オウルの里から野宿を繰り返しつつはや半年、いつの間にかルシルメアの町にたどり着いていた。
ルシルメアと言えば――ディルフォードには思い出したことがあった、リファリウスというやつがいて、
確か、この辺りでハンターを名乗って活動していたことがあったか。
今はどこで何をしているのかわからないが、あいつの腕ならこの万人斬りを殺すこともたやすいだろう、
自分に遺されたのはひたすら修羅の道を究めようとしているこの身一つ、
いつ終わるともわからないこの地獄を一瞬にして終わらせることのできる腕を持っている、願ったりではないか。
しかし、そうなると問題は、あいつはそう簡単に相手をしてくれないことが問題点としてあげられた。
あいつは強いというより、強すぎるのである。
そのため、そもそも相手にされないというのがネックである、負けたところでそのまま生かされるのがオチなのは明白だった。
そんな感じで3日も葛藤し続け、ルシルメアに居座ることとなったディルフォード、
時間を無駄にしただろうかと思ったが、それもすぐにやめた、どうせ果てる命、時間など考える意味もない、そう考えていた。
気が付いたら酒場でお酒を頼んでいたディルフォード、これは何のつもりだったのだろうか、やけ酒でもする気だったのだろうか。
なんだか、自分はまだ何らかの可能性を模索していたのだろうか、あれほど修羅の道を歩もうとしていたのに、それこそ、おかしな寄り道である。
いや、でも、酒ぐらいはいいだろう、いろんなモヤモヤをリセットする、そういうことならそれでいいのではないだろうか、
それに、無駄に生きている時間のための暇つぶしにもなるだろうし――そしてディルフォードは酒を次々と頼んでは飲んでいた。
すると、ずっとそこで酒を飲んでいるディルフォードの元へと1人の女が現れ、話しかけてきた。
「あなた、ずっとそこにいるのね」
大きなお世話だ……と言いたいところだったディルフォード、しかし、よくよく考えれば、
その時はほぼ一日中酒場で飲んだくれていたため、何も言わずにただひたすらと飲んでいた。
「隣、座ってもいい?」
当然、ダメである。
しかし、こういう女は大体拒否しても座るやつである、ディルフォードは直感的にそれを悟った。
すると、案の定、こちらは特に何も言わなくとも、女は隣に座った。
「あなただけよね、周りの男とは全然違うんだから」
何が違うのだろうか、ディルフォードは不思議だった。
剣さえ引き抜かなければ、どこの男とも変わらないこの私が、何が違うと言うのだろうか、そう思っていた。
確かに、万人斬りと呼ばれたこの男の中に、その強さというか、倒してきた敵の数でも見えてきたとでもいうのだろうか?
そう言うことなら一理ありそうだとそう考えた。
だがこの女、ディルフォードがまったく予想しない行動をとった。
それは、ディルフォードの顔を正面から覗きこみながら言ったことである。
「やっぱり、あなただけ、特別カッコいいよね!」
ディルフォードは咳き込んだ。なっ、何を言い出すんだ、この女……そう思いながら、彼は女のほうに目をやった。
どういうことだろうか、どことなく亡くなったはずのエレイアに顔立ちも声も似ているその女は、
彼のほうを向きながら、にっこりと微笑んでいた。
「あっ、やっとこっち向いてくれた! でも、そのしかめっ面を解いてくれたら、もっとよかったのになー」
そうか、それは悪かったな――ディルフォードはそう思いながら視線をそらし、再びお酒を飲み始めた。
だけど、この女は彼に気があるのだろうか、ディルフォードの顔をじっと眺めていて離れようとしないようだ。
そして、そのうち――
「なっ、何をする!」
ディルフォードは驚いた、驚いて、身を引っ込めた。女が、そのか細い手で彼の手を握ろうとしてきたのである。
「えー、ちょっとぐらい、いいじゃない。
こんなに素敵な男の人に出会ったのですもの、最期ぐらい、夢を見させてほしいなぁ――」
最期の夢――そのワードにはディルフォードもちょっと興味があった、
最期といえば――まさに今の自分の境遇がまさにそれに似ていた、
なんだろうか、ここはそう言うやつが集まる吹き溜まりか何かだろうか、なんだか不思議な感じだった。
しかし――彼は、彼女に残念な事実を伝えることにした、それは――
「すまんな、私は石の民、シェトランドだ。悪いが、他の男を当たってくれ」
ディルフォードはそう言った。
別に石の民が他種族と関係が持てないというわけではない、関係が持てるという確証もないが、これまでの歴史的に。
というのも、そもそもシェトランド人は忌み嫌われている種族、
そう言うと、大体の者はまず逃げ出すこと請け合いである。
それが特に女となると猶更で、ディルフォードはこれまでもこんなキラーワードを用いて他の女との関わりを避けてきたのである。
しかし、この女は違った。
「シェトランド様! そうなんだ! そうなのね! つまり、そこいらの女とは一緒になりたくないっていうのね!」
女は何故か興奮し、何故か喜んでいた。
「大精霊様は、まだ、この私を見捨ててなんかいなかったのね! そうよ、ここで私とあなたが出会うのは運命だったんだよ!
私はプリズム・エンジェル族なの。だから別に相手がシェトランド様であってもまったく気にしないわ!」
プリズム族といえば――ディルフォードは聞いたことがあった、都合よく……何が幸いするかわからないものである。
何の因果だろうか、リファリウスとはよくよく縁のあるな、その種族のことについて聞かされたのはやつの口からだった、
まあ、その前にも一度、あれも確かプリズム族の女だったハズだが、つまりは当事者から聞いている。
彼女らは元来、ほとんどが女性で構成されていたとされる種族で、つまり、男性が少ない。
そのため、どんな種族の男性とでも子供が作れるような身体の作りをしているという特異性を持つとされているらしい。
だから別に、相手がシェトランドであろうと臆したりはしない、ということなのだろう。
肌は色白、美形が多く、服装はお嬢様のような、なんというか、人目を惹きそうなほど可愛げなファッションで身を包み、
下は長めなスカートを履いているというのがデフォ、と言っていたのを思い出したディルフォード、
しかし彼女の場合、下は短めのスカートを履いていた、
それこそ、どこかの学校のセーラー服にも近しいような可愛らしい服装といったところである。
プリズム族の特徴としては聞いた話とちょっと違うようだが、そんな女が、今、目の前に……。