フェルダスからならレザレム行の船に乗れば、後はオウルまで陸路でたどり着く。
船は5日かかって到着する見込みだった。
「風、気持ちいいね!」
ディルフォードはエレイアのその表情になんだか安心したような感覚を覚えた。
やっぱり、エレイアは明るくて、美人面が際立つ存在である、
自分の中の記憶にある彼女もまさにそういう存在だった、彼女はやはり同じ存在なのだろうか。
2年一緒に彼女と暮らしていたが、何度もそういう感じを思わせる彼女、どういうことなのだろうか。
ただ――潮風が気持ちいいのはわかるが、ディルフォードは注意を促した。
「潮風に当たりすぎると髪がベタベタのバサバサになる」
それさえなければ申し分ないのだが、ディルフォードはそう続けると、彼女は眉をひそめて言った。
「うん、何か、そんな感じがしてきた。長居は禁物かな」
しかし、それでも、2人は仲良く船旅を満喫した。
だが、その船旅において、何やら不穏な空気を感じ取ったディルフォードだった。
「何か、緊張するね――」
レザレムにたどり着いた。緊張感に包まれていたのはエレイアだけでなく、ディルフォードもそうだった。
自分の故郷へ向かっているというのに、どういうことだろうか。
今になって、船旅での不穏な空気を思い出していたディルフォード、思い過ごしだろうか。
とりあえず、まずはエレイアのためにホテルを借り、潮風でやられた髪を何とかするため、シャワーをしていた。
「うふっ♪ どう? ここのホテル、いいシャンプー置いてあるよ♪ いい香りするでしょ♪」
「まあ、そうだな」
ディルフォードも使ったことはあったが、意識したことはなかった。
せっかくだから入ってくるかディルフォードはそう考えた。
確かに、エレイアは魅力的ではあるけど、如何せんディルフォード自身はこういう性格だから、
エレイアもあまり楽しい想いとか出来なかったのかもしれない、今のエレイアだってそうだ。
だから、果たしてこのままでいいのか、些か疑問ではあった。
しかし、エレイアが、彼の幼馴染みと同じ名前で、顔立ちも声も似ている彼女がそれでいいというのであれば、
ディルフォードは敢えてそれを問いかける必要もなさそうであった。
「ねえ、一緒に寝ようよ!」
彼女は寂しがりで、いつもそうだった。
そして朝、いつもどおり目が覚めると、彼女は先に起きていて、朝食を――
「あっははははは、私ってバカ! ここ、ホテルだったね! 朝食作らなくてもいいのにね!」
何をしているんだ、こういう間が抜けたところもあのエレイアそっくりで、ディルフォードとしてはなんだか嬉しかった。
あの後、彼女は朝シャワーを浴びていた。またいい匂いがしてきた。
そして、そのあとにホテルの朝食をとり、オウルへと向かうことにした。
「なんか、嫌な臭いがするね――」
どういうことだかわからないが、血の臭いがして、なんだか物々しい雰囲気が漂っていた。
「エレイア! お前はここにいるんだ!」
「えっ、どうして!?」
それは……明らかに魔物がいる気配だった。
それも、結構な数の魔物の気配、だから、エレイアはここで待っていてほしいとディルフォードは願った。
「ここで待っていてほしいんだ。大丈夫、必ず、お前の元へと帰ってくる、約束だ!」
「わかったわ、私はここで、あなたの帰りを待ち続けるわ!」
そう言って、ディルフォードは剣を取り出しながら魔物の気配のする方へと走っていった。
何のことはない、どれほど魔物がかかってこようが、万人斬りと称された男にとっては障害とはならない存在だった。
しかし――胸騒ぎがしてならなかった、
急に不安になったのだ、それは――残していったエレイアのほうから悲鳴があがったことがすべてを物語っていた。
エレイアのほうに魔物の気配! ディルフォードは慌てて戻った。
「エレイア!」
案の定、狼の魔物数匹がエレイアに襲い掛かっていた、間に合うだろうか、ディルフォードは剣を引き抜きながらその場へと向かっていた。
「私は、私は――」
くそっ、間に合え! 邪光の衝撃波を放ち、魔物へと遠隔攻撃を放った。見事にヒットしたが、数が多すぎた――
しかし、ディルフォードはあきらめず、さらに立て続けに、一心不乱に剣を振り続けた。
だが、もはやこれまでか、万人斬りという存在は、やはり無力なのか――
「私は――」
ディルフォードはその場で立ちすくんでいた、
だがその時、エレイアに魔力が集中する!
「仇成す者への魂の裁きを! 集え、<ライトニング・ストリーム!>」
ま、まさか、あの稲妻は! ディルフォードは驚いていた。
「喰らいなさい!」
エレイアの放ったすさまじい稲妻の魔法で、周囲の魔物は一蹴された。
しかし、今の魔法、あの魔法が使えるやつは、ディルフォードは他に知らなかった。
「エレイア、まさか、本当にあのエレイアなのか!」
ディルフォードは確信した、間違いない、彼女は”雷の娘”と呼ばれ、自分の知っているあのエレイア、
幼馴染のあのエレイアで間違いない!
「ディル! 私に、こんな力があったなんて――」
エレイアはその場で立ちすくんでいた。
だけど、もう何も言わなくていい、ディルフォードはそう言ってエレイアを大事そうに抱きかかえた。
そう、彼女はどういうわけか生きていたのだ、それだけでも、ディルフォードは嬉しかった。
昔の戦で多くの仲間が亡くなった、しかし、エレイアは無事だった、ディルフォードの心が救われた瞬間だった。