話を脱線することになるけれども、魔法剣の型、つまり発動タイプについての説明をしておこう。
まずはしばしば対比に使われる魔法剣の初歩の初歩である”ダイレクト”と”エンチャント”から。
”ダイレクト”、”火炎斬り”みたいなものをイメージしてくれるとわかりやすいけれども、
攻撃技に炎などの魔法を一時的に追加して攻撃するようなタイプのものである。
威力的には魔法の打撃と共に効率よく大打撃が入るというだけでなく、
シンプルで使いやすく、武技も魔法も一通り使える人であれば難なく使うことができるということもあって、
使う人が最も多いタイプともいえる。
特に武技の使い方は得意だが、魔法のほうは使えなくもないがイマイチという人には使い手が多い。
反面、”エンチャント”となると先ほどの説明のとおり、
炎などの魔法の力を付与して”火炎斬り”ではなく”炎の剣”を完成させる技術である。
魔法の力さえ”もの”に対して”持続的に付与が可能”であればこれは成立する。
つまり”ダイレクト”が一時的かつ瞬発的に力を付与するものであるのに対し、
”エンチャント”が永続的に効果を与えるものとなる。
その代わり、瞬発的に力を付与する”ダイレクト”に比べれば威力は控えめだけれども、
そもそもが”炎の剣”で攻撃する状態となるため、
毎回炎の魔法剣で攻撃したいということなら”エンチャント”のほうが遥かに効率がよく、
かつ長期的に見れば”エンチャント”のほうが総じて威力が高いことになる。
ただし、”エンチャント”は魔法剣の初~中等教育程度の知識が必要なので、
極意としてはまだまだ簡単な部類ではあるけれども、それでもハードルは若干高い。
続いて、魔法剣としては高度な”スプラッシュ”と”アドバンスト”について。
それぞれ”ダイレクト”と”エンチャント”の発展形でしかないため、
基礎としてそれぞれを修得している必要があり、より魔法剣についての高度な技術と知識が要求される極意である。
”スプラッシュ”は”ダイレクト”の発展形で、火炎斬りというよりは火炎放射そのもので斬るといったようなところだろうか、
つまり炎をまとった攻撃技というよりは炎そのものによる攻撃という感じであり、案外魔法に近いものを感じる極意である。
そのため使い手に対する負担は重なるけれども、それだけにより強力な技と言える。
対して”エンチャント”の発展形となる”アドバンスト”は、
”炎の剣”というより”刀身自体が炎でできている炎の剣”という感じになっていて、やっぱりより強い。
もちろん、それをするぐらいだから、”エンチャント”に比べると使い手に負荷がかかるのは必至である。
と、ここまでは高校ぐらいまではマジメに通っていればなんとか習えるような技術ではある。
”スプラッシュ”と”アドバンスト”を習う”応用魔法剣術”クラスは専門分野になるので、
だいたいどの学校でも選択科目ぐらいの扱いで学ぶようなレベルにはなるけれども、ティレックスは一応修得していた。
それ以外については修得がハードで、実戦で魔法剣を使いこなしているようなレベルでないと修得が難しいものである。
どの極意についても大体似たようなことが言えると思うけれども、魔法剣術に関しては特にハードルは高いと言われている。
その大きな要因として、魔法も武技も両方相応に鍛えており、かつ高度な使い手を要求され、
しかもそれに加えて”魔法剣術”という一つのカテゴリーの技術を会得する必要があるからである。
”リベレーション”というのは”エンチャント”や”アドバンスト”によって得物に秘められている魔法の力を解放し、
相手に向かって壮絶な力を発揮する極意である。
一時的に魔法の力を付与して攻撃を発する”ダイレクト”や”アドバンスト”とはある意味、そう変わらぬ発動形態にも見えるけれども、
”エンチャント”や”アドバンスト”の発動形態からの行使となるため、ちょっと違っている。
”ダイレクト”系は魔法の力を乗せて叩きつけるのだが、”エンチャント”系は一定量の魔力を集めて武器に力を付与してから叩くという工程のため、
”リベレーション”にはその一定量集めた魔力の分が威力に計上されるのである、だから強いのである。
ただ、御覧の通り、”リベレーション”を行うことを主目的にする場合は使い手に対する負担と手間と時間が結構かかっているので、
”リベレーション”をメインにするのはあまり得策とは言えない。
さらには”リベレーション”を行う技術自体がより高度ということもあってか、使い手や使われるケースもそんなに多くない。
そのため、”エンチャント”系使用の事後処理は、力をそのまま収束させて魔法剣の効果を消滅させてしまう”リリース”という行為が行われるのが普通である。
そして、リリアリスやリファリウスが使うような”アブソープション”や、
