エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第2部 Rの名を冠する者 第3章 Rとの馴れ初め

第42節 批評

 質問の内容――召喚魔法剣に関する内容については往々にして大体想像可能な内容があるが、あまり多くはなかったようだ。
 だが、肝心の一番多かった質問は質問ではなく「この映画、見たい!」か「このゲーム、やりたい!」や「リリアさんやアリエーラさんを操作してみたい!」という感想ばかりである……いや、なんでだよ!
「大丈夫、今日は2本立てを予定しているからね。2本目は後になるけど、楽しみにしていてね。」
 何故か歓声が沸き上がった、だから内容おかしいだろ!  本当になんでだよ! 何が大丈夫なんだよ! ティレックスの疑問は尽きない――

 学生たちへの励みになる……気持ちはわからんでもないけれども、 それがなんでPV的なつくりになるのか、ティレックスとしてはどうしても腑に落ちなかった。 いや、自分が今まで戦い漬けだったせいなのだろうか、だからそういうことを寛容できる心も必要だということだろうか。
 そういえば以前にアールこと、リファリウスからこんなことを言われたのを思い出した。
「戦争はゲーム?」
「そう。所詮は大義名分のために大々的に仕掛けたことなんだけど、やっていることはスポーツのようなものと対して代わり映えしないものさ。」
 何がゲームだ、ふざけるな――最初はそう思ったけど、話を聞いていくうちにティレックスはその考えを改めることになった。
「だけど、戦争はゲームなんかじゃあない。」
「……さっき言ったことと違うようだけど」
「もちろん。そうなんだよ、ゲームであってゲームではない…… 戦争を仕掛けるお偉いさんはただのゲーム程度にしかとらえていないだろう、 当然、そんなこと言ったら全否定するだろうけど、そんな綺麗事並べたって当人が直接参加することはまずないんだし、 やっていることはスポーツ観戦と似たようなもの……つまりは結局ゲーム程度にしか捉えていないと言われるのがオチさ。」
 ゲームというのは勝ち負けを決めるものであり、そういう観点では確かに戦争にも同じことが言えるところがある。 ゲームも戦争も仕掛ける張本人たちはその行く末を見守りつつ、 自分が勝つためにいろいろと策を練る―― そう言われてみるとティレックスにも心当たりがあった、アルディアスが敗北することになったあの出来事だ。
「緑の丸印たちは自分が勝つために――ダイムの取引に応じて自分が得をするため、 連中は自分たちの手駒であるルダトーラ軍を捨てたんだ――」
「そう、所詮はゲームなんだよ。そしてキミらはゲームの手駒。 だけどその手駒たち――つまり現場で生死を分かつ戦いを繰り出している人たちにとってはあくまで戦いなんだよ。 いつ死ぬかもわからないという恐怖の中、日夜自分自身と戦いつつ敵の軍隊と戦う―― スポーツ選手だってそうじゃあないかな、相手のチームを倒すために日夜自分自身と戦い、相手のチームを倒すために戦う――。」
 そういう観点で見れば大体同じかもしれないが、戦争は――
「問題は戦争というのはスポーツと違って人の生き死にをふるいにかけるものであるのがよくない。 敗者は勝者の言うことを無条件で聞き入れ虐げられるのみだし、 死人は戦争の勝敗に関係なく人生がそこで打ち止めになってしまう――。 だからどうだろうか、世の中でこれほどくだらなくて残酷なゲームがほかにあるだろうか?  考えれば考えるほどバカバカしい世の中だよね。 だから正直思うんだけど――そんなに戦争がしたかったら他人を巻き込まず、 当事者同士で密室かなんかで殴り合いとか果たし合いとかで決着をつけてくれないかな。」
 それは名案だ!  だけど――そもそもアルディアスとマウナとの戦いはマウナによる侵略が要因―― そういう場合は誰がダイムと果たし合いをすることになるんだろうか。
 リファリウスの言う”戦争はゲーム”というのは戦争を仕掛ける当事者の観点からしたものか。 リファリウスの戦争に対する批判の仕方はなかなか独特で、”一旦上げてから落とす”手法にも似てなくもない、皮肉ともいえるだろう。 だが、その下げ方と言えばこれでもかと言わんばかりに徹底的に叩き落す内容――皮肉というより嫌味である。
 しかし、他人を巻き込んでまで権力を誇示したがる輩がいるのも事実――言えば言うほどバカバカしいものだ。
 そこでPVの話に戻るけれども、そんな連中が当たり前にいるこの世の中でこんな出し物を作るというのは、 ある意味ヤケクソに近いものなのかもしれない。綺麗事を並べるだけの偽善者たちに対する皮肉ともいえる。 この中で何人が戦争に向かうことになるんだろうか? そういう風になる日はそんなに遠くはないかもしれない。 いや、こういうPVを作成するために派手なパフォーマンスをこなす仕事ができるようになるというのもありだぞ、 現にそういう職業が実際にこの世界にはある―― だから戦争なんかにはいかずにこういう道をたどるのもありだというお姉さんの意思表示なのだろうか?

