シオラが話したい不安な内容――それは――
「そういえばリリアさんって片頭痛持ちでしたっけ?」
と言うと、リリアリスは頷いた。
「そうよ。筋金入りの偏頭痛持ちよ。だけど最近ちょっと調子が悪くてね、なんていうか――」
すると、
「ん、調子が悪いといえば最近たまーに突然倒れこんでしまう生徒を見かけるね」
と、ナキルが答えた。さらに続けた。
「私も耳鳴りがして調子がおかしくなることがあるんだよ。ここ1か月近くかな?」
「私もよ。よくわからないけれども半年以上は変な頭痛に悩まされているわね。」
リリアリスの様子は異常だった、医者に行ったほうがいいのでは?
「私もです。ここ1か月は調子が出ないというか、酷いときには学校に出てこれない日もあります」
シオラはさらに話を続けた。
「というより、なんていうかこの状況……あの時の状況によく似ているんです――」
そう言うとリリアリスも――
「そうよこの状況、あの時の状況によく似ているわ――」
そうだ、あの時の状況によく似ているな――ティレックスもそう思った、ナキルも――
「確かにこの状況はまさにアレに似ているな――」
その状況、具体的な内容となるとそれぞれで違う症状だが、その原因となる出来事については全員で一致していた。
それはこのルーティスよりもさらに西の方角にある地方で起こっている大変な出来事の話である。
最初にその話をしたのはリリアリスだった、恐らくそれこそがこの一連の出来事のすべての始まりであるからだ。
「これは……フェニックシアが消えた時の感覚によく似ているわ。」
やっぱりそうか、セラフィック・ランドの第1都市、フェニックシアだった。そしてシオラも――
「ええ、私もです。私はフェアリシアにいたのでそこでのことを思い出しました」
セラフィック・ランドの第4都市であるフェアリシアも既に消滅していた。シオラはフェアリシアが消滅当時、そこにいたという。
「俺はアリヴァールが消えた時の事を思い出した、セラフィックランドの第5都市だよな」
ティレックスはそう言った。あの時のことはよく覚えている、ニュースですごく話題になった話――うん、待てよ!? まさか――
「いつもあちこちにいた私だけど、フェニックシア、エンブリス、スクエア、フェアリシア、そしてアリヴァールと、
それぞれが消えた当時はいつもこのルーティスにいたんだよ」
ナキルはセラフィック・ランド側に不穏な空気を察し、その際はいつもルーティスで様子を見ていたという。
そして消えたのはナキルの言った都市の順……セラフィック・ランドの第1都市、第2都市、第3都市、第4都市、第5都市……
「すぐに気が付くとは思うけど、セラフィック・ランドは伝承に残されている都市が出来上がった順番に消えているようだね」
と、ナキルは言った。つまり、この何とも言い知れぬこの嫌な感覚、
次期にセラフィック・ランドの第6都市となるコエテクの都のあるコエテク島が消えてしまう予兆ということか!?
