そして、彼女と暮らし始めてから2年も経過した。
依然としてフェルダスの港で暮らしをしている2人、その仲もかなり親密なものとなっていた。
2年も経っていると、エレイアとは何でも話せた。
ディルフォードの知るシェトランド人のエレイアのことから、里での生活まで。
流石に戦争の話まではしなかったが、それでも、戦争に駆り出されていた程度の話はしていた。
「ディル♪ ご飯できたわよ♪」
朝シャワーのシャンプーのいい香りに包まれた彼女は楽しそうにそう言うが、
ディルフォードは北西の空を見上げたまま、返事をしなかった。向こうはシェトランドの里がある方角、
「胸騒ぎがするのね。私もなんとなくだけど、感じるわ――」
エレイアがそう言うと、ディルフォードは黙ったまま椅子に座り、エレイアと一緒に朝ごはんを食べ始めた。
「やっぱり、望郷の想いが強いのかな?」
「わからん。第一、私は里を捨てたのだ、今さら戻ることはできない」
しかし、エレイアは――
「でも、彼女、”もう一人の私であるエレイア”との思い出の地じゃない、行ってあげたら彼女も喜ぶわ」
「そう思うか?」
一方でエレイアの話のほうはなんだかおかしかった。
プリズム族ではあるが、プリズム族の里のラブリズに行ったことはないという。
しかし、それなのに故郷はラブリズであるなどと言っているあたり、どういうことなのかがよくわからない。
元カレと暮らしていたという話についても何だか変で、一緒に暮らしていたという話はなく、
特定の相手がいたということでもなく、ただただいろいろな男を物色して遊んでいただけかもと、なんだか妙な話である。
でも、もしかしたら精神的なショックが大きすぎて、記憶がはっきりしないというようなことも言っていたあたり、
それを信ずるほかないようにも思える、ここまで来たのだから、彼女を信じることにしたディルフォードである。
ある日の夜のこと、ディルフォードはその時もまた窓辺に立って、
またオウルの里の方角のほうを向いて目を瞑り、腕を組んだままじっとしていた。
「ねえ、ディル、どうしたの……?」
しかし、ディルフォードは微動だにしなかった。しかしそれに対して、エレイアは、ディルフォードを誘うように言った。
「寂しいわ、こっちに来て、私をしっかりと抱き締めて――」
しかし――
「胸騒ぎがするのだ」
ディルフォードはそう言った。すると、彼女は起き上がった。
「やっぱり、残していった自分の種族のことが気になるのね」
「すまない。私は、どうやら行かねばならんようだ」
彼女は頷いた。
「うん、そう言うと思った」
「本当にすまないと思っている。しかし、私は行かねばならんのだ」
どうしても、行かなければならない気がする――ディルフォードは落ち着かなかったのだ。
すると、彼女は――
「そう。なら、私も一緒に行くわ」
なっ、何を言うのだ、これは、シェトランドの問題、
彼女を巻き込むわけには――ディルフォードはそう言うが、彼女は首を横に振った。
「ねえ、約束してくれたよね、私と一緒にいてくれるって」
そっ、それは――ディルフォードは困惑していた。
「私はあなたと一緒にいたいの。たとえ、どんな目に遭っても。
私はエレイア、あなたの幼馴染と似た女、本物とは違うかもしれないけれども、
私があなたに出会えたのは彼女のお陰、そうでなければ、
私はあなたとこんな生活を送るなんてことさえ出来なかったでしょうね。
だから、あなたの幼馴染のエレイアの住んでいた里も知りたいし、
何より、あなたから離れたくないの! だから、お願い!」
ディルフォードはその熱意に圧され、仕方なしに了承した。
恐らく、ダメと言ってもついてくるに決まっている、
なら、はじめから了承しておくのがベストだろうか、そう思ったのである。