エンドレス・ロード ~プレリュード~

紡がれし軌跡 第2部 Rの名を冠する者 第3章 Rとの馴れ初め

第41節 戦乙女、降臨

 あれ? 確かアリエーラさんの話から派生していると思ったんだけど違う話になってないだろうか?
「アリの話から脱線しちゃってごめんね、アリ。」
 お姉さんはモニタに映っているアリエーラさんに対してそう言うとまた笑いが。 何故アリエーラさんに謝るんだ、対象が違うだろ。
「とにかく魔法剣とは何ぞやというお話はここまでにしておいて。 そして、昔との違いについてはみなさんもご存じのとおり、 魔法”剣”なのに使用可能武器が剣だけに限定されていないというのがあるわね。 ってか、パワーソースが魔法に限らないというのに、そうなると”魔法”・”何”なのか”何”・”剣”なのか、 そもそも”何”・”何”よって話になってキリがないわね。」
 これは――ティレックスの腹筋は崩壊した。 会場の笑いもここ一番のものだった。
「ということで、面倒だから便宜上”魔法剣”という名前で通っているというのが現状なのよね。」
 そして、ここでようやくアリエーラさんの話が登場するが、この話がすごい話だった。
「そこで魔法剣のパワーソースの原点である魔法に言及したお話をするんだけど。 アリといえば、ここにいる一部の人も知ってのとおり――」
 お姉さんは今度は学園にあるアリエーラさんのデータをモニターに出した。
「これはいつの写真? いつ撮っても美しさは衰えないわね。」
 会場の笑いはやっぱり絶えることはなかった。
「まあいいや。 ともかく、見惚れてほしいのはアリの美しさでなくて、ここに書いてある通りなんだけど召喚魔法の使い手なのよ。 美しさだけでなく、そこにいる”召喚名手”様も一目を置くようなものすごい使い手なのよね。」
 ”召喚名手ナキル”がいるのか? ティレックスはお姉さんが指さした方向を見ると、その人物は確かにおり、手を上げて応えていた。 すごい、本物がいるだなんて――やっぱりルーティス学園ってすごいところだな、”召喚名手”という名前を持つ通りの大人物だ。 そう、”召喚名手”という二つ名を持つ通り、先の大戦で大活躍した英雄の一人である。
「で、話はものすごく単純な話なんだけど、 ”魔法”剣と呼ばれながら未だかつて召喚魔法で魔法剣を実行したという事例が存在していないのよね。」
 召喚魔法で魔法剣? 確かにそういう話は誰も聞いたことがなかった。 しかし、言っても生物系を魔法剣の材料にする試みだ、そんなことができるのか?

 お姉さんは召喚魔法で魔法剣を行う――言うなれば”召喚魔法剣”の話題を出すと、それをいきなりやって見せた。 得物を振りかざして完了……うん? なんか忘れていないか?  いや、忘れてる――いきなりやって見せたはいいが特に前振りもなく、 よくわからないうちに終わりとか、もうちょっと説明みたいなのがあっていいだろう。
「ざっと、こんなもんね。」
 得物から湯気みたいな感じで何かが出ているが――説明求む……。
「要はあれだね、その――幻獣といっても精神エネルギーの塊みたいな状態で出てくるわけよ。 だからその状態のまま武器に宿す……というイメージだけの問題なのよね。とまあ、口で説明すればこんな感じ。 実際、召喚魔法の使い手であれば幻獣呼び出せるからそのイメージ、魔法剣の使い手であれば魔法剣が使えるわけだからそのイメージ、 ただそれをミックスしただけというイメージなわけよ。」
 そのまんまじゃないか! と思った人は多数だが、これはむしろ意外な盲点だったのかもしれない。 召喚魔法の使い手も魔法剣の使い手も、使い手としては双方ともに高度な技術を要するものである。 そのため、そのどちらもが中途半端な使い手だとしたら…… 召喚魔法の場合は幻獣を呼び出すだけでも大変で、幻獣に何かを行使させるまでが一人前、 魔法剣の場合も基本的には魔法と武技の両方を修得しなければならないわけで、 召喚魔法も魔法剣もこの両方やるというのは至難の業だ。 パワーソースは召喚魔法――あくまで魔法であるため、基本的な魔法が真っ当に使いこなせることはほぼ必須要件だ。 そのため、この両方やれて初めて召喚魔法剣が普通に使えるに至る、 それが現実的ではないからこそイメージでしか説明のつかない極意なわけだ。 しかし、このお姉さんはそれを見事にやってしまっているようだが―― 確かに年齢不詳のお姉さんだ、ふざけた内容のようで見事に伏線は回収されている―― というのも、常識的に考えて、この両方を使いこなすには相当な年月を要するためだ。 どんなに低く見積もっても、両方をそれぞれ体得するのに四半世紀はくだらないとされる。 そのうえでさらにプラスアルファで召喚魔法剣としてものにするにはさらに四半世紀ぐらいはかかるんじゃないかな、 トータルでざっと75年――さらに低く言っても50~60年の世界である、 これだけの年月をかけてまで使いこなすべき価値があるのだろうか、自分の寿命と相談になりそうな内容である。 そう考えると年齢不詳のお姉さんというのは案外ネタで言っているというだけのものではない可能性が高い。
 ただ、心残りとしてはその召喚魔法剣の発動中の見た目はさほど大したことがなさそうな光景である。
「ここで本気出して幻獣を呼んでやっちゃったら、この建物ごと吹っ飛んでしまうかもしれないから、 デモンストレーションはこれで勘弁してね。」
 ああ、それで出力を抑えているのか。 だが、お姉さんがそう言うと再び笑いが飛び交っていた……まさかこれも以前にデモンストレーション済?  笑いがあるということはたいてい以前もやっているということでもある。
「デモ不可な代わりに資料映像で。」
 と言うと今度はモニタに、自分が召喚魔法剣をやっている映像が流れた。
「そうそう、今回は”最新作”があるから期待しておいてね♪」
 すると今度は「おおー!」という歓声が上がった……”最新作”ってなんだよ。

