エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第2部 Rの名を冠する者 第3章 Rとの馴れ初め

第43節 エンチャント理論

 中休みの後、2本目のPVが流された。
 こちらはBGMは最初は無音、画面も真っ暗な中から始まる。 そんな中、先ほどのアリエーラさんの写真のシルエットにも似ているようなそれだけが映像の右側にぼんやりと浮き出ると、 神聖な感じのBGMが始まる共に文字列が表示された「アリエーラさん、お淑やかなお姫様みたいですね!」「アリエーラさんって本当に素敵ですよね!」 「アリエーラさーん! 付き合ってくださーい!」「アリエーラさん、大丈夫ですよ、俺が全部やってあげますから」 「ここはお嬢様の出る幕じゃねえ。ケガしないうちにさっさと帰んな」
 様々な文字列が飛び交う中、画面は暗転すると文字列が一行「違う、私はそんなんじゃない――」、 そして次に「私は、足手まといになんてなりたくないから――」
 暗い画面から展開すると舞台はどこか平原の上、目を瞑ったままのアリエーラさんの顔さんを画面の真ん中に、 堂々と1つの文字列が大きく表示される「私の力、見せて差し上げます!」
 彼女は祈りをささげると、リリアリスの時と同じように口の動きに合わせて文字列が表示されていた「出でよ、”シュタラウト”――」、 効果音だけが響く中、召喚魔法が発動されると有機的な天使の翼を生やした鳥のような機械生物が現れる――かと思いきや、 そのまま巨大な塊がどこかへ消え去ってしまった。
 そして、画面はアリエーラさんの顔をアップに映すと、彼女は鋭い眼差しを見開いた「行きます!」
 それと同時に、神聖な感じを漂わせつつもどこか寂し気、だが、なんだか非常に前向きな感じのBGMへと展開し、PVの流れも一気に加速する。
 それからはお姉さんのPVの時と同様に魔物がおり、アリエーラさんはリリアリスの使う得物に似たような剣と取り出すと、 各々が持っていたアリエーラさんのイメージからは想像もつかないような剣技を繰り出し、魔物を片っ端から打ち滅ぼしていった。
 あくまでPVだからか? いやしかし、アリエーラさんの技も作り物ではなく本物である。 動作だけ差し替えの可能性もあるが、とにかく各人が持っていたアリエーラさんのイメージとはギャップが大きく、誰もがそのPVを見て唖然としていた。
 そして、アリエーラの背後からリリアリスが現れると彼女はアリエーラさんに魔法をかけた。
「アリ! 援護よ!」
 するとアリエーラさんは強烈な魔法剣の技を振るい、前方にいる魔物を一直線になぎ倒した。 そこへリリアリスが切り込んで複数の魔物をいなすと「アリ、後はお願い!」
 BGMもクライマックスに差し掛かると画面は暗転、 祈りをささげて目を瞑ったアリエーラさんの顔をアップに画面は展開すると、 こちらでもゴゴゴゴゴ……というような音と同時に「悪しき者たちよ、滅びなさい……神技”セラフィック・ストリーム”――」、 そして彼女は眼を見開くと、前方にいるすべての魔物を聖なる力で圧倒し、一番奥にいる巨獣もろともまとめて浄化した。
 そしてその後、広い平原に無数の天使の翼の羽根のようなものだけが舞い降りていた。
 画面は変わるとアリエーラさんとリリアリスとが仲良くハイタッチをし、 そのまま二人は仲良くを手をつなぎ、そのまま平原の奥のほうへと歩いていった――
 最後のやり取りはお約束なのだろうか。 それに題材は魔法剣関係だったような気がするが、やっぱり別のものになっている――
 そもそも、アリエーラさんが放った召喚魔法はどうなったのだろうか? それが一切わからない。
「というわけで、これがみなさん待望の新作アリエーラ様による浄化セッションよ。 ただ、多分何がどうなったのかわからない人ばかりかもね。」
 わからん。説明求む。

