エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第2部 Rの名を冠する者 第3章 Rとの馴れ初め

第47節 召喚王国クラウディアス

 しかし、どうして魔物はわざわざクラウディアスへ? 完全に海の向こうではないか――。 セラフィック・ランド上空で現れたというのなら他のセラフィック・ランドを―― 例えばトライスやレビフィブなどやその近くのルーティスあたりを襲いそうなものだけれども、 魔物の大半はそう言った場所ではなく、何故か海の向こうの大陸であるクラウディアスを襲ってくる。
 さっきも言ったように、クラウディアスには”幻界碑石”と呼ばれるものがおいてあり、 これの影響で導かれるようにやってくるというが何故導かれるようにやってくるのか、それがわかっていない。

 リリアリスは慌てて船に乗ると、出航準備を整えていた。 彼女の後を必死で追うティレックス、妙に足が速い彼女……
「気を付けるんだ、さっきちらっとテレビを見たんだけど、 襲来してくる魔物は以前よりも強いかもしれないって言っていたぞ!」
 早速報道があったようで、ナキルはそれを伝えに見送りに来てくれた。 津波の心配はないがやや波が激しくなっていて、大声で話していた。 既にセラフィック・ランドのどこかの都市ではわずかながら魔物の襲撃があったようだが、 そのほとんどはクラウディアスにやってくる――マズイな。
「アリエーラさんによろしく伝えておいてくれ!」
「わかった! 伝えておく! シオラにもよろしく伝えておいてね!」
「もちろん! 約束しよう!」
 ナキルとリリアリス、互いに大声で話をし、リリアリスとティレックスは出航を果たした。 そして、ナキルのほうも早々にその場を立ち去っていた、ルーティスにも少なからず流れ弾がやってくるからだ。 流れ弾ということは、魔物はクラウディアスに限らず、手当たり次第に襲撃してくるという感じではあるようだ。

 今度の航海では、リリアリスの口数は少なかったというかほとんどなかった。しかし――
「そういや修行のこと、全然相手にしている暇がなかったね――ごめんね、いろいろと話したいことがあったのに。」
 いや、いいんだ――ティレックスはそう言った。いいんだけど、どうしてそこまで?
「だから言ってるでしょ、ティレックス君はいい人だからって。 それに私の義理の弟なんだから、それぐらいは当然でしょ。」
 そうだ、そういえばどうして義理の弟なんだ?
「そりゃあそうでしょうよ? 私がユーシェリアの面倒を見たんだから、いわばユーシェリアのお姉さんよね。 あんたはそんなユーシェリアと一緒になるんだから、つまり私にとっては義理の弟ってことになるでしょ?」
 だから! ユーシィと一緒になるとか言ってないから! ティレックスは頭を抱えていた。 とはいえ、ティレックスに対するリリアリスの扱いは既にそうなっているらしく、特別待遇だった。
「だから何か困ったことがあったらお姉さんに言いなさいよ?」
 とりあえず、「はい」とだけ答えておこうか、空返事だが。これはどう否定してもダメそうである。