しかし、セラフィック・ランドの第6都市が消えてしまう可能性がわかっても、
それに対してどうにか抑える手立てが存在していないことが問題だった。
それにセラフィック・ランドが消えてしまう理由もわかっていない、これは自然現象なのだろうか? それとも――一体どうしてなんだろうか。
「これについては、学会や噂などでいろいろと原因は考えられてはいるが、
実際の原因についてはどれひとつとしてはっきりしていないんだ。
最初にフェニックシアがなくなった際は大陸を浮遊させるための動力が失われたためという見方が強かったけれども、
そもそもフェニックシアが浮遊しているメカニズムでさえ判明しておらず、
浮遊させるための動力が失われたというのも憶測でしかなかったんだ。
現に浮遊させるための動力が失われたとして、その場合は水没してその残骸が海の中にあってもいいと思うんだけど、
残念ながらフェニックシアの土地は海の中に消えたという感じではなく、何一つ残らなかったみたいなんだ――」
と、ナキルは言う、つまり、大地は海に沈んだのではなく、文字通り消えてなくなったということである。
それ自体は驚くべきことと言えるのだが、次のセラフィック・ランドの第2都市にして聖殿都市と言われるエンブリアが文字通り消滅し、
第3都市のスクエアも消えたことで、これはセラフィック・ランドを脅かす驚異だなどと言われるようになっていった。
とはいえ、フェニックシアが消えてから次のエンブリアが消えるまでの間、8年経っている。
脅威は脅威だけれどもフェニックシアが消えたとしても次のエンブリアが消えるということは誰が予想できただろうか、
そして、その次も消えるということは誰が予想できたのだろうか、脅威は脅威だが、世界的な大脅威と呼べるレベルではなかった。
だが、しかし……エンブリアが消えてから翌年にスクエアが消え、その半年後にフェアリシアが消え、
さらに翌年にはアリヴァールが消え、第1都市から順番に消えて行くことがわかっていくと、
民衆の間でも脅威として確実に認識されるようになっていった。
それゆえ今やセラフィック・ランドの人口は減少傾向にあり、特に次の標的になるであろうコエテク島は特に過疎状態にあるという――
コエテク島はもともと田舎の島だけれども。
そして、アリヴァール島が消えてから3年も経っている今、次のコエテク島が消えてしまう予兆が訪れる事になる。
まだ決まっているわけではないけれども、この予兆からするとまたあの時のようなことが起きるのは明白である。
そして消えるとしたら、やはりコエテク島になるのだろうか。
するとその時! ルーティスに地震が襲い掛かった!
「まっ、まさか! この揺れは!」
地震はそれほど大きくなく、地響きに近いそれなのだが、流石に誰もが驚いたことだろう。
そしてここにいた4人は誰1人として身動きが取れなかった、特に――
「リリアリスさん! シオラさん! 大丈夫ですか!?」
ナキルはそう呼びかけた。
2人はソファの上にそれぞれ仲良く隣同士に座っていたのだが、
最初にリリアリスが気を失いかけたところでぐっとこらえると、
シオラが自分とは反対側の、ソファから外れたところに向かって倒れそうになっていたため、とっさにシオラの身を左腕で抱え込むと、
リリアリスは右腕を自分の顔の上に乗せつつソファの背もたれに向かって仰向けに倒れこみ、気を失っていた……これぞまさに女騎士――
「ナキルさん、これは――」
ティレックスはナキルに訊いた。
「セラフィック・ランドの都市が消える際、ルーティスではこんな感じの地震が起こるんだ――」
彼がそう言うとティレックスはおもむろに部屋を飛び出し、とにかく無我夢中で研究所の屋上まで疾走した。
屋上まで何とか駆け上がったティレックスはそこの手すりに手をかけつつ、身を乗り出すようにして西の海を眺めていた。
「あれは一体――」
西の海の上空には何故か暗雲が立ち込めていた、邪悪な者の意思が働いていると言えばいいのか、
そういう感じの表現があっているような状況だった。
「わからないけどフェニックシアやフェアリシア、そしてエンブリスやスクエアが消えた時は同じような現象は見られなかった。
アリヴァールが消えた時にはあの暗雲が現れて、そこから多くの魔物が襲ってくるようになったのよ――」
と、言ったのは、先ほど部屋で気絶をしていたはずのリリアリスだった。
彼女はその場で何かをがっしりとつかんだまま佇んでいた、大丈夫だろうか!?
「私は大丈夫よ、とりあえず――なんとか……。
とにかく、こうしちゃいられない、急いで……クラウディアスに向かわなくちゃ――」
クラウディアス――そうか、幻界碑石の影響で敵が襲ってくるのか!
しかし、この状態のリリアリスを激戦地へ向かわせるわけには――
「いいのよ、行くのよ、こんなところで気を失っているわけにはいかないのよ――」
そんな――この人、大丈夫か!?