エンドレス・ロード ~プレリュード~

最後の奇跡 第1部 光を求めて 第1章 すべてを失った時

第9節 英雄か殺人鬼か

 次第に男たちの下品な笑い声が遠のき、次第に下品な笑い声が聞こえなくなってきた。 エレイアの声も聞こえず、何がどうなったのかさっぱりわからなかった。 でも、確かなことと言えば、エレイアはあの悪漢たちによって――想像しただけでも恐ろしい。 せめて、せめて命だけは――でも、命が残っていたとしても、エレイアは――ディルフォードはもはや気が気ではなかった。
 それから1時間後、足音が聞こえてきた、誰かが向かってくるようだった。 その足音、軽い音のする足音で、恐らく、女性ものの靴の音のようだった、ちょうどエレイアの履いているような――
「大丈夫、ディル?」
「エレイア!?」
 エレイアは閉じ込められたディルフォードを助け出し、がんじがらめにされている状態からなんとか助けてもらった。
「なっ、何があったんだ!? エレイアは大丈夫なのか!?」
「ええ、なんとか。私は平気、この通り、無事よ」
「あいつらに、なんか変なことされなかったか!?」
「大丈夫! なんとか、発動が間に合ったわ!」
 発動――また稲妻を呼んだということか。 戦っている時の音が聞こえなかったが、あの場所から結構離れていた上に閉じ込められていたため、 そもそも外の状況さえ把握できなかった状況下、心配ではあるが、エレイアも一人前と言える腕の持ち主、そのあたりは流石だった。
 ともかく、エレイアが無事でよかった、エレイア、本当によかった、 ディルフォードは何度もそう言って、エレイアを優しく抱いた。
「なあ、エレイア――」
 しかし、エレイアは何を言わず、しっかりと抱きしめていた。
「ディル、私、怖かったの! すごく、怖かったの!」
 怖かったと言えば、ディルフォードも同じ気持ちだった、 エレイアがひどい目に合うとなるといたたまれない、すごく恐怖した。 でも無事でよかった、本当に、無事でよかった――2人は互いに無事であることを喜び合っていた。

 しかし、この度のことで、ディルフォードは改めて思い知らされることになった。 名声を得る裏には、こういう言われなき恨み、 つまりは妬み・嫉妬、そして、自分を討って名をはせようとする輩が現れる原因となる。 そして、そいつらを斬ることでさらに万人斬りとしての経験値を獲得していくのである。 だから、ディルフォードは常々思っていた、万人斬りだなんて肩書き、あまり気分のいいものではないな、と。
 しかし、現にそう呼ばれているのだから、これは宿命と思うしかないのだろうか。 これについては鬼人剣・イールアーズもそうだが、そんな通り名なんてもらうもんじゃないと思う。 確かに、戦いにおいては勝ち組は確定的だろうが、生き方についても負け組確定であること請け合いだ、 肩身の狭い暮らしを強制されることは目に見えているのである。
 イールアーズとはそういう話をしたこともあったが、 「何言ってんだ、そんなわけないだろう」といつも冷やかに返されていた。 でも、そもそもあいつの場合は自分と妹以外はどうでもいいという思考回路の持ち主、 つまりは相談相手を間違えているだけだろうかと反省するしかなかった。