 お姉さんのはわかる、少なくとも得物に宿っているんだ、それは間違いない。 だけどアリエーラさんのはどう見ても得物に宿っているようには見えない。 ただ、当然ながらお姉さんはそういう質問が来るのは想定していたようだ。
「確かに、さっき見せた召喚魔法剣の例だけでは一見説明できそうにないけどね。 でも、実は彼女のも召喚魔法剣の極意を使ったものであり、対して変わりはしないのよ。」
 すると、先ほどお姉さんが指摘した人物、”召喚名手”の異名を持つ人から何かメッセージがあったようで、 お姉さんは手元の端末でそれをチェックすると、何かを入力して回答しているようだった。
 それから30秒後――お姉さんは机の中に置いてあったマイクを持ち出すと、その人物へと手渡した。
「あー、あーあー。えっと、みなさんこんにちわ。 ここにいる何人かはご存じかと思いますが、ナキルと申します、はい。 先の大戦にて、光栄にも”召喚名手”の名で呼ばれているものでございます。 こんなに大きな講堂でお話しすることはこれまでなかったので少々緊張しておりますが、 ”召喚名手”の名に恥じぬようお話を続けさせていただければと思います――」
 だが、そう言う割にはナキルは淡々としっかりと話をすると、さらに続けた。
「私が今ほどチャットを経由してリリアリス女史にお伝えした内容について、 彼女より”召喚名手”の口から是非お話をしてほしいという申し出を頂いたため、 貴重なお時間を頂き、こうしてお話をさせていただくことにしました。 そのためみなさんしばらくの間、お耳を拝借いただければと存じます」
 と言うと、お姉さんが変な突っ込みを入れた。
「あ、そう。じゃあとりあえず貸しとくから後でちゃんと返してよね。」
 再び笑いが。それにしてもこのお姉さんの講義、こんな感じなのか。 こんな講義だったら、ティレックスは良くも悪くももっと勉強に身を入れていたのかもしれないと思った。

 ナキル氏も笑いながら、話を続けた。
「あっははははは、それではお返しすることを条件に。 私が思うに、恐らく魔法剣の元の技術というものにヒントがあると思います。 魔法剣――つまり”エンチャント”技術に関する初等教育を受けておられる方ばかりであり、 なおかつ、先の時間においてもリリアリス女史が魔法”何”と説明されたばかりでした。 まずは、そのことを思い出していただきたい」
 魔法”何”……先ほどの腹筋崩壊の元となる”何”・”何”よが想起される――
 もとい、エンチャント技術の初等教育……基本は、何かしらの”もの”に魔法を宿すことから始まる。 エンチャントというものに携わる者、または魔法技術に関する知識のあるものであれば誰もが知る話だ。 そういったことから、魔法剣を使用する上では避けては通れない技術でもあるといえる、剣に魔法の力を付与するのだから。 そう、つまりは魔法”何”の話に集約されているわけだが――あれにヒントがあるとでもいうのか?
「つまるところ、”得物”というのではなく何か”もの”さえあればアリエーラ女史の使用した極意については理屈的に説明可能だと思っています」
 つまり、その”何”がどういった”もの”なのかということである。
「で、私が先ほどチャットでリリアリス女史に伝えた内容というのは、 その”もの”というのは――剣や槍、服でも紙でもなんでもいいですが、 そういった無生物のもののみならず、生きている物を対象にしていることに言及したのです」
 ん? 生物に魔法剣を宿せるのかということ!? まさか――

 ナキル氏は生物に魔法剣を宿す行為について言及していた。そんなことは――
「流石は”召喚名手”と言われるだけのことはあるわよね。 しかしどうかな、みなさんはどう思いますか?」
 ティレックスは考えた、そんなことはできないはずだ、できるとしたらその場合は人体に影響が出る――とにかく危険な行為なのだ。 だからそんな事したら――
「どう? できると思う?」
 お姉さんはシオラのところへ近寄って直接訊いていた。 シオラはマイク無しで答えたためか、ティレックスには聞こえなかった。 代わりにお姉さんがピンマイク越しに答えた。
「こちらの美人さんに訊いたところ、彼女は”できる”と答えたわよ。」
 えっ、できるのか!? ティレックスは驚いた。
「そうよ、原理的にはできる。 ”ダイレクト”や”スプラッシュ”型の魔法剣にしか興味ない人は何でと思うかもしれないけれども、 ”エンチャント”型や、特に”アドバンスト”や”リベレーション”型の魔法剣が好きな人ならわかるわよね。」
 そうですよ、どーせ”ダイレクト”や”スプラッシュ”型の魔法剣にしか興味ない人ですよだ、ティレックスはそう思った。