朝起きると、その場にはエレイアの姿がなかった。
そうか、もう起きているのか、ディルフォードは感心しながらため息をついていると、
どうやら、そんな余裕をしている場合ではなかったようだ。
何だか知らないが、下手くそな字で書き殴り捨てられた手紙が置いてあり、
彼はそれに目をやると、あまりに下手な字なので、まともに読めはしなかったが、
とんでもないことが起きていることだけは把握できた、どうやら、エレイアが連れ去られてしまったようだ。
手紙は”万人斬り”にあてた挑戦状で、女を返してほしくばどこかへ取り返しに来い、という内容だ。
どこへ行けばいいのかが読み取れなかったが、このあたりの地理は多少把握していたディルフォード、
昔、集落だった廃屋がいくつかあるがそのうちのどれかだろう、くまなく探すことにした。
すると、とある廃屋から物音が。集落の村長の家だった廃屋である。
そこには地下があり、物音がしてきた、間違いなくここだろう。
ディルフォードはその廃屋の入り口でたむろしている連中のところへとやってきた。連中はひどく警戒していた。
「おっ、おおっ、本当に来やがったぜ――」
「すげえ、本当に万人斬りじゃねえか――」
「偽物ってこたあねえだろうなぁ?」
そいつらには見覚えがあったディルフォード、船旅で感じ取った不穏な空気、
こいつら、エレイアを見ながらニヤニヤとしていた連中だったかもしれない、不穏な空気の正体はこれか。
しかし、エレイアが人質に捕らえられていては仕方がない、
彼は連中の言われるがままに、廃屋の地下へと入って行った。すると――
「エレイア!」
部屋の真ん中の細い柱に縛り付けられたエレイアの姿が!
エレイアは口をふさがれているが、恐らく、彼の名前を呼んでいるのか、何かを発していた。
「まさか、万人斬りが女連れとはな、笑かしてくれるぜ……」
周囲はゲラゲラと下品に笑っていた。
敵は5人か、好きなだけ笑え――ディルフォードはそう思っていたが、しかしこの状況、どうしたものだろうか。
「しかしまあ、万人斬りも、こんないい女連れているとは、なかなか隅におけないやつだねぇ」
「まったくだ。流石は万人斬り、女を狩る方法も堪能ってか?」
また周囲はゲラゲラと笑った。失礼な連中である。
「彼女を解放してもらおう。私のことは、好きにするがいい」
ディルフォードは覚悟を決め、その場に剣を置いて正座した。しかし――
「おいおいおい、俺たちの憧れの万人斬り――いや、万人斬りさん――いや、万人斬り先生様が、なんか諦めていらっしゃるぜ!」
「ええーっ、そんなぁ……、イメージを壊さないで下さいよ、万人斬り先生様よ!
万人斬り先生様は、こんな俺たちの手によってやられるようなお方ではないはず!」
どういうことだ? ディルフォードは困惑していた。
「俺たちはただ、万人斬り先生様の強さに憧れているだけなんです! いや~、お強い、本当にお強い!
だから、俺たちの手で万人斬り先生様を殺ろうだなんて恐れ多くてできるわけがありません!」
何のつもりだ……? ディルフォードはさらに困惑していた。
「ええ、そこで万人斬り先生様の”秘訣”ってのが知りたくてですね、
万人斬り先生様にはこうしてご足労頂いたところなんスよ!」
”秘訣”だと? 私の強さの秘訣? ほほう、いい度胸だ、ディルフォードはそう言って、剣を取り出し始めた。だが――
「いえいえいえ、流石に先生様の強さの秘訣を知ろうだなんて大それたことなんか考えませんよ!」
どういうことだ……? ディルフォードはなおもまた困惑していた。
「先生様よ、俺たちが知りたいのは、先生様の強さでなくって、
先生様のいい女を寝取る秘訣なんスよ!」
なんだと、まさか…… ディルフォードは嫌な予感がしてきた。
「フヘヘヘヘ! 万人斬り! この女で”たあっぷり”楽しんでやっからよ!
そしたらテメェへの積年の恨み、チャラにしてやるぜ! ありがたく思いな!」
そんな! それだけはやめろ! ディルフォードは怒りながら訴え、剣を改めて取り出した、しかし――
「おっとっと? この女の命、惜しくはないのか?」
エレイアの首元へナイフを突き立てたれると――ディルフォードは手も足も出なかった。
「そうそう、それでいいんだよ! ほれ!」
後ろにいた2人の男は万人斬りの手首を後ろ手に縛った。これでは身動きがとれない――
「クハハハハ! どうだよ、万人斬り先生様よ!」
すると、男はエレイアの胸元からゆっくりとナイフを入れ、
服をはがすと、胸の谷間が――
「やめろ! エレイア、エレイア!」
男たちは興奮していた。
「おおぅ! これはイイもの持ってんじゃねえか! おい万人斬り!
てめえ、どうなってんだよ! どうしてこんなイイ女抱いてんだよてめえ! おかしいだろ!
頭に来たぜ、こうなったら――」
すると、男たちは万人斬りを目隠し、さらにがんじがらめにしてきた――
「やめろ、やめろー!」
万人斬りはひどく暴れた。エレイアも、必死に何かを叫んでいた。
「先生様よ、ウゼエんだよ!」
男たちは寄ってたかって万人斬りに蹴りを入れると、今度はそのまま暗室へと連れられた。
「ったく、天下の万人斬り先生様のクセしてみっともねえんだよ!
先生様は先生様らしく、女なんか抱いてないで敵をバッタバッタとなぎ倒していてくださいよ?
女は全部俺らが引き取りますんで――イヒヒヒヒヒヒ……」
「全くだぜ、女にうつつ抜かすとか、浮気はダメっスよー?」
「敵も倒しイイ女もゲットとか虫が良すぎるんスよ?
罰として、せいぜいここであの女の春が奪われていく様に恐怖しながら過ごしてくださいよ?
もっとも、もうしっかりいただいた後かもしれませんがねぇ――フヘヘヘヘヘヘ……」
そして、そのまま閉じ込められてしまった、エレイア、エレイアが――