 講義の中休み、各人はそれぞれ講堂を退出して休憩を取っていた。 退出は必須で、大勢を収容する大講堂でデモンストレーションまで行っていることから空気の入れ替えも兼ねているのだそうだ。 だが、お姉さんらを含む一部関係者は例外で、その場にとどまっていた。 ということでティレックスは、相変わらず片手で頭を抱えているリリアリスの元へと近寄った。
「何よ、いまだにコテンパンにのされたことについて根に持っているの?」
 またイラついてる――近寄るとそう突きつけられた。 それはこの際どうでもいいのだが、ティレックスとしては「なんなんだこの講義は!」ということである。 それと、本当にその状態で大丈夫なのだろうか、そっちのほうも心配であるが――
「いいのよ、こういうのがウケるのよ。 人数も多くて各人で実践的なことをさせるといったことは現実的でないし、 女ファイター自体はいないわけでもないんだけど、私みたいのが結構珍しいんですって?  それこそ、サイン会というのも催したことだってあるわね、最近はやってないけど―― 人数多くて時間もとるし学園側にも迷惑がかかっちゃうから既に予め用意しているものを配布して終わりってことになっているけれど。 驚いたのは案外リスティーン=シルベリアの名前は結構有名なのね。 確かに本まで出したからそれなりに名は通っているとは思うけど―― そういうところまで知れ渡っていることを知らなかったなんて反省点ね――。 とまあ、エンブリアに対する私のインパクトは相応に強くて励みにもなったみたいだから、 欠かさずやることにしているわけよ。」
 高等魔法剣科目だったような気がするが、彼女にとってはもはや遊び感覚らしく、 確かに、それが示すように高等魔法剣科目とは関係のなさそうな人も講堂にいたようだ。
 それにしてもリスティーン=シルベリア……あれはあんただったのか、ティレックスは絶句していた。 彼女は各所で大活躍を納めているフリーのハンターで、華麗な剣さばきと銃の使い手で世間をにぎわせていた。 だが――リスティーンとは直接会ったことはないにせよ、ご尊顔だけは一応知っている、リリアリスとは似ても似つかない見た目である。 しかし、例のアンジェラ=ウェリアスへの変身もまったく顔が一致しないので、リファリウス同様にこちらの方の変装術も高度なものを採用しているということなのだろう。
 なお、今リリアリスが言ったようにリスティーンは本まで出している。 確かにリリアリスとリスティーンは顔こそ違えど、それ以外の印象はほぼ一致する。 そういうこともあってか、以前にこの場所で同一人物を言及する人がいたらしく、彼女はそのことについて暴露した。 以来、リリアリスは同一人物であることをひた隠しにせず、リスティーンの執筆本に自分の名前のサインを入れることにしたようだ。 なお、ティレックスもリスティーンの本を持っているが――まさか当人と一緒にいたなんて世の中わからないものである。 だが、実際に一緒にいて話をしてみるとこの人となりとは何とも複雑である――これはサインしてもらうべきか、それとも……どうしようか――。
「相変わらずですね、リリアさん!」
 すると、一人の女性が――先ほどミスリル銀繊維の布を渡されたその人が話しかけてきた。 そういえば彼女は退出せずにその場でじっとしていた。なんだか落ち着いた感じの女性であるが、例のアリエーラさんではなさそうだ。
「ふふっ、まあね。久しぶりね、シオりん♪」
 しおりん? どうやらこの女性はシオラという名らしい、知り合いなのか。
「ええ、せっかくのこの力ですからリリアさん見習って魔法剣を極めてみたいのですよ!」
「ふふっ、まったく――シオりんもアリもプリシラもわざわざ私みたいにならんだっていいのにさ。」
「いえ! リリアさんだからこそなんです! 私、できることが少ないのでもっともっと勉強したいです!」
「そう――気持ちはわかるけどね、ただ――」
 リリアリスは何かを言おうとしたけど首を横に振り、何かを思いとどまったようだ――えっ、何?
「ううん、なんでもない。そうね――シオりんなら絶対に素敵な使い手になれるわよ!」
「ええ、ありがとうございます!」
 何なんだろうか一体。とりあえず言えることとしては、リリアリスやシオラについてはいろいろと深い事情があるということらしい。 その話については別の機会にでも。