ティレックスも扱う”月読式破壊魔剣術”の発動形態である”ディストラクション”も合わせて説明しておく。
”アブソープション”というのは吸収という意味で、
その名が示す通り、相手の魔法の力を奪い取って自分の魔法剣の力としてしまう技術、所謂”吸収魔法剣”と呼ばれる。
実際の生の魔法から直接力を奪うだけあってかなり難易度の高い極意であることは容易に想像がつく。
もちろん、受けた魔法の威力が強いほど力が得られるため、威力も高くなりやすい反面リスクも大きく、それだけに大変高度な技といえる。
破壊魔剣とも呼ばれる”ディストラクション”は”リベレーション”を応用したもので、
得物に秘められている魔法の力を増幅させながらさらに絶大な威力を発揮する極意となる。
ここまでくるともう技術云々よりも、使い手自身にそれ相応の力が要求されるという極意となるので、
”月読式破壊魔剣術”を扱った後のティレックスは心身ともにボロボロになるのである。
こんな極意、まともに扱うにはどうしたらいいのだろうか。
脱線もここまでにして話を戻そう。
要するに、アリエーラさんはどうしたのかというと、
その”エンチャント”系の魔法剣を使用する媒体は人体――自分の身体にしたということだ。
普通の魔法でそれをやることさえもかなり危険な技だというのに。
しかし、今回アリエーラさんがPVで使っていた魔法が普通の魔法ではなく召喚魔法ということは、
もはや問題かどうかというところにたどり着く前に、可能か不可能かの議論になるレベルである。
こういう話になると魔法か魔法剣かというより、まずは召喚魔法の専門家の興味を引くことになるのは必然である。
そこで、ナキル氏の投稿内容によるやり取りとなる。
「うーん、幻獣を魔法剣に使うことができるのはわかりましたが、
その媒体を得物ではなく、人体にするというのは……どうなんでしょうかね?
もちろん、幻獣を得物に宿すということ自体にも抵抗はあります、
実際に戦いに行使するのに必要な得物が破損してしまう恐れがありますからね」
先ほどの話の通り、”エンチャント”派の人なら召喚魔法剣の極意の状態はある程度わかっているハズである。
幻獣の精神そのものが得物に宿っているという状態、
その精神に宿している得物自身が耐えられるかということが課題となる。
それは確かに、戦線を維持するものにしてみればあまりよろしくない話であるが、
お姉さんの得物はわざわざ自作しているというだけのことはあるためか、それに耐えられるように設計してあるようだ。
普段は目立たないが実戦では割とちょくちょく使っているようで、召喚から”エンチャント”? ”アドバンスト”?
どちらでもいいが、幻獣を宿すところまで瞬時に完了しているようで、その得物を振るって対峙した敵をぶっ飛ばしている。
実際、アンジェラがマウナ戦績の際にもそれを行使していたようだ。
しかし、宿す媒体が人体となると話は深刻で、つまりアリエーラさんの身が危ないということになる――本当に大丈夫なのだろうか?
「確かにアリエーラさん大丈夫なのって話になるわね。
でも、それは常人が使った場合の話となるわけで、
アリほど高度で美しい使い手になると、そんな問題は結構簡単にクリアーしてしまうってわけよ。」
……できてしまっていて、
それこそこのお姉さんの召喚魔法剣よろしく普段から平気に使いこなしているにも関わらず、
それでも特に問題が起きていないということならば、それ以上疑問を投げかけても仕方がなさそうである。
「確かにこれはみんなにはインパクトが大きかったかもね。
正直、この講義でも紹介するかどうかは迷ったほどよ――魔法剣の範疇を超えているような気がするから。
でも、これでも一応私が召喚魔法剣やろうって決めたことと同時に彼女が考えたこともであるから、
まさに魔法剣がきっかけだったということでもあるわけで、今回は魔法剣の一例として紹介する運びとなったわけよ、彼女からも了承を得ているしね。
当然、それだけの極意だから不用意に扱えば命を落とすことにもつながりかねないし、そもそも使うことすらままならないからね。
そう言ったこともあって、これは一応”禁断召喚魔法”という名目の技に命名してみたのよ。
でもね、これだけはわかってほしいのよ、誰だって頑張ればできるってことをね!
それが”召喚魔法剣”なのか”禁断召喚魔法”なのか、それとも別の何かなのか、それは私にはわからないけれども――
でも、みんなには何かしらの可能性が秘められているのだから、それを忘れないでほしいわね!」
話は簡単だが、そんな感じの内容で講義は幕を下ろした――講義の内容とは裏腹に締めの内容はちゃんとしまったものだった。
しかし、本当に誰だって頑張ればできるレベルの事なのだろうか、それだけはどうしても疑問である。