ということで、ことの一部始終を先ほどの可愛らしい女性から聞いていたティレックス。
「そうか、そんなことが――」
「だから、てっきり助けに来てくれたのかと思ったの!」
俺が? ティレックスはどういうことかと思い、改めて訊いた。
「だって、お姉様と一緒に歩いていたじゃん!」
お姉様といえば――確かにリリアリスと一緒に来たけど。しかし――
「それに、強そうだし!」
強そうだって? まあ、一応戦争で活躍らしいことはしていたからね――そう言うと、彼女は驚いた。
「戦争!? まさか、ディスタードの人なの!?」
半分正解だけど、ちょっと違っていた。
「俺はアルディアスのルダトーラというところから来たんだ、ルダトーラは――わからないかな?」
海外の人にはわからなくても無理はない、アルディアスはアルディアスだ、
違いとしてはアルディアスの東部と西部で別れているけれども、その区別をしたところでわかることはないだろう。ところが――
「ルダトーラ! もしかして、ティレックスさんっていう人、知っていますか!?
今、ルダトーラのとるー……なんとかっていう団体のリーダーさんをやっている方なんですが――」
そんなまさか、こんな女の子にルダトーラを知られているとは。
しかもさらに、ティレックスを知っているとは。そうだな、とりあえず――
「ああ、もちろん知っているよ。ルダトーラ・トルーパーズの暫定団長をやっている人だ。
といっても、以前ほど活動といえる活動はしていないけどね」
ティレックスは意地が悪かった。
「あの、ティレックスさんに出会ったら伝えていただきたいことがあるのですが――」
伝えたい事? なんだろう?
「もしよろしければクラウディアスのためにお力を貸していただけないでしょうか、ということです!」
なんだなんだ、ことは深刻だな、クラウディアスのためって?
「えっと、リリアリスお姉様やリファリウスお兄様からうかがっているのですが、
そのティレックスという方は今はルダトーラの団長をやっていて、
それ以前は、ディスタードのマウナ軍を倒すために大活躍をされてらっしゃったと――」
大活躍とはまた大げさだな、そんなことはないが――でも役に立ったかと言われれば一応そのつもりではいる、
敵地にまで侵入できて一時的にその敵に監視までされたのだから――ティレックスはそう思っていた。
「あっ、すみません、そうですよね、こんなのダメですよね――」
ダメ? なんで?
「今、お手紙を――書状を書きますので少し待っていただけると――」
えっ、書状ってなんだ!?
「隠していてごめんなさい、そろそろ正体を明かします。私がエミーリア=クラウディアス257世です――」
するとティレックスはものすごく驚き、今の態度を改めるために慌てて背筋をピンと伸ばした。
しかし、その反動で後ろの城の柱に頭をぶつけてしまった。
ティレックスは頭をぶつけた個所を両手で抑え、そのまま悶えていた。
「えっ!? あっ、あの! 大丈夫ですか!?」
その様子を見て、今度は彼女が慌てていた。
「ちょっとちょっと、何やってんのよ。」
お城の食堂にはリリアリスとカスミ、そして恐らくアリエーラと思われるその方がやってきた。
ティレックスはエミーリアに手当てをしてもらっていた。
「あっ、お姉様! この人が頭をぶつけちゃって――今、手当てしているところなんです――」
すると――
「ったく、女王陛下の前で頭ぶつけるなんて、ティレックスも変な趣味しているわね。」
そんなわけないだろ――ティレックスは悶えながらもそう言われてイラっとしていた。
しかし、そのセリフで驚いたのがエミーリアだった、そういえば自己紹介がまだだった。
「ティレックス!? あなたがティレックスさんですか!?」
「……そうだよ」
ティレックスは痛みをこらえながらそう答えた。
「そうだったのですね! そうならそう言ってくださればよかったのにー!」
ここの女王陛下は普通にいい娘だった。年齢的にみんなからは”姫”の愛称で親しまれているらしい。
「ったく、どこへ消えたと思ったらこんなところで浮気なんかをしてたってわけね。」
あんたがさっさと行ってしまったせいだろうが! それに浮気なんかしてない! そもそも彼女とかいないからな!
……と、ティレックスは言いたかったけれども、ぶつけたところがまだ痛くて怒るような余裕などなかった。
少しずきずきするが、ティレックスはその場は改めて自己紹介をすることとなった。
場所は謁見の間ではなく、引き続きお城の食堂――
「そういうわけで、よろしくお願いします――」
ティレックスは女王陛下を前に緊張することなく話した。
エミーリアの人柄的にそこまで仰々しいような感じでもなくとにかく気さく、
手当してもらったこともあって、距離はそれなりに近くなっていたのである。
「よろしくお願いしますね! ティレックスさん!」
エミーリアはニコニコと笑顔で答えた。
「ねっ、エミーリアっていい娘でしょう? なかなかこんな女王陛下いないわよね。」
リリアリスはティレックスにそう言った。
いや――それを当人がいるところで言っていいのかなと思ったティレックス、
しかし、エミーリアは依然としてニコニコと笑顔のままであった。
でも、確かに王族とか貴族というよりは、庶民に近い印象だった。
「それは多分、お父様の影響かなぁ?」
エミーリアはそう答えた。先代のクラウディアス王も庶民派だったのか。
それからの段取りを手短に済ませると、ティレックスはクラウディアス城の3階にあるベランダから南西の空を眺めていた。
魔物の接近には時間がかかるのか、すぐにはやってこないようである。
その場にはラシルも一緒にいた。南西の空には魔物の群れがいるようだがそのままとどまっている感じだ、
一体どうしてあんな状況になっているのだろうか。
「気になるね――」
ラシルはそう言うとティレックスは訊いた。
「確か、アリヴァールやスクエアが消えたときも魔物が襲ってきたんだよな。
その時もこんな感じだったのか?」
すると、ラシルは首を横に振りながら答えた。
「スクエアの時は割と早かったかな、クラウディアスに魔物が到達したのは消滅してから半日ぐらいだったハズだよ、
”第2波”は1日遅れて来たけれども」
第2波ということは2回に分けて魔物が襲撃に来るらしい。
第1波は数が押し寄せてくるような感じでそこそこに大変らしいが、
第2波は数は少ない反面魔物自体が強めでなかなか大変だという。
極端な例で言うと、第1波でエクスフォスが襲ってきて、第2波でシェトランドが襲ってくる感じか。
「アリヴァールの時は第1波が来るまでに3日はかかったかな。
もちろん今回みたいに事前に魔物の一部が少しずつやってきたりしたことはあったね。」
そんなこともあるのか。ならば今回のようなことがあっても別に不思議ではないのか。
というか、そもそもフェニックシアやエンブリス、フェアリシアが消えたときはそもそも魔物が現れていないため、
魔物が来るかどうかというところから怪しいということでもあるようだ。
しかし、今回は確実に魔物が現れている、あいつらは今後どう出てくるのだろうか、検討もつかなかった。
「でも、なんとなくだけどリリアさんの言うように何者かの意思が働いているような印象はあるね。
今まで考えたことはなかったけど、今回のあの状況を考えるとそんな気がするんだ――」
ラシルはそう付け加えた、言われて見ればそれもそうかもしれない。
でなければ魔物があんなところでとどまっている理由はない、既に襲撃があってしかるべきだと思われる。
もちろん既に襲撃はあるが、あの数の魔物がいつまでも同じところにいるわけがない――そう考えれば妙な話である。