エンドレス・ロード ~プレリュード~

最後の奇跡 第1部 光を求めて 第1章 すべてを失った時

第12節 正直な気持ち

 ディルフォードは急に倒れたエレイアを抱え、ベンチの上に運ぶと、心配そうに見ていた。
「大丈夫か、エレイア!?」
 そして、彼女が意識を取り戻すと、心配そうに声をかけた。
「あっ、あなたは、えっと、その――」
 ど、どうしたんだろうか、まさか、また記憶が――ディルフォードは少し不安だった。すると――
「ねえ、ディル、私と――」
 良かった、記憶は大丈夫なようだ、多分、ディルフォードは少し安心した。 それで、何をご所望なのだろうか、ディルフォードは少し焦っていた。
「ううん、私のこと、しっかりと抱きしめて!」
 どうやら、なにか嫌なことがフラッシュバックしたらしく、とても怖い思いをしていたようだった。 ディルフォードはそんな彼女を優しく抱きしめた。
「ね、ねえ、私って、どうかな……?」
「どうって? 別に、エレイアはエレイアだ」
「ううん、そうじゃないの。ディルにとって、私ってどう映っているのかなって」
 そっ、それは――ディルフォードはそんなことを改めて考えたこともなかった。
 改めて言うことになるが、エレイアは彼にとっては妹みたいなもので、大切な人でもある。 妹であるのだが、大切なパートナーとなるべき人でもあると思っている。 彼女は彼を振り向かせようと頑張ってきたことからも、ディルフォードという男と一緒にいたい、 それはディルフォードでもわかっていた、それに根負けした彼は、彼女と一生涯を共にするつもりでいた。
 しかしそれを冷静に言うディルフォードに対して、エレイアは――
「うん、そうだよね、ディルはそういうことしか言わないんだよね」
 あっ――ディルフォードは少し反省した、お前が好きだ! みたいなことを言えばよかったのかもしれない……
「それに優しいし、硬派なイメージもあるから、そういうのがディルなんだよね」
 確実に見透かされていた、言われてみればそんな気がする、そう言う感じで今まで振舞ってきたのは確かだ、 あの悪漢たちもそう言っていただろう、万人斬りは女なんかにうつつを抜かしていないで敵を斬っていればよい、と、 ディルフォードという存在はそういう男なのである。
「うん、私って、女として魅力ないのかなあって――」
 そっ、そんなことは――そう言われると、ディルフォードも流石に否定した。
「じゃあ、言って! 率直に言ってほしいの! 私、贅沢かもしれないけど、ディルに言ってもらいたいの!」
 確かに、今まで避けてきたというのはある、完全に見透かされていた。 まったく、戦いからは逃げずに、エレイアが相手だと逃げ出している、適当な理由を作ってはそれでよしとしている、 本当は彼女だって、そんなの望んでいないハズだ、もちろん、ディルフォード自身もそんなつもりはないし、 いずれかは言わなければいけないと思っている、彼女のために――
 だから――ディルフォードは意を決してエレイアに気持ちを伝えることにした。
「エレイア今まで悪かった。 私はエレイアが好きだ、愛してる。適当なことばかり言っていつも逃げてばかりですまなかった。 エレイア、本当にきれいだ、あの頃とは全然違う――その、なんていえばいいか――」
 言ったはいいが、ディルフォードは急に怖くなった。何やっているのだろうか。すると――
「やった! ディルに認めてもらえた! 私、うれしい、すごくうれしい!  ありがとう、ディル! 私も、ディルのこと愛してるわ!  かっこよくって素敵なディル! これからもずっと一緒にいてね!」
 そういうと、エレイアは彼の懐に飛び込んだ。ディルフォードは彼女をしっかりと抱きしめた。 そうとも、これでいいんだ、これで――だがしかし、なんなのだろうか、彼女は彼の懐の中で、何故かうずくまっていた。
「ど、どうかしたか?」
「えっ? う、うん、うれしいの――どうしよう、とっても幸せすぎて、私も怖い――」
 しばらくは二人っきりにしておこうかと、他のシェトランドたちはその場から少しずつ遠ざかっていた。

 セイバル軍のオウルへの侵攻もしばらくはないみたいで、その日はゆっくりとオウルの里で眠れた。 そして、朝起きると、やっぱりエレイアがいた。
「あら♪ ディル、おはよん♪」
 その時のエレイアはやけに色っぽく、ディルフォードは驚いていた。 汗もかいているあたり、色っぽさに磨きがかかっている感じもあった。
 ん、そう言えば――ディルフォードはちょっと気になっていることがあった。 今日は汗をかいているが、思えば、これまでも何度か朝起きると汗をかいている彼女が珍しくなかった。 もしくは汗をかいていたせいなのか、いつも朝シャワーを浴びていた。 どうしたのだろうか、ディルフォードはひとまず、今はどうして汗をかいているのかだけ訊いた。
「えっ? あ、うん、ちょっとした運動をね!」
 ちょっとした運動……そうであれば間違いなさそうだが、ディルフォードは一つ気になっていたことがあった、それは――
「そういえばプリズム族の身体だっやか、もしかしたら、シェトランドの民の身体と同化しているのか?」
 身体はプリズム族の身体と、シェトランドの民の”二つの御魂”とが合わさっているのが彼女の身体であるわけだ、 どうしてそうなっているのかはわからないが、もしかしたら、その状態が馴染んでないという可能性もあり得る。 となると――事態は深刻なのかもしれない、ディルフォードは嫌な予感がしていた。
「エレイア、いいんだ別に、辛かったらすぐに私に言うんだ。 無理しなくてもいいんだ、エレイアは――大事な人なんだからな――」
 ディルフォードは心配しながらエレイアを抱きかかえ、そう言った。 抱かれたエレイアは何故か慌てた素振りだったが、ディルフォードがそう言うと、 エレイアは安心したかのように彼を抱いていた。
「ディル、ありがとう――」

 その日、オウルを出発しようと2人は里を発つことにした。 目的はそう、オウルの里を荒らしているセイバルへの攻撃である。 仲間たちを取り戻すため、戦いに赴くのである。
 だが――オウルの里はどういうわけか、やたらと静かな状況だったため、ディルフォードは不気味に思っていた。
「どうかしたの?」
「いや、なんか妙だなと思って」
「うーん、多分、大勢亡くなったからかな……?」
 人口が減って活気が薄れたのだろうか、それにしては異様な静けさだが、それでも確かに一理あった。 そもそも、まともに動ける連中は、すでにグレート・グランドの東にある通称”シェトランドの島”、 今はそこが激戦の地、2人も今そこへ向かうところだった。
 島へはレザレムの港からグレート・グランドのティルアへ上陸、 そして、島に向かう船主を探しだし、向かう手順がある。
 船主にはたまたま出くわすこともあるが、 一番確実なのはバルティオスのお城の酒場のマスターに話を付けること。 それで船主に会えない場合は、代わりにボートを用意してくれるので、自分で動かす必要があるだ。
 案の定、エレイアにはその島の記憶がないようだけど、 実際には何度か来ているハズ、なんとなくだが、知っているような気がするそうだ。