少し前――アーシェリスとイールアーズがオウルの里へとたどり着くと、物々しい雰囲気に包まれていた。
「どうした!? なんだなんだ、一体何があったというのだ!?」
「あ、イール! 実はな、墓が暴かれていたんだ!」
イールアーズが話しかけたシェトランド人がそう返した。墓を暴くとはただ事ではなかった。
「まさか、セイバル人か!?」
「ああ、だろうな。やつら、俺たちをただの実験材料程度にしか考えてないからな」
「セイバルが、オウルにも手を出してきたというのか!?」
「なんだイール、知らなかったのか? セイバルがオウルにもやってきたのは昨日今日の話じゃねーぞ。
例の戦があっただろう、あれ以来だ、セイバルの連中がここにやってくるのは」
あの戦って、まさか――アーシェリスは口を出した。
「俺たちと戦った、2年前のあの戦いか!?」
そのシェトランド人はアーシェリスに気が付いて言った。
「ん? 何だお前、エクスフォスか? ああ、そうだ、あれ以来だな――」
「それはそうと、墓って、誰の墓が暴かれていたんだ?」
イールアーズは訊いた。
「ああ、それがだな、実は――暴かれたのはエレイアの墓だ」
ワイズリアの元へとやってきたアーシェリスとイールアーズ。
そして、改めて、シェトランド人は石の民であるということを知らされたのである。
「そこにいるエクスフォスの小僧にも教えてやるが、
俺たちシェトランド人っつーのは石の民、つまり、ハートが石でできているってわけだ」
「石の民? どういう意味だ?」
「どうもこうもない、そのままの意味だ、俺たちは石で出来ている」
ワイズリアはさらに話を続けた。
「具体的には石っつーか、宝石の”核”でできているんだ。
んで、外表、つまりは身体そのものになるわけだが、こいつが、まあ、要するにだ、
エクスフォスみたいな血肉を持った身体には見えるが、
実は、無機物が有機物とうまい具合に組み合わさっている状態らしい。
詳しいことは俺もわかんねえが、なんか、そういうことらしい」
「それと、俺たちの動力源はその”核”だ。
こいつが損傷したりしない限りは動力を維持し続けられる。
そうだな、生物兵器――確かに、そういわれれば、ある意味それが正しい表現とも取れなくもないかもな」
「しかし、”核”が損傷すると、流石の俺らでも命が危うくなる、最悪、死を意味することもあるっつーわけだ」
確かに、あの戦争で死んだシェトランド人もいるが、要はそういうことである。
「それと、セイバルの連中が言うには、シェトランド人の核自身には使い道があるらしい」
「それが原因で、イールアーズの妹は狙われている」
「ああ、俺の妹はシェトランド人の中でも特別でな、核が保有するエネルギー量が、
ほかのシェトランドの2.6倍程度あるんだとさ」
「ところで、エレイアの墓が暴かれていたということなんだが――」
イールアーズは話を戻した。
「ああ、今言ったように、俺たちが生きるのに大事な核だけど、そいつが損傷したら死を意味する場合もあるが、
これは、セイバルの連中にとっても、核に損傷を与え、死んでしまったら、使い道がなくなるから避けなければいけないことだ」
ん、待てよ……ということは――イールアーズは出し抜けに言った。
「ワイズリア、エレイアはまさか、”二つの御魂”なのか!?」
それはどういうことだろうか、イールアーズが説明した。
「シェトランドには心臓にまつわる2つの伝説があってな、
1つは”神授の御魂”という魂を得て生を受けるやつがたまに生まれてくるだ。
で、その”神授の御魂”が何を隠そう、俺の妹のルイゼシアで、
持っている能力に計り知れない力を持つとされる奇跡の存在と言われている」
まさにそれが、核の保有エネルギー量が、ほかのシェトランドの2.6倍程度あることを意味しているというわけである。
そして、もう片方はワイズリアが説明した。
「そんで、2つ目が”二つの御魂”っつー魂を得て生を受けるやつもたまーに出てくるってところだ。
ただ、こいつが”神授の御魂”と違ってわかりにくいっつーのが難点でよ、
セイバルに盗られて初めて気が付くことになろうとはなぁ――」
ワイズリアは話を続けた。
「んまあ、俺たちの命に詳しい連中がわざわざ死んだやつを奪ってくぐれーだから、エレイアは間違いねぇなって踏んだわけよ。
で、”二つの御魂”がもたらす奇跡っつーのは、”二つの御魂”っつー呼び名が示す通り、一度死んでも蘇ることがあるっつー、
まさに奇跡中の奇跡の存在なワケなんよ」
セイバルから仕入れた情報では、”二つの御魂”のことを”バリアブル・コア”と呼ぶらしいが、
核が損傷しても、限界はあるらしいが、核が再結合して生き返る能力を備えているということらしい。
死んだハズの人間が蘇ることがある――確かに、奇跡である。
「にしても、セイバルにパクられたとはいえ、エレイアが生きてるっつーのはまた嬉しいことじゃねえか。
んま、だとしたらますます連中に狙われることになるわけだが――そいつだけが何とも悔しいところだな」
と、ワイズリアは言った。