エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第2部 Rの名を冠する者 第3章 Rとの馴れ初め

第53節 世界は広い

 ようやくクラウディアスでの修行というのが実現することとなり、 ティレックスはリリアリスにお城の中庭に呼び出されていた。
「ごめんね、なんだかギリギリになっちゃって。」
 いや、それ以前に既に一戦交えた後なんだけれども。
「覚悟する」
 この時の相手はあのカスミだった、彼女の剣裁き、とてつもなくすごいものを感じる――
 すると、彼女はどこからともなく木刀を召喚した、やっぱりリリアリスの影響を受けているようだ――
 そしてティレックスも渡された木刀を構えていた。 木刀なんだけれども、その精度はそこいらの真剣に対しても受け太刀が可能なぐらい特殊な代物であるらしく、 ある意味とてつもなくヤバイ物体である。 ということは、当然リリアリスの作ということであるのだけれども、そのネーミングが――
 ティレックスの木刀は刀というよりも大剣を木製にしたものだけれども、 色付けにとてもこだわっているようで、だいぶ使い古したかのような金属の独特の質感を再現していて、 芸術的センスが冴える逸品であるが、その名をどこかの剣闘士の名をとって”クラウド・ストライク”と呼ぶのだそうだ。
 一方でカスミ、こちらの刀は特に色付けなどはされておらず、木刀そのままのデザインである。 しかし長さがかなり重視されており、その名をどこかの剣豪の名をとって”KOJIRO”と呼ぶのだそうだ。
 ”KOJIRO”はともかく、”クラウド・ストライク”の名前は何とかならんか?  あと、ついでをいうと”名刀ミヤモト”という木刀もあるらしく、こちらの刀身の長さは比較的普通らしい。
 お互いに構え、リリアリスの初めの合図と共に剣稽古は開始、 それと同時に彼女の両目が光ると、次の瞬間にはいつの間にかティレックスの懐まで迫っていた!
「早いっ!?」
 彼女はスピードタイプの使い手か、先日の戦いでもやって見せたように、やはりスピードに非常に優れた使い手であった。 この点はユーシェリアにそっくりではあるが、能力的には彼女以上――強敵に間違いない。 流石は王国随一の剣客、エミーリアが呼び出した召喚獣である。
「壱、弐、参、肆、伍、陸、漆、捌、玖、拾……」
 ティレックスは彼女にテンポ良く打たれていた。 剣撃は軽いが真剣なら間違いなく殺傷能力は高い、真剣でないにも関わらず、ティレックスの防具が軋む音がする。
「とどめ……」
 というと、彼女はティレックスに重たい突きの一撃を放ち、 それから下段からの切り上げを放ってとどめに入った! くっ、何のこれしきっ――
「……粘った」
 ティレックスは最後の攻撃に負けず、なんとか踏みとどまった。 強烈な連撃を籠手で受け流し、シメの突きを喰らっても突き上げを喰らってもなんとか踏みとどまった。
「……次は俺の番だ――」
 というと、ティレックスは彼女に対して攻撃を放った。 シンプルな突き攻撃からの流し切り、さらに逆袈裟と、コンボよく攻撃していった。 しかし、どの技も一向に決まらず、まったく当たらない!
 そして、飛び道具で命中効率もよさそうなはずの月読式破壊魔剣の簡易版なる例の技をもってしても彼女には当てられなかった。 そんなことをしているうちに――
「今度は私の番」
 カスミから飛ぶ斬撃の技をはなち、ティレックスはみぞおちにマトモ喰らった――くっ、その程度のことでっ――
「……よく粘る」
 ティレックスはまたしても踏ん張った。
「そうなのよ、こいつは守りの固さだけは得意なのよね。 だけど攻撃をよけるのはニガテだから、うまく使うのなら盾として使うのがちょうどいいんじゃあないかな。」
 と、リリアリスは言った。
「すごい。同じ盾でもラシルより強い」
 カスミはそう言った、ティレックスはここの騎士団長より強いということになったようだ。
「まず、ガードが正確。重装備なのにフットワークもまあまあ。 剣の勢いも技も十分。ラシル、騎士団長ティレックスと交代する」
 というと、その場に居合わせたラシルは困惑していた。すると、今度はシャナンが言った。
「流石ですねティレックスさん。やはり御父上に似ていらっしゃる」
 戦いの真っ最中と違い、今度こそシャナンの特徴的な碧色の済んだ瞳の色がはっきりと確認できた。 それにしても、クラウディアスには一応重鎮が残っているじゃないか、そう思ったティレックスだった。

 ティレックスは今度は光栄にもシャナンと軽い手合わせをさせていただきながら話をしていた。
「ライナス殿は確か――亡くなってから9年経ちますか?」
 9年、ティレックスにとっては長いようで短い時間だった。
「そうですか、もうそんなに経つのですか。 そういえば、レンティス殿はどうです? ご存命かと存じますが――」
 レンティスはマウナとの戦争の一件以来、どうなっているかとか一切把握していなかった。 生きていることは間違いないけれども、彼は少し無理をし過ぎた、 しばらくの間、ゆっくりと休んでもらえればと、みんなで相談した結果、長期休養を取っていただいている。
「直にお会いしたことはだいぶ前のことでうろ覚えになっていますが、 皆さんからは慕われていらっしゃるのですね」
 ただ、レンティスはそういう割には武骨な性格なのが玉に瑕である、バフィンスがそんな感じのことを言ってた気がする。
「さて、そろそろ少し本気を出させていただきますか」
 というと、シャナンの剣撃が、次第に重たくなってきた――なんのこれしき!
「くっ、このっ!」
 ティレックスは調子よくその攻撃をはじき返した。
「なかなかやりますね、流石です」
 シャナンは話を続けた。余裕のようである。
「確かに、先ほどカスミさんと打ち合いをしていた通り、ガードもフットワークもいい感じですね」
 フットワークについては特に受け流しても動かなければ意味はない、ティレックスはそう思っていた。 しかし、そこは流石に先の大戦の英雄である”蒼眼のシャナン”、ティレックス如きが勝てる相手であるハズなどなく、 シャナンに散々”KOJIRO”で打たれたうえ、最後に体当たりで突き飛ばされると、倒れているティレックスの首元に剣先を当てたのである。
「ま、参った――」
 ティレックスは降参した。だけれども、先の大戦の英雄と手合わせできるだなんて、またとないチャンスであった。
「やっぱりおじ様カッコイイー! 痺れるー! 憧れるー!!」
 そう言ったのはリリアリスだった。
「おじ様カッコイイー!」
 続けざまにカスミもそう言った。 確かに、シャナンはあのアールとも引けを取らないほどの優男風の風貌のイケメン、女性にすごくモテそうである。
「いやいや、それほどでは。それにリリアリスさん、それを言ったらあなたのほうが腕が上でしょう?」
 と、シャナンは言った。えっ、リリアリスは”蒼眼のシャナン”をも上回る強さだというのか、それは本当にヤバイ。 ”ネームレス”というのはそれほどの存在だというのか、本当に世の中は広い。