エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第2部 Rの名を冠する者 第3章 Rとの馴れ初め

第50節 セラフィック・ランド危機

 ティレックスはスレアと共にお城の東塔の屋上である6階から南西の空を眺めていた。
「しばらく動きがなさそうだな、全然移動している気配がない。どう出ると思う?」
 ティレックスは急に言われたが――
「聞いてみただけだ、今まであんなことはなかったからな……。 そもそも島が消えていること自体が異常だしな――。 でも、動かないっていうんだったら動かないままなんだろうな。 だが……それはそれでなんだか気味が悪いもんだな」
 そう言いながらスレアはその場を去って行った。 しばらくはこのままか――ティレックスはそう考えていた。 そもそもセラフィック・ランド上空から動いておらず、 クラウディアスに到達するまでにはだいたい半日ほどと目されている……結構かかるんじゃないか。 だが、魔物のスピード次第では3時間でも到達できていることを確認しているそうで、 今回のようなケースではもちろんそれぐらいのスピードで迫ってきているというわけである。 それでも3時間もかかるため、準備は十分にできるだろう。
 すると、お隣の様子がなんだかおかしい。 お隣は西側で、東塔の下からお城の屋根が続くと、その先にはテラスがあった、 そのテラスにはリリアリスとアリエーラが――
 ティレックスは慌てて塔を1階降り、そのままテラスめがけて全力で走ってきた。 だが、その時、妙にとてつもなく嫌な感じがしてきたティレックス―― なんというか、気持ち悪いというか吐き気がするというか、これは先日ルーティスでも……
 とにかく、ティレックスはそれでもテラスのほうへと全力で走って行った。 「リリアリスさんアリエーラさん! どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
 ティレックスは息を切らしながらそう言った。 リリアリスはその場でうずくまっていて、アリエーラの背中を右手で抑えていた。 アリエーラは気を失っていたが、 そんな彼女をリリアリスはゆっくりとした動作でアリエーラを抱え上げると、そのまま彼女をベンチの上に乗せた。
「あっ……アリエーラさん!? 大丈夫ですか!?」
 ティレックスは心配そうに言うが、リリアリスは――
「大丈夫よ、気を失っているだけ。 そんなことより、これからもっとでっかいのが来るよ――」
 えっ、どういうことだ!? ティレックスは困惑していた、そもそも何が来るって!?
「今みたいなやつが何故か知らないけどもう1度来る予感がするのよ、だから――」
 と、その時、リリアリスは南西の方向をさして言った。
「あれ!」
 なんと、あれだけいた魔物の群れが一瞬にして消え去った!
「なんだ!? どうなっている!?」
 スレアがその場にやってきて慌ててそう言った。 状況に異変を察してこの場所にやってきたようだった。だけど、この感じ――
「ラシル、気を付けろ、とてつもなくいやな予感がする――」
 スレアはそう言うが、ラシルはいなかった。 どうやら一緒に駆けつけてきたようだが彼はまだ到着していなかったようだ。
 すると、とてつもなく嫌な感じの波動みたいなものが、その場にいた者に襲い掛かってきた!
 ティレックスは寒気がして思わず身を擦った。スレアもその気配に身震いし、その場でうずくまっていた。 そして、リリアリスはベンチのに横たわっているアリエーラのベンチの前でしゃがみ込むと、 リリアリスもアリエーラの横で気を失った。
「この気配、まさか――」
 なんとか遅れてやってきたラシルは息切れしながら言った、間違いない――セラフィック・ランドが消滅する!

 その後、セラフィック・ランドの第7都市のあるコナンド島があると思しき場所までもが消滅してしまった。
「くっそー! どうなっているんだよ!」
 ティレックスは怒りに任せてそう叫んだ。
「ただの消滅事件というわけではなさそうね、間違いなく誰かが何かしているとみて間違いないかもしれない――」
 リリアリスが頭を押さえながらそう言った。
「リリアさん! アリエーラさん! 大丈夫ですか!? アリエーラさんは大丈夫なんですか!?」
 その場にラシルが慌ててやってくるとリリアリスと、横たわっていて意識を失っていたアリエーラに対してそう訊いた。
「平気よ、アリもこの変な波動のせいで気を失ってしまっただけ。 でも――この状況はたたき起こさないとダメね……。 アリ! 大丈夫!? ほら、気をしっかり!」
 リリアリスはアリエーラを擦っていた。
「うっ……リ……リアさん、ここは――」
「アリ、コナンド島が消えたみたいよ!」
「なっ、何ですって!? コエテク島が消えたばかりではないですか!?」
 実際にはどこが消えたかは確かめてはいないが、メディアでは既に情報は早く、消えたことが報じられていた。 そのことをリリアリスは確認すると、息をのんでいた。
 そして、あの魔物たちはどうなったのかは定かではないが、遠目からは似たような形の魔物の群れがやはり南西の上空に現れていた―― 今度こそ、こちらに向かっているようだ――