 ルーティスから北北東へ向けて進路をとっているが、これまでの船旅のスピードと違ってものすごい飛ばしていた。 これまではまだ普通の船のスピード――波などの海面の抵抗などもあるため、 小さな船ほどスピードは出ないものだが、体感的に船の大きさ的にこれは最高速度だというのは何となくわかる、 水上バイクのように海に乗り出していくあれを想像するといい――今までの船のスピードはそれより若干緩くしていたのだが、 今回のは明らかにそれよりも早く、普通ならちょっとした波に乗り上げ、降りた反動で海面にたたきつけられるような感じである。 さらには波間に入り込んで海の水を思いっきり被ってしまうこともある、そんなことがあったっておかしくはないスピードなのだが、 特に船体が上下するようなことはなく、超速度を維持していた、どうなっているんだろう――。
 とにかくしばらく航海していると、次第に大きめの大陸が見えてきた。 あれがクラウディアス大陸で、大陸の中央には大きな城下町があり、そしてその奥にはクラウディアス城がそびえたっているという。 しかしそのお城は樹木とブロックとが絡み合っていて、どこかしらメルヘンチックな見た目となっているというが――
 2人はそんな国にやってきたのだ。
「あれがフェラントの港か――」
 先ほども触れたが、フェラント産のサーモンで有名なフェラントとは、クラウディアスの南に位置している港のことである。 クラウディアスの港としては主要な拠点だけれども、2人はそこから上陸することになる。 船はリリアリスの操舵で港湾に近づくにつれ徐々にスピードを落としていくと、波止場の特定の個所に吸い込まれるかのように停泊することとなった。
「お姉ちゃん!」
 すると、誰かがそう言いながらこちらに向かって走ってきた――いや、走るというより早歩き的な動作に見えるが―― その人はなんとなく幼い感じの見た目で、白衣(はくえ)に千早(ちはや)をまとっていた……巫女さん?
「カスミ! どうだったの!?」
 どうだったというのは――恐らく、既にクラウディアスに魔物が接近したことだろう、そういう話である。
「既に1匹大きいの来た。前に比べて明らかに強い。 でもまだ空にたくさんいる。とりあえずみんな避難してる。リリアリスお姉ちゃんも来る」
「うん、わかった!」
 なんだかよくわからないけれども、とりあえず促されるままについていくことにしたティレックス。 遥か遠方の上空には魔物が群れを成して押し寄せており、 港では大勢のクラウディアスの兵隊が襲撃に備えていろいろと準備をしていた。 魔物の数は数え切れるはずもなく、結構大変な数だった――

 古めかしく、なんとなく懐かしい感じのする白いブロックと緑が織りなす建物の町、フェラント。 そんな街並みの見た目に対して感傷に浸っている暇もなく、早々に町を北に出てクラウディアス街道方面へ。 その街道の脇にあるのはクラウディアスの周囲を覆う森林帯のみである。 このまままっすぐ北へと行けば、クラウディアス大草原の中央に構えているクラウディアスの城下町へとたどり着く。 クラウディアスの街並みも往々にしてフェラントと似たような感じではあるが、緑の濃度はクラウディアスのほうが濃く、 お城が樹木とブロックとが絡み合うメルヘンチックな見た目となっているということもあってか、 そういった建物もちらほらと存在する――まさに不思議王国である。
 さらに大草原の真ん中に佇んでいるだけの町というだけあって城塞というのがなく、 大平原の周囲を森林が囲っている、森林が城壁の代わりなのだろうか?  いや、召喚王国というぐらいだから召喚する幻獣こそが城壁なのだろうな。
 そして、クラウディアス城下をまっすぐ突き進むと、お城の入り口が見えた。 少々しつこいようだが天然の樹木をそのまま使っているというのが如何にもクラウディアスらしい、まさにメルヘンチックと呼ぶにふさわしい光景である。
 お城の内装も樹木があちこちに表面化していた、なんだか不思議な空間だった。
「アリはいつものところ?」
 城に入るや否や、リリアリスはアリエーラのことを訊ねていた。噂のアリエーラさんはここにいるのか。
「そう。一緒に行く」
「そうね!」
 すると、リリアリスはおもむろにその子――カスミを抱きかかえ、いきなり走り出した!
 えっ、ちょっと! 俺はどうすればいいんだよ! ティレックスは取り残されてしまった。

 見知らぬ地で取り残されたティレックス、リリアリスを見失い、どこへ行けばいいのかわからなくなり、途方に暮れていた。 2階に行ったところまではわかるが、どこへ行ったのだろう――
「あれ? あなたは誰? 何してるの~?」
 なんだかかわいらしい感じの女子がティレックスに話しかけてきた。何しているといわれると、困った――
「どこから来たの?」
 さて、どうしようか。ただただ迷子になっているだけというのもな。 せっかくだからこの国のことをいろいろと訊いておこうかな。 年齢的にはティレックスよりも相手のほうが年下なのは間違いなさそうだけどそんなに離れているわけでもなさそうだし、 話ぐらいはしてみるか――そう思って話をすることにした。