エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第2部 Rの名を冠する者 第3章 Rとの馴れ初め

第52節 開眼

 ということで作戦変更。まずはティレックスの防御魔法の効果が消えるのが先なので、その問題が解決されてからだった。 そのため、まずはシャナンがディフェンダー・ロールのうちに魔獣の攻撃を一手に引き付ける。
 その間にティレックスは背後で防御魔法を自らにかける。 それと同時にカスミはサポーター・ロールの能力で全員により強力な守りを与える魔法を使用した。
「なんだこの防御魔法は!」
 風の守りがティレックスたちを包み込むと魔物の攻撃を阻むバリアとなった!
「強いけど効果時間長くないから注意する。うまく使う」
 この守りの力にはティレックスは驚いていた、これが幻獣様のお力なのか!?  そして、ティレックスは臆せずシャナンの前に立ちはだかり、代わりに攻撃を引き受けた。
「これはすごい! 敵の攻撃なんて全然びくともしないな! これならいけるぞ!」
「ではティレックスさん、頼みましたよ!」
 シャナンはそのまま背後へと引き下がると、剣の構え方を変えた。
「アタッカーなんて久しぶりですね、いつ以来でしょうか」
「私、前行く。おじ様お願い」
「はい、かしこまりました、カスミさん!」
 すると、カスミはティレックスに横並び――まさかこの子がディフェンダー・ロールに!?  構え方が変わっていてた、敵を切ることよりもフットワークを利かせたような感じの構え方、敵の攻撃をよける感じのものである。 ということは、やっぱり敵の攻撃をかわすことに注力したものだろうか。
「では、参ります!」
 シャナンは背後から蒼い剣閃を発し、魔獣を貫いた!
「まだまだです!」
 さらにもう一撃、そしてさらにもう一撃と、三段攻撃を仕掛けた!
「今」
 それと同時にカスミは妖魔の眼を見開き、魔獣に牽制、魔獣の注意はカスミに注がれる。 しかしそれと同時に、そのままシャナンの攻撃が魔獣を貫く! 魔獣は体勢が崩れているように見えた。
 だがその時、魔獣の重たい前足の一撃がカスミを襲う! ところが――
「遅い」
 なんと、カスミの構えは返しの刃と呼ばれるカウンター攻撃を放った!  そのまま再び的確に切り上げを行うと敵は体勢が完全に崩れ、側面から転倒してしまった!
「マジか! これはチャンスだな!」
 ティレックスは魔獣の様子に驚いた。 とはいえ、この好機を逃す手はなく、そのまま敵を追撃!  土属性系の月読式破壊魔剣術の簡易版に少し力を入れ、魔獣の頭を狙った!
「これならどうだ!」
 魔獣はそのショックで気を失った!
「ティレックスさん! ナイスコンビネーションですよ! いいですね! そのままこいつを片付けてしまいましょう!」
 このコンビネーション・アタックは流石に心得ている、敵が完全に無防備になる方法だ。 しかし、この程度で満足している場合ではない、敵がいつ復帰するか――
「大丈夫です! 復帰はさせません!」
 シャナンは今度は魔獣の目前まで駆け寄り、”蒼の舞い”と呼ばれる剣の技を放った。 この技こそが”蒼眼のシャナン”と呼ばれる所以にもなった極意で、蒼の色の剣の舞いで周囲の数多の敵を切り裂くのである。
 すると、敵は意識を取り戻し、起き上がるがどこかおかしい――
「無防備な体勢で剣の舞いを受けた勢いに負けて動揺しているようだな」
 それによって、次にきた魔獣の攻撃はティレックスでも簡単に受け流せた、既に防御魔法の効力は切れているハズだが、 相手の集中力はボロボロといった感じである。
「じゃあ今度は私の番」
 カスミは剣閃による衝撃波を何回も発し、最後に直に魔獣を貫いた。 魔獣は明らかに動揺しているように見えた。
「もはやパニックになっていますね、冷静な判断もできないことでしょう」
 シャナンは魔獣にそのまま剣を突き刺し、さらに追い打ちをかけた。 その攻撃に対して魔獣は前足でやはり反撃するが、そんな勢いのない攻撃が彼に当たるハズもなく。
 するとティレックス、イチかバチかで月読式破壊魔剣術を決めた!
「喰らえ!」
 なんと、それは闇属性のものだった!
「これはまさか――」
 シャナンは知っていた、ライナスの知識では月読式破壊魔剣術に闇属性のものがないことを。 ライナスが知っているのは炎と氷、雷と土の力ぐらいだった。 それはライナスの父親がそれらの使い手だったから、シャナンとしては知識としてこういうのがあるとは把握している程度のものだった。
 ライナスは知識のみがあるだけでマトモに扱うことさえできなかったけれども、 その子は確かに月読式破壊魔剣術の使い手としては父親を超えていた。 そして、その知識のレベルでも、今度は自分の父はおろか、属性という点において祖父さえも超えたようだ。
「おおおおおお!」
 ティレックスはさらにそのまま力を発揮し、魔獣をレーザービームのような攻撃で追撃!
 やがてティレックスの技は収まると、ティレックスはよろけていた。
「ふう、少し無茶したかな――」
 パニックになっていた魔獣は闇の力のその技による攻撃で完全におびえていた。
「今です! 敵が気を取り直す前に早く片付けてしまいましょう!」
 魔獣は臆病な状態、完全にスキだらけである。繰り出す攻撃は何でも決まる、 膳は急げと言わんばかりにカスミのソード・マスターの技が光る、例によって妖魔の眼を見開くと、 その波動をマトモに眼から食らった魔獣は身体が硬直、石となった。 そして次のカスミの剣閃の一撃が命中すると、魔獣は砕け散った!
「すごい。こんなにあっさり決まるの珍しい」

