クラウディアス王国――この日の朝、王国ではとんでもない状況に見舞われていた。
「ほらエミリア、さっさと起きる。さっさと起きてさっさと行く。アリエーラお姉ちゃん待っている」
この国の主であるハズのエミーリアは、先ほどのカスミという人物に起こされていた。
「エミリア、今すぐ起きる!」
彼女は寝ているエミーリアの上に勢いよく飛び乗った。
「痛っ!」
「やっと起きた。さっさと朝御飯食べる。アリエーラお姉ちゃん待っている、早く行く」
アリエーラお姉ちゃんは人気があるようだ、
ルーティスでの一見を鑑みるになんとなくわかる気がするが、実際にどんな人物なのだろうか。
「ううっ……痛いよ、カスミちゃん……」
「自業自得」
それからしばらくして――
「エミーリア!」
「エミーリア不在。私受け持つ。何用?」
謁見の間に側近であるラシルという騎士が慌てやってきて、カスミに話をした。
ラシルはエミーリアの幼馴染らしい。
人は彼を”にわか”騎士団長と認識しているらしく、少し頼りないらしい。年齢が年齢だとそうかもしれない。
どうやらクラウディアスという国は、現状、年齢が低い連中がなんとかして国を動かしている状況らしい。
他の年齢層の高い重鎮たちはどうしたのだろうか、どうものっぴきならない事情があるようだが――
それにしても、何がどうなっているのかわからないことだらけである。
「カスミさん! それなら話が早いです! 南西の方角から怪鳥が!」
セラフィック・ランドの方向から魔物がきているようだ、コエテク島消失前に、もう魔の手が来ているというのか?
「今どこ?」
「はい! 実は既に目前にまで迫ってきており、今ぐらいですと上陸しているかもしれません! 相当に大きな型の魔物です!」
「なる。そこ、私行く。ラシル、エミーリアとアリエーラお姉ちゃんに直接報告する。アクアレアに早く行く」
「わかりました!」
ラシルはお城から東の方にあるアクアレアに足早に向かった。
そして、カスミはフェラントへと向かうべく城を出ようとする前に東側廊下のほうへと方向転換した――
カスミが向かっていた場所はお城の横庭である。
広い空間があり、騎士兵士たちが日夜修練に励んでいるスペースでもある。
しかし、今は有事対応している事もあり、城の番兵以外では残るものはいない。
「カスミさん? 何かありましたか?」
そこにいた何人かの兵隊たちがそう語り掛けると、彼女は頷いた。
「これから相手する敵、相当に大きい。今試すチャンス」
すると、別の兵士たちが庭の奥からとても大きなものを運んできていた。
「カスミさん! 天地二分(てんちわかち)ですかね! それならここに!」
それに対してカスミは反応、目の前に差し出されると、それを手に取った。
「御苦労。感謝」
しかし、その大きなものはまさかの刀であり、まさかのリリアリス製だった。
そしてその大きさもまさかのまさかでカスミの身長の2倍ほどはあり、薄刃の大きい刀だった、本当に彼女が使うのか!?
そして、彼女は早々に城を後にした。その後ろで兵士たちが話し合っていた。
「どう見ても年の功は6つぐらいの娘にしか見えないが――」
「俺もよくわかんねえんだがそういう話らしいぞ。
とにかく、エミーリア様が幼少の頃に召喚した護衛召喚獣様なんだとさ」
「護衛召喚獣? 普通の召喚獣とは違うのか?」
「そう言われてもなぁ――何が違うんだろうなぁ? ただ、あの娘の腕は確からしいぞ」
なるほど、彼女は護衛召喚獣という立場の幻獣なのか。
カスミはフェラントに着いた。
「ヴァドス様! カスミ様が到着いたしました!」
ヴァドスはラシルよりもさらに歳が1つ上で、弁護士をやっているらしい。
ただ、弁護士のくせしてあまり頭がよくないと揶揄われている――
なんだか仲のいい、仲間みたいな間柄のようである。
「おっ、来てくれたな!」
「両断生成機登場」
「あれ? ラシルは?」
「アクアレア。電波の調子悪いからアリエーラお姉ちゃんとエミーリア直接呼び行かせた」
フェラントの港では騎士兵士たちがぎっしりと詰めかけて魔物に対して警戒していた。
「あそこです!」
魔物は我が物顔で港の上を周遊していた。
そいつは近くまで行くとクラウディアスのお城の大きさにも引けを取らないほどのサイズだった。
そう聞くと誰もが”フェルナス”と呼ばれる魔物の大型種と思うのだが、そんなに大きなサイズの種までいるのか。
「カスミ! あいつを頼むぜ!」
「しゃあない、やってやるか」
このセリフは――リリアリスに影響されているようである。
ルーティスの話でも触れた通り、リリアリスは女性受けがいいけど、
だからなのか、カスミはその影響をフルに受けているようだ。
「斬る」
すると、カスミは別の刀――一般的な長さの刀を取り出すと同時に空を切り裂くと、
そのまま怪鳥まで切り裂いた!
それに反応した怪鳥はカスミの下へと一直線!
「来たぞ! 総員、退避!」
騎士兵士たちはその場から離れて警戒を続けていた。
カスミは普通の長さの刀を納刀すると、その場でしゃがんで目を瞑り、やつが来るのを待っていた。
今度は大きな刀のほうに手をかけていて、
流石に納刀している状態から抜刀などできないため、最初から抜身の状態である。
彼女のもとへ敵がさらに近づくとその時は来た、
彼女は魔物のいる方向に顔を向け、妖魔の眼を見開いた!
その眼から発せられる衝撃はそのまま魔物の身体を貫いた!
「殺す」
妖魔の種類によって効力は異なるようだが、動きを破壊するのが彼女の得意技らしい、
動きを破壊するということは、場合によっては命までをも破壊することさえ可能なようだ。
しかし、今回は相手が大きいこともあり、いずれも破壊するに至らず。
だが、相手の突進スピードはわずかに落ちていたようで、カスミはタイミングを図っていた。
そして、至近距離にまで到達した魔物はそのまま彼女の居合いによって両断され、呆気なく絶命した。
「魔物撃破。アリエーラお姉ちゃんに即報告厳守」
人は見かけによらないとは言うがまさにこのことである。
カスミはその見た目とは裏腹にこれほどの能力の持ち主のである。