だった。
ところが、船に乗っている連中は異様なほどに静かであること以外は、
船は特に何か異常を示している様子は見受けられなかった。
「ねえ、ディル! あの人たち、フェルダスの港からついてきていた人だよ!」
そう言われてみれば確かに、ディルフォードにも心当たりがあった。
なんというか、どこかで見たような男ばかりがおり、なんだか違和感を覚えていた。
どの男たちもエレイアをじっと見つめていた男ばかりだったか、ディルフォードは少しエレイアを守るような感じで身構えていた。
それに――なんだろうか、フェルダスやレザレムでも顔なじみというほどではないが、見たような顔もあるような気がした、
とにかく、なんなんだこいつらは。
「私、様子を見てくる!」
「あっ、ちょっと待て、エレイア!」
しかし、エレイアは彼を振り切り、連絡船のほうへと向かった。
船が接岸している位置が悪く、大きな段差があった、そのため、連絡船のある位置へはいったん飛び降りなければならず、
しかも、敵地へは遠回りを覚悟しなければいけないのだ。
「私は大丈夫だから、ディルたちは先に行ってて!」
そういうことであれば仕方がない、エレイアの言うようにするしかなさそうである。