 あの場にいた者はフェラントの港の西側へとやってきた――あれ、ここはなんだか見覚えがあるような……ティレックスは思った。 すると、そこでは既に魔物の襲撃があり、クラウディアスの兵隊たちは既に誰か偉そうな人の指揮によって作戦を展開していた。
「もう一戦交えているのか! 魔物の到達も早いな!」
 ティレックスは大きな声で言った。周りが慌ただしく動いているためか、声が大きくないと相手に伝わらない。
「上空に現れたからと言って空飛ぶ敵ばかりとは限らないみたいよ! とにかく、油断しないでね!」
 リリアリスはティレックスにそう注意をした。もはや、魔物がどういうメカニズムで襲撃してくるのか理解不能だった。 距離的に考えても早いスピードとか、どうなっているんだろうか。 とはいえ、魔物が来るからにはなんとかしないといけない。
「アリ! レミーネアの援護をしてくれる? 私はエミーリアの援護をしに行ってくるから!」
「わかりました! リリアさんも気を付けてください!」
 エミーリアの援護!? まさか、女王陛下直々に魔物の相手を!? とティレックスは考えた。 そういえば手当てをしてもらったとき、彼女は回復魔法を使ってくれたっけ。 まあ、クラウディアスの王族なんだから、召喚魔法の使い手であることは間違いないわけなのだが。
「俺はどうすればいい!?」
 ティレックスはリリアリスに訊いた、危うくまた置いてけぼりを食うハメになるところだった。
「そうね――じゃあ、あんたはあの”シャナンおじ様”のところへ行ってきて!」
 リリアリスはそう言った。それに対してティレックスは驚いた。
「えっ、シャナンおじ様ってまさか――」

 ティレックスはその人のもとへと向かっていった、 クラウディアスの兵隊たちを指揮していた偉そうな人のもとへである。 ティレックスはその偉そうな人を二度見三度見、何度も見直していた。
「まっ、まさか――」
 ティレックスは恐る恐るその人物に話しかけた。
「おや? どうされましたか?」
「えっ!? いや――、リリアさんに言われて――」
 今度はひどく緊張していた。
「もしかして、あなたの御父上は”月読まず”では!?」
 相手も気が付いた。 そう言われるとティレックスは確信した、間違いない―― この人は先の大戦の英雄の一人であり、 その存在自体がほとんど伝説と化しているとも言われる”蒼眼のシャナン”その人だ!  しかも彼は自分の父親のライナスとは面識があるし、 自分が幼い頃にもシャナンとはあったことがあるハズだ、当時のことは全く覚えていないが。
「やはりそうですか! いやあ、大きくなられましたね、ティレックスさん!」
 まさか、自分のことを覚えていてもらえているとは――ティレックスはこの上なく嬉しかった。 そもそも初対面じゃなかったようだ。
「えっと、お、俺は――」
「いいですよ、そんなかしこまらなくたって。 そんなことより、今はこんなことをしている場合ではありません。 申し訳ないですが、さっそくご助力願えますか?」
 そんなこと言われるまでもない。 そもそも自分がシャナンさんの助太刀などできる立場なのだろうかとさえ思えるほどである。 とにかく、ティレックスは喜んで参戦することにした。

 ティレックスは意気込んで兵隊たちの最前列まで進み、 そして、ドレイクの……小型のドラゴンのような魔物の目前まで進撃、ドレイクの力強い体当たりの一撃を盾で受け流した。
「なんのこれしき!」
 シャナンがその様子を称賛していた。
「ティレックスさんもなかなかやりますね、本当に御父上によく似てらっしゃる。 私も負けてはいられませんね」
 シャナンは剣を取り出し、巧みな剣裁きでそのドレイクの注意を引き付けていた。
「小型の魔物は兵隊たちに任せ、大きいのは私たちで倒しましょう!」
 ティレックスに異存はなかった。
「喰らえ!」
 ティレックスは剣を目前に構え、その勢いでドレイクの身体を貫いた。 予想した以上にドレイクに突き刺さり、ティレックスは少し焦った。 それもそのはず、そういえばこの剣――
「ティレックス君はいい人カテゴリ認定。明日から、その剣を使って修行するよ。」
 リリアリスからもらった剣だった、今まで使っていた剣とは勝手が全く異なっていたのである。