 お姉さんはさっそく映像を再生させた。 映像のつくりはどこぞのPVですかばりな仕上がりだった、何を考えているんだ?
 神聖な感じのBGMが流れると、広い平原の中央に女性が――お姉さんが目をつむりながらゆっくりと現れた。 お姉さんはその場でうずくまり、祈りを捧げた。 セリフの音声や環境音などは全くないが、口の動きに合わせて字幕でセリフが表示されていた「出でよ、”ブレイブ・ネメシス”――」
 すると、黒くなった背景の中央にとても白くて神々しく美しい機体の幻獣が現れた。 機械生物のようで大きな天使の翼のような感じのものを大きく広げると、あたりに無数の天使の翼の羽根のようなものが舞い降りていた。 なんだこの演出は――”ブレイブ・ネメシス”という幻獣の特殊能力なのか?
 そして、迫力のあるブレイブ・ネメシスの出現シーンの演出の後、ブレイブ・ネメシスが巨大な光の塊となり、 お姉さんが得物を頭上に掲げると、得物に巨大な光が宿った。 得物の形状は特別変化はしないが、ぼんやりと天使の翼のような感じに見えるオーラに包まれているようにみえ、 さらにお姉さんの得物自体がビーム・サーベルのような実態のない刃と思しきものに見えた。
 そのままカットはお姉さんの顔にフェードインすると彼女は瞳を開け、にっこりと笑った「戦乙女、降臨。」
 そこからBGMは軽快で躍動感のあるものになり、目の前の強大な獣に立ち向かっていった。 ここから先の映像は既に”召喚魔法剣”とは関係ない感じがするが、綺麗な女の人―― アリエーラさんと思しき人物が魔法を使い、目の前にいる複数の魔物を退けた「リリアさん、今です!」
 そしてアリエーラさんの背後からお姉さんがその得物を携え、奥の魔物めがけて突進していく「ありがとう、アリ! あとは私に任せて!」
 そして、次々と軽快に大きな魔物をぶった切るお姉さん、敵は次々と打ち滅ぼされていく。 さらにその勢いでそのまま奥へ奥へと突き進み、巨大な魔物へと立ち向かっていく。 奥に待ち受けるさらに大きい魔物と対峙すると、上空へ飛び上がった。
 BGMはクライマックス感を醸し出すようなところに差し掛かると、 彼女は再び祈りをささげていた「悪しき者よ、滅び去れ。神技”セラフィック・クロス・ソード”――」
 本当にこの音はあっているのかどうかは不明だがどういうわけかこの技の環境音というか効果音だけはあり、 少し前からゴゴゴゴゴ……というような音とその文字列が現れると、彼女の手元に巨大な剣が現れ、 彼女はその剣を以て聖なる光を放ちながら下界の巨獣めがけて叩き潰した。 そのまま聖なる光は膨張し、遂には周囲すべての魔物を木端微塵にし、浄化が完了した。
 そしてその後、広い平原に無数の天使の翼の羽根のようなものだけが舞い降りていた。
 画面は変わるとお姉さんとアリエーラさんが仲良くハイタッチをし、 そのまま二人は仲良くを手をつないでそのまま平原の奥のほうへと歩いていった――
 これは一体……? 題材は確か召喚魔法剣だったような気がするが、別のものになっている――
「ふう、まあまあいい出来なんじゃないかしら?  映像のつくりに関してはいつものことだからということで受け流してね。」
 おい、その一番肝心なところに関しては答える気ないんかい。