 カスミはお膳立てしてくれたティレックスに感謝していた。
「そんなことはないよ、みんなで頑張った賜物じゃないか」
「まあ、それはそうかもしれませんが――それでもティレックスさん、すごいですね! 闇の力ですか!」
 闇属性――確かに、あれを月読式破壊魔剣術でやるのはかなり難易度の高いことだったのかもしれない。 そもそも月読式破壊魔剣術で聖なる力と闇の力を発揮するのは非常に難しいとされている。 そう言うこともあって、ティレックスの父親はもちろん祖父さえもその技術を確立していないのだという。 と言ってもティレックスが今回発動したものはあくまで自分で考えた簡易版の技術から応用したものであるため、 本物というわけではなく出力数も抑えられている、伝説の月読式破壊魔剣術のそれというには到底程遠いものだった、 それでも大きな進歩ではあるが。
 ただ、これが使えた理由というのは実は大きなヒントがあった。
「リリアさんは魔法剣の繰り出し方についてどのように考えているのか、 リリアさんは魔法剣というものをどのようにとらえているのか、 デモで使用した魔法剣は、むしろ魔法として繰り出しているように見えますがどうでしょうか、etc, etc...。」

「そんなの大した問題じゃあないわよ。何故かというと答えは使う人の意思、これに尽きるからね。」
「それに、私のように我流で魔法剣技を考えている人にとっては特に線引きが難しいと思うのよ、 そもそも魔法を繰り出している、というわけでもない技も多いからね。」
「とにかく魔法剣とは何ぞやというお話はここまでにしておいて。 そして、昔との違いについてはみなさんもご存じのとおり、 魔法”剣”なのに使用可能武器が剣だけに限定されていないというのがあるわね。 ってか、パワーソースが魔法に限らないというのに、そうなると”魔法”・”何”なのか”何”・”剣”なのか、 そもそも”何”・”何”よって話になってキリがないわね。」
 すべて先日のルーティスでリリアリスの講義における一幕である。 ”何”・”何”よの件については今思い返しても抱腹絶倒ものだが今はそこまで心に余裕がなかった。
「リリアリスさんのおかげですか?」
 シャナンはそう訊いた。
「”月読式破壊魔剣術の闇属性”や”月読式破壊魔剣術の聖属性”は大変かもしれないけれども、 単に闇属性や聖属性のアーツって考え方だったらあんまり難しいことではないのかもしれないと思ったんですよ。 だから月読式破壊魔剣術という型にはまった考え方を捨てて、 初心に帰って闇属性や聖属性を月読式破壊魔剣術に応用するって考え方で使ってみました」
 というより、そもそも簡易版というものの考え方が、言い換えればそれに近い考え方だったことを改めて知ったティレックスだった。 以前にも説明した通り、
「月読式破壊魔剣術はそもそもそういう技術として完成されたアーツの一つだから、 そもそも簡易版とか応用するとか他の使い方があるようなものではないんですよ。 でも、よくよく考えると、それは最初に月読式破壊魔剣術を考えた人の勝手でこういう技になっただけなんじゃないかと。 いや、もしかしたら伝承としては完全版のみが伝えられているだけでほかの簡易版のようなものは何らかの理由で失伝してしまった可能性もあり得ます。 だから俺なんかがこのアーツをまともに使いこなせるハズがないんですよ、俺のために作られたアーツではないからです」
 むしろ開き直りに近いものがあったが、 うまく使えないものを無理やり使いこなせるようにするというのもそれはそれで酷な話である。 だったら自分でもうまく使いこなせるような方法を自分なりに考えればいいだけの事、それを実行したまでの事だった。 だからこそ自分の父親のライナスは”月読まず”を選択したのだろうし、自分は簡易版というものを勝手に作って実行しているのだから。
「世の中には魔法剣を自己流で極めている人もいるし、月読式破壊魔剣術ももともとはそういう技術の中の一つだった。 そもそも論として魔法剣はもちろん、どのアーツも使う人の意思でどういうものなのか決まるというのなら、 そして、”月読式破壊魔剣術の何属性”とは考えないで闇属性のエーテルを月読式破壊魔剣術に応用するだけと思えば―― それを俺なりに実現してみただけです」
 そういうティレックスに対してシャナンが言った。
「……確かに、可能性は広がりますね!」
「ということで、ティレックスはいろんな力を月読式破壊魔剣術にするつもりである」
 とカスミは茶化してきた。
「ちょっ……いきなり変なプレッシャーかけるのやめてくれないかな、 まるでどこかの誰かさんみたいだ……身長は低いけれども――」

 あの魔獣を撃破した後、戦いは収束に向かっていた。 戦いの後に気が付いたのだけれども第1波と第2波は立て続けにやってきたらしく、 あの魔獣は第2波による存在だったようだ。
 それにしてもあの魔獣をやっとの思いで倒していたあの3人とは打って変わって、 リリアリスとアリエーラのグループはいずれも軽々と倒していたというのだから世の中は広い。
 そして、ティレックスは最後の最後に気が付いた、この場所――ルーティスで見せられたPVの